結核

 

結核の概要

(1)         結核とは

抗酸菌属に属する結核菌によって起こる感染症である。結核の約90%は肺結核であるが、残りの10%は肺外結核で、この中には結核性髄膜炎、骨関節結核、腎臓結核などいろいろな臓器の結核症が含まれる。

病型の分類

1)      肺結核(気管支結核)

2)      肺外結核:髄膜、骨、関節、腎、尿路、生殖器、リンパ節、漿膜(胸膜、腹膜、心膜)、喉頭、消化管(腸結核)における結核。

3)      粟粒結核

 肺にできた初期変化群の病巣から、@リンパ行性、A血行性、B管内性という三つの経路を通り結核菌は全身のどの臓器、器官にも到達し、そこに病変を作る可能性がある。

 

(2)         結核菌の細菌学

1)      結核菌は長さ1m、幅0.20.mの細い長いやや弯曲を示す桿菌である。

2)      ろう様物質を多量に含有しており、その為乾燥や熱や薬品に対して抵抗力が強く、埃に混ったり衣類についた菌も長く生きている。

3)      紫外線に弱いため直射日光に曝すと数時間で死んでしまう。100℃の煮沸では5分以上、60℃の煮沸で2030分。

4)      増殖に時間がかかり、培養には48週間かかる。

(3)         結核菌の感染様式(空気感染)

患者の咳嗽等により空気中に飛散した飛沫の中に含まれる結核菌を吸入することにより成立する。比較的大きな飛沫は急速に落下し、一方飛沫を構成する水分は速やかに蒸発するため、飛沫核である結核菌はブラウン運動をしつつ空気中に長く漂う。実際の感染様式は空気中に浮遊する飛沫核(結核菌)を吸い込むことによる空気感染で、麻疹、水痘と同じ感染様式である。

(4)         結核発病の危険が高い患者

結核発病の危険が高い患者にはHIV感染患者、糖尿病患者、胃切除の既往のある患者、悪性腫瘍治療中の患者、副腎皮質ホルモン薬治療中の患者、透析患者、珪肺患者、胃潰瘍治療中の患者、アルコール中毒患者、低栄養患者、最近の明らかな感染者との接触歴がある患者などがある。

結核の検査

2週間以上持続する咳や結核を否定できないような胸部異常陰影を呈するなど結核が疑われる患者には、速やかに喀痰を異なる日に3回採取し(3連痰)、抗酸菌検査(塗抹・培養)を行うべきである。喀痰が採取できない場合には胃液あるいは気管支鏡等による検体の採取を検討する。オーダは細菌検査の「*4 抗酸菌」のタブを利用する。

1)      抗酸菌塗抹検査(ガフキー号数)について

抗酸菌塗抹検査(鏡検)における検出菌数は現在院内ではガフキー号数で報告される。

塗抹陽性の場合には直ちに細菌検査室にPCR法による結核菌の迅速診断を依頼する。

 

ガフキー1

全視野に14個 

ガフキー6

1視野に712

ガフキー2

数視野に1

ガフキー7

1視野に1325

ガフキー3

1視野に1

ガフキー8

1視野に2650

ガフキー4

1視野に23

ガフキー9

1視野に51100

ガフキー5

1視野に46

ガフキー10

1視野に100個以上

※『新結核菌検査指針』ではガフキー号数での表示から1+3+の簡便な記載法に改められている。概ね1+G22+G53+G9に相当する。菌量が多いほど感染危険度が増す。

2)      抗酸菌培養

抗酸菌培養には固形培地(小川培地)と液体培地(MGIT法;迅速性、検出感度ともにすぐれる)がある。抗酸菌は発育が遅いため、いずれの検査も多くの日数を必要とする。陰性を確認するまでに固形培地で8週間、液体培地を用いた場合でも6週間を要する。

※結核培養陽性(とくに初回)の場合には薬剤感受性試験の依頼も行う。

3)  核酸増幅検査(PCR法)

