鹿児島大学院 医歯学総合研究科 先進治療学専攻

腫瘍学講座 人体がん病理学 (旧第二病理)

ようこそ人体がん病理学(旧病理学第二講座)へ


米澤傑 教授













鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻
腫瘍学講座 人体がん病理学(旧病理学第二講座)教授 米澤 傑



  平成11年9月1日付けで、前任の佐藤榮一名誉教授の後任として、鹿児島大学医学部病理学第二講座を担当して、早いもので5年になろうとしています。この間、大学院部局化、独立行政法人への移行等、大学は激動の時代でした。名称も「病理学第二講座」から「人体がん病理学」へと変更されています。後藤正道助教授をはじめ、教室員全員の総力を結集してこの難局を乗り切ろうと日夜努力をいたしております。

医学教育について

 情報量がめざましく増大してきた現在、教育システムの体系的な整備を考える時期にきていると感じております。すなわち、詰め込み教育ではなく、「問題解決能力」を育成する自主的・積極的学習の推進がポイントになると考えます。そのような観点から、平成12年度より「チュートリアル教育」を取り入れる試みを始めました。また、能率的な学習のために、医学一貫教育への病理学の組み入れが必要であり、平成13年度からは「統合カリキュラム」の中に病理学各論が取り込まれました。さらに、平成15年度から始まった「臨床・基礎統合カリキュラム」では、臨床検査医学と病理学合同の「症候病態系」を新設し、病態生理学と病理形態学を有機的に関連づけて学習できるように努力しています。このような新しい教育方法により、患者さんを前にして疾患の病理像をイメージできる実践的病理学の訓練ができると考えています。 卒後教育の中心は、「大学院教育の充実」と「今日の医療が求める病理医」の育成です。大学院教育につきましては、学位論文を仕上げた時の喜びが次のステップの研究のバネになることが理想であります。医学部出身の大学院生に加え、歯学部の大学院生も研究に加わり、平成16年度にスタートした「修士課程」には工学部生体工学科出身の方が入学し、まさに「新風」を吹き込んでくれています。 平成16年度からの臨床研修制度の義務化に伴い、CPCレポートの作成が臨床研修を終了するための必須条件となりました。いかに臨床研修医全員にCPCレポートの作成を2年間のうちに完了させるかということも、我々の卒後教育の一環となっています。 一方、日本の病理医の数は米国の5分の1であるという現状が数年前の日本病理学会総会で取り上げられましたが、今後さらに多くの病理医を育成することが地域社会への貢献として緊急課題であると存じます。

診療業務について

 現在の学問体系におきましては、病理学は基礎医学の分野に入っておりますが、私どもの実際の日常業務のほとんどは、病理診断というまさに臨床医学です。私どもの病理学教室が、基礎研究棟ではなく臨床研究棟に、それも、大学病院に最も近い位置にあるというのも、大変理にかなったことであります。ただ、病理診断は「黙って座ればピタリと当たる」というものでは決してありませんので、正確な情報交換、すなわち、臨床医とのキャッチボールが何よりも大切であると常々感じております。 平成14年には、私どもが最重要課題として取り組んできました「病院病理部」が設置され、北島信一助教授を中心に臨床病理の充実が目に見えてすすんでおります。病理診断は、病変の種類(たとえば癌であるか癌ではないか)を組織標本で最終的に判断するほか、治療の効果を判断したり、手術中の検体について腫瘍の性格や広がりを診断したりと臨床医学の一つとして重要な役割を果たしています。細胞診は婦人科の検体を中心に、手術中の迅速細胞診も行っております。これらの業務は病理部と私ども「人体がん病理学(旧第二病理)」、お隣の「分子細胞病理学(旧第一病理)」の病理医や技師が一体となって協力して行っております。このことが、臨床に即した研究が行える基礎となっています。また、臨床科との合同カンファレンスに参加し、相互に討議することで診療の質の向上に努めています。 離島の多い鹿児島県におきましては、Telepathologyの導入も具体化する時期にきており、実際に我々の教室員が病理支援を行っている宮崎県都城市の三州病院では、すでに遠隔術中迅速診断を導入し、実績を積み上げつつあります。

 もう一つの病理学の大きな業務であります病理解剖については、昨今、全国的にも病理解剖数の減少が大きな問題となっていますが、当大学におきましてもまさにその傾向は顕著です。画像診断をはじめとする診断技術の発展や手術手技の向上により、病理解剖をするまでもなく患者さんのことはすべて分かってしまっていると思いがちなところもあるようですが、やはり病理解剖により、実際の臓器を手にとってつぶさに観察することにより疾患の本質・真実に迫れる訳であり、病理解剖によって初めて明らかになる病態や病変が見つかることあります。いかに診断や治療の技術が向上しようとも病理解剖の重要さは色あせませんし診断・治療のさらなる向上のためには病理解剖の重要性はさらに増してきているといって過言ではありません。

これまで、医学部長宛であった病理解剖の申し込みを、平成16年4月からは、平成15年10月に医学部附属病院と歯学部附属病院が統合してできあがった新しい「鹿児島大学病院」の院長宛に変更し、名実ともに、病院病理部が、外科病理のみならず、病理解剖も、その中心的役割を果たし、私ども「人体がん病理学(旧第二病理)」と、お隣の「分子細胞病理学(旧第一病理)」が、それを全面的に支援するという万全の態勢をとっています。

