抗菌薬適正使用マニュアル

2006年作成、20123月改訂20138月改訂

目次

A. 総論 抗菌薬を適正に使うために 

 A.1 抗菌化学療法の基本的事項    

 A.2投与方法

  A.3 治療効果の判定

A.4 抗菌薬の排泄経路

A.5抗菌薬の移行性

B. 各論

 B.1 細菌性髄膜炎 Meningitis        

  B.1.1 成人細菌性髄膜炎診療時の留意事項

  B.1.2  細菌性以外の髄膜炎(脳炎)の治療    

   B.1.2.1 クリプトコッカス髄膜炎      

   B.1.2.2 単純ヘルペスウイルス症(単純ヘルペスウイルス脳炎)

     B.1.3 小児の細菌性髄膜炎 

 B.2 院内肺炎 Hospital acquired pneumonia                    

 B.3 結核

 B.4 敗血症 sepsis、感染性心内膜炎 Infective Endocarditis Febrile neutropenia

  B.4.1 敗血症 sepsis         

  B.4.2 感染性心内膜炎 Infective Endocarditis            

  B.4.3 感染性心内膜炎の予防投与        

  B.4.4 血管内留置カテーテル関連血流感染症

 B.5 好中球減少時の発熱 Febrile Neutropenia             

B.5.1 Febrile Neutropenia 診療時に必要な検査         

B.5.2 Febrile Neutropenia 治療 

B.5.3 Febrile Neutropenia抗菌薬の予防投与 

B.5.4 Febrile Neutropenia広域抗菌薬不応性の発熱に対する抗真菌薬治療  

B.5.5 Febrile Neutropenia抗真菌薬の予防投与  

B.5.6 Febrile Neutropenia抗ウイルス薬の予防投与  

B.5.7 Febrile Neutropenia造血増殖因子・免疫グロブリン・選択的消化管除菌

B.5.8 Febrile Neutropenia環境に対する注意事項

 B.6 尿路感染症

  B.6.1 (急性)単純性膀胱炎          

  B.6.2 (急性)単純性腎盂腎炎      

  B.6.3 複雑性尿路感染症

  B.6.4カテーテル関連尿路感染症(CAUTI

 B.7 腹膜炎 Peritonitis    

  B.16.1 原発性細菌性腹膜炎        

  B.16.2 続発性腹膜炎    

 B.8 胆道感染症             

  B.17.1 急性胆嚢炎         

A. 総 論 抗菌薬を適正に使うために

A.1. 抗菌化学療法の基本的事項

1)        必要と判断した場合のみ、抗菌薬を選択して投与法、投与量、投与期間を決める。

2)        感染巣(臓器)と具体的病原菌を必ず想定する。

3)        抗菌薬の併用はエビデンスに基づいた適応例のみに限定する。

4)        抗菌薬以外の併用薬との相互作用にも十分に注意する。

5)        目的の不明確な抗菌薬の長期投与を避ける。

6)        周術期の予防的投与には手術の清潔度と部位により投与時期と抗菌薬の選択をする。

A.2. 投与方法

@       濃度依存的に作用するもの(フルオロキノロン系、アミノグリコシド系など)

濃度依存的に作用する抗菌薬は最高血中濃度に依存して効果を示す。さらに、PAE (post antibiotic effect:持続性)作用を持つことが知られている。したがって、1日量が同じであれば、12-3回に分割して投与するより、1回で投与した方が有効である。

A       時間依存的に作用するもの(β-ラクタム系;ペニシリン系、セフェム系など)

時間依存的に作用する抗菌薬はMIC(最小発育阻止濃度)以上の濃度で、菌と接触する時間が長ければ長いほど、有効である。したがって、12回よりも、13-4 回投与の方が有効である。

 

表 抗菌薬の作用様式による分類とPK-PD indexとの関係

抗菌作用

薬物(系)

PK-PD index

作用様式

持続性

濃度依存型

長い

ニューキノロン系、アミノグリコシド系、ケトライド系、環状リポペプチド系、ポリエン系、キャンディン系

Cmax/MIC

AUC/MIC

時間依存型

短い

β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)、アズトレオナム系、クリンダマイシン、エリスロマイシン、フルシトシン

Time above MIC%

時間依存型

長い

テトラサイクリン系、グリコペプチド系、キヌプリスチン・ダルホプリスチン、アジスロマイシン、リネゾリド、アゾール系

AUC/MIC

Craig WA. Clin Infect Dis, 26: 1-12, 1998. Scaglione F. Int J Antimicrob Agents, 19: 349-353, 2002.