直接検体から菌の遺伝子を検出するPCR法などの核酸増幅法検査がある。1検体月1回まで保険算定が可能である。結核菌群だけでなく M. avium  と M. intracellulareも検出可能であり、塗抹陽性検体の迅速な鑑別を行うことができる。細菌検査室への検査依頼から13日で結果が報告される。

培養陽性検体を用いる方法には核酸増幅法検査に加えDDHマイコバクテリア法があり、結核菌群を含め18種類の抗酸菌を同定することができる。

4) IGRA (Interferon-Gamma Release Assay)

結核菌抗原刺激による患者血液T細胞からのIFN-γ産生の有無により、結核菌に対する細胞性免疫の有無を確認し感染しているかどうかを判定する検査であり、結核患者との接触検診(潜在性結核症の診断)や活動性結核の補助診断に用いることができる。る。ツベルクリン反応も結核菌に対する細胞性免疫の有無を確認する検査ではあるが、BCG接種の影響をうける等の欠点がある。

Ø  クォンティフェロンTbゴールド(QFT

患者血液(全血)を結核菌特異抗原で刺激し、IFN-γをELISA法で定量する方法である。感染暴露後QFT陽性までの期間の詳細な検討は未だ行われていないが、ツベルクリン同様と考えれば、810週と考えるのが妥当とされるため、接触検診の際のQFT検査は原則、最終接触から23か月後に行う。

Ø  T-spot TB

新しいタイプの結核補助診断キットであり、enzyme-linked immunospot(ELISPOT)法を用い、通常のヘパリン採血管で実施が可能である。末梢血単核球を精製分離して血球数を標準化させることで、患者の免疫状態に関わらず良好な感度を保つというデータが発表されている。

HIV感染者や免疫抑制剤服用者などでは、結核に感染していてもQFT陽性と判定されない場合もある。また、一部の非結核性抗酸菌(M. kansasii, M. szulgai, M. marinumなど)の感染でも陽性となることがある。

感染経路の遮断

1)         飛沫の発生を抑える。

結核または結核疑い患者は、同意を得て、サージカルマスクを着用させる(患者へのN95マスクの着用は不適である)。

2)         空気中の浮遊飛沫核(結核菌)を除去する。

一般病棟の個室の場合、ヘパフィルターの設置、あるいは、一定時間毎に窓を開けるなど換気を行う(独立空調でない場合には空調を止める)。

3)         肺への吸入を防御する(高性能マスク:N95マスク)

医療従事者および面会者は、結核または結核疑い患者の病室に入室する際、N95マスクを着用する。この際、N95マスクは、正しく着用し、フィットチェックで確認する。

結核患者あるいは結核が否定でない患者に対して、感染曝露の高リスクである処置(気管支鏡検査、気管内送管、吸引、膿瘍の潅流、剖検、喀痰および咳を誘発させる吸入療法など)を行う際は、医療従事者は必ずN95マスクを着用する。

結核の診断と管理体制:一般病棟で抗酸菌を検出した場合の対応

喀痰の抗酸菌塗抹検査で陽性となった場合、細菌検査室は主治医、ICTに緊急連絡を行う。結核菌または非結核性抗酸菌の可能性があり、両者の鑑別が必要である。主治医は病棟リスクマネージャーへ至急連絡し、結核が空気感染であることを念頭に、緊急に以下のことを行う。

患者への対応

1)      主治医は細菌検査室に結核菌のPCR検査を依頼する。 PCR法により、結核菌と非結核性抗酸菌の鑑別が可能である。結果が出るまで13日かかる。

2)      主治医は、患者に抗酸菌が検出されたことを説明し、PCR検査の結果がわかるまで空気感染対策を実施するため、感染病室(歯科病棟)病棟医長または同病棟師長に連絡し、入室を検討する。 感染病室での管理が不可能な場合は、一般病棟の個室に隔離する。ただしガフキー1号の場合、PCR法で結核菌が確認されるまでは各病棟で管理してよい。最終診断は培養検査によって確定する。