研究について

 私どもの教室はこれまで一貫して「人体病理学」を研究テーマの中心にしてきました。中でも、癌の産生する糖蛋白、ことに、「ムチン」に焦点をあてた研究を行い、「ヒト腫瘍におけるムチン抗原発現と腫瘍の生物学的悪性度との関連の研究」に最も力を注いできました。

 巨大分子であり、その分子的構造が多様であるがゆえに、ムチン抗原の癌における発現の意義の解明については混沌としている状態です。現在まで知られているMUC1からMUC17までのムチンのうちでも、ことに、膜型ムチンの「MUC1」と分泌型ムチン(腸型)の「MUC2」の発現を、様々なヒト腫瘍において免疫組織学的に検索したところ、食道、胃、膵、ファーター乳頭部、肝内胆管、肝外胆管、乳腺といった様々な臓器の腫瘍において、MUC1発現は浸潤性増殖に関連する予後不良因子であり、MUC2発現は膨脹性増殖に関連する予後良好因子であるという原則があることを明らかにしてきました。また、MUC1やMUC2 の遺伝子発現機構もin situ hybridizationを用いた(もちいた)分子病理学的研究により解明してきました。ムチンの基礎的研究についてはかなりのデータが蓄積されてきていますが、その臨床医学との関連については、まだほとんどデータがありません。最近になって、国内外の他の研究機関による追試研究により、MUC1が「悪玉」であり、MUC2が「善玉」であるという私どもが提唱してきました原則が、広くサポートされるようになってきました。まさに、MUC1とMUC2の発現についての私どもの先駆的研究が、ヒト癌におけるムチン発現に関する研究のオピニオンリーダーとなっており、その研究成果がWHO分類にも引用されています。ことに、最近は、ヒトの膵胆管系腫瘍におけるムチン抗原発現の研究が欧米で盛んになり、「誰が一番最初に発表したのか」と検索すると、必ず、10年以上前に国際医学雑誌に発表していた私どもの論文に辿り着くことになり、国際学会でのシンポジウムに日本を代表して発表の機会を与えられたり、欧米の研究者達が、鹿児島大学の病理がムチンの研究の本家本元であるということを言い出してくださり、それが日本へ「逆輸入」されて、日本の学会でも度々招請特別講演やシンポジストの機会をいただいたり、解説論文を書くように指名されることが多くなってきました。また、平成10年度からずっと引き続いて、科学研究費を配分され「ムチンの遺伝子発現機構」を解明する強力な国際ネットワークを組織することができ最先端の国際研究交流をすすめております。

 以上のように、ムチン発現の臨床応用という面では、鹿児島から世界に向けて発信した私どもの研究が世界をリードするまでになってきました。ごく最近、私どもは、胆管細胞癌において、気管支型の膜結合ムチンMUC4の発現が独立した予後不良因子であるという発見もし、さらに、ムチンの発現様式を加味した膵や胆管系の腫瘍の新しい組織分類をも提唱することができ、さらに世界を一歩リードしようとしています。このような研究業績が積み上げられてきましたのも、ひとえに教室の若いメンバーの努力の結晶です。今後は、その確固たる基盤の上に、一方は、臨床応用という「実用化」、一方は、発現の意義の解明という「真理探究」の面に、研究を展開してゆきたいと思っています。

 ごく最近、私どもの研究室も本格的に分子生物学的検索が行えるようになり、ムチンの遺伝子発現がプロモーター領域のDNAメチル化等のエピジェネティックな分子機構によってどのように規定されているかをmethylation specific PCR(MSP)やbisulfite genomic sequencing により明らかにしつつあります。また、その結果をもとに、診断・治療に役立つ分子生物学的特異マーカーとしての高感度MSP用プライマーが作製できる見込みです。すでにMUC2に関しては、有力なMSP用プライマーの開発を進めつつあり、そのプライマーを使用し、すでに完備されているレーザーキャプチャーマイクロディセクションやリアルタイムPCRの機器を駆使して、様々なヒト腫瘍組織からムチン抗原の発現陽性・陰性細胞をマイクロディセクション法により採取し、ムチン抗原の発現へのDNAメチレーションの関与を解明することにより、ムチン遺伝子の発現機構の解明に迫ることができると期待されます。

 後藤助教授の主な研究テーマである「神経病理学」も本格的な教室の研究テーマとして取り組んでおりますし、後藤先生が前任地で副園長として活躍していた鹿屋市のハンセン病施設「星塚敬愛園」との共同研究として、ハンセン病の本質に迫る研究はもちろん、アジア各地のハンセン病にも取り組む社会医学的な分野へも研究の幅を広げて行くことも、私どもの教室の大きな「柱」です。詳しくは後藤准教授のページをご覧下さい。




 以上、私どもの教室の現状を御紹介して、私の御挨拶といたしますが、新卒の方、初期臨床研修を終えた方、基礎・臨床を問わず研究や診療経験をすでに何年も積んでいらっしゃる方、さらには、医学部以外の学部出身の方、そして、もちろん鹿児島大学出身以外の方々、どのような方でも、自分の将来の方向に迷いが出た時には、ひとまず鹿児島大学の「人体がん病理学(旧第二病理)」にいらしてみてください。その後、病理の専門医になるもよし、病理以外の基礎あるいは臨床に自分の未来を見出すもよし、きっと自分の方向が見えてきます。「新医師臨床研修制度(スーパーローテート)」の選択に病理を組み込んでみるのもお勧めです。

(2004年6月)

鹿児島大学医学部第二病理学教室 同門会 挨拶


鹿児島大学医学部医師会報 第27号 平成19年度

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