3)      医療従事者の入室時にはN95マスクを着用し、患者には同意を得たうえでサージカルマスクを着用させる(患者にN95マスクはしない)。

4)      空気感染対策の実施は喀痰からの結核菌PCRが陰性であり、CT等画像検査で肺結核を積極的に疑わないと判断した場合解除する。呼吸器内科とも相談の上、肺結核の精査が必要と判断された場合は、IGRA検査や胃液抗酸菌検査、気管支鏡検査なども合わせ感染性の有無が判断されるまで空気感染対策を実施する。

5)      喀痰以外(気管支洗浄液、胃液、尿、便、穿刺液など)の検体から抗酸菌塗抹が陽性となった場合は、必ずしも空気感染対策の必要はない。結核菌の排膿のある開放創の場合は、空気感染対策をとる。臨床症状により個室隔離を考える。咳がみられる場合は、喀痰抗酸菌培養と塗抹検査を提出する。

6)      結核と診断された場合、主治医はただちに(24時間以内に)医務課医療福祉係(内線5162)を通じて保健所へ届出を行う(届出票)。(休日の場合は鹿児島市保健所へFAX(099-803-7026)を行い翌平日に届け出を行う。)届出用紙はカルテにもスキャンする。潜在性結核感染症を含む結核の届出を行った場合は保健所から調査のため直接問い合わせがあることをあらかじめ患者に通知すること。

 

接触者への対応

1)      病棟リスクマネージャーはICTと相談の上、接触患者(同室者など)、接触した医療従事者のリストを作成する(接触者リスト原本)。

2)      接触者検診の必要性、内容については保健所と相談し、指示に従う。

3)      IGRA検査の前値を確認するために患者発覚後できるだけすみやかに接触者のIGRA検査を行う。

4)      上記検査は、塗抹陽性結核患者や塗抹陰性でも強い咳嗽や空洞を有する結核患者の診療・ケアをN95マスクを着用せず行った職員を対象とする。

5)      前値の検査ですでに陽性となった場合は、呼吸器内科を受診し相談する。

6)      2回目の職員のIGRA検査は、接触後23か月後に行い、前値と比較する。

7)      接触患者の接触者検診は、保健所が主体となって行うので協力する。接触患者には、保健所から直接問い合わせや調査が行われる旨を通知する。

8)      IGRA検査が陽性になった職員は、呼吸器内科を受診し、発症の有無、結核感染の判断、化学予防の必要性を検討する。

9)      喀痰、咳嗽、微熱など結核発症が疑われる接触者では、早めに喀痰検査、胸部エックス線検査を実施する。

10)   保健所から接触者検診の必要性はないが、接触者への健康上の注意を喚起するよう指示があった場合は、文書により接触職員へ通知を行う。

11)   触職員については、濃厚接触者に対し健康上の注意を喚起するよう文書で通知する。それ以外の職員に対してはリスクマネージャー等に健康上の注意を喚起するよう文書で通知し、所属職員に注意を促す。

結核または結核菌感染が強く疑われる患者の手術部における予防対策

1 肺・気管支・喉頭結核発症者は可能であれば排菌が陰性化するまで手術を延期する。

2) 陰圧空調が整備された部屋で行う。

3) 手術順番はその日の最後とする。

4) 手術に携わる医療従事者は必要最低限の人数とし、N95マスクを着用する。

5) 麻酔器回路にバクテリアルフィルターを使用する。

6) 未発症の潜在性結核感染症患者や現在非活動性である結核既往者は対象としない。

7) 手術部・麻酔科への連絡は確実に実施する。

結核感染のリスクの高い職員を対象とした定期的IGRA検査

当院では、患者からの結核菌曝露が起こりやすく、また曝露時期を特定できないことがある職員(呼吸器内科医師等、呼吸器外科医師、感染病室担当看護師、救急部医師・看護師、細菌検査技師、病理部の術中迅速診断、病理解剖に関わる職員)を対象に、年1回定期的に実施する。陽性者または判定保留者については、呼吸器内科を受診する。