A.3 治療効果の判定

1)      抗菌薬投与開始後は原則として3日目前後にその治療効果の判定を行う。判定には細菌培養検査結果のみならず、患者の全身状態や感染臓器の状態を観察する。また、発熱、CRPWBC、赤沈の改善、胸腹部画像検査所見の推移などを治療の有効性の判断に用いる。

2)      抗菌薬を開始しても解熱しない場合はウイルス感染、他の発熱疾患や膿瘍の可能性を考えるとともに、細菌感染であっても不適切な抗菌薬、投与方法、投与量、投与間隔となっていないか検討する。

3)      抗菌薬開始後、解熱したのちに再度の発熱が認められた場合は薬剤熱や静脈炎、二次感染なども考える。

A.4 抗菌薬の排泄経路

ほとんどの薬剤は腎排泄と肝・胆道排泄に分けられ、腎排泄の薬剤は腎機能低下時に、肝・胆道排泄の薬剤は肝機能低下時に減量など投与量の変更を考慮する必要がある。

 

表 腎臓排泄と肝臓排泄

主として腎排泄(腎機能低下時投与量変更)

腎・胆道両方(極度の腎機能低下時のみ投与量変更)

主として肝・胆道排泄(基本的には腎機能低下時投与量変更不要)

ペニシリン系

セファロスポリン系(セフォペラゾンを除く)

カルバペネム系

グリコペプチド系

フルオロキノロン

レボフロキサシン

アミノグリコシド系

アズトレオナム

テトラサイクリン

ST合剤のうちトリメトプリム

セフトリアキソン

クラリスロマイシン

シプロフロキサシン

ST合剤

セフォペラゾン

クリンダマイシン

ドキシサイクリン

ミノサイクリン

アジスロマイシン

エリスロマイシン

メトロニダゾール

クロラムフェニコール

リファンピシン

ST合剤のうちスルファメトキサゾール

青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル第2, 2008.

 

腎排泄型薬剤の腎機能障害時の抗菌化学療法

初回投与量は腎機能正常者と腎機能障害者において、同様でなければならない。なぜなら、初回投与の目的は、人体という一定の容積の容器に一定量の治療薬を入れて、一定の濃度を作ることである。腎機能低下時はこの容器からの排泄が遅くなっているだけで、一定の容積に一定の濃度を作る作業は腎機能正常者、腎機能障害者において同じである。したがって、腎機能障害の有無にかかわらず、初回投与は通常量を投与し、維持量については腎機能に合わせて調節する。

維持量はクレアチニンクリアランスに従い決定する。ただし、筋肉量が少ない患者では、腎機能が低下しても血清クレアチニンが上昇せず、見かけ上、腎機能正常と評価してしまい、過剰投与になる可能性がある。このようなときは、尿量、BUN、シスタチンCなどをチェックし、投与量を決定する。逆に、多尿の場合は通常量では過小投与になることがあるので、患者状態を注意深くモニターしながら投与する。

 

肝・胆道排泄型薬剤の肝機能障害時の抗菌化学療法

明らかな肝硬変、凝固異常が出現するほどの肝機能障害をもつ患者では、減量など投与量の調節を考慮すべきである。しかし、肝機能障害の程度による抗菌薬の調整方法に関するエビデンスは少なく、また、肝予備能は個人差が大きいため、一概に投与量を決めることはできない。効果と副作用を評価しながら使用すべきである。

A.5抗菌薬の移行性

試験管の中でいかに優れた抗菌活性を示しても、実際に感染を起こしている組織に移行・浸透しなければ意味がない。特に、中枢神経系や前立腺などは抗菌薬によっては移行しないものがあるので、移行のよいものを知っておく必要がある。

例)前立腺への移行がよいもの:ST合剤、キノロン系、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、アジスロマイシンなど。

 

表 中枢神経系への移行性

髄膜に炎症がなくても移行する

髄膜に炎症があるときのみ移行する

髄膜に炎症があっても移行しない

メトロニダゾール

リファンピシン

ST合剤

クロラムフェニコール

ペニシリン

アンピシリン

ピペラシリン

ナフシリン

クロキサシリン

セフトリアキソン

セフォタキシム

セフチゾキシム

セフタジジム

セフェピム

セフロキシム

アズトレオナム

イミペネム

メロペネム

フルオロキノロン(シプロフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン)

バンコマイシン

フルコナゾール

ボリコナゾール

フルシトシン

アミノグリコシド

セフォペラゾン

クリンダマイシン

12世代セフェム

イトラコナゾール

マクロライド

青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル第2, 2008

 

表 臓器別の移行性

 

高濃度移行群

中等度移行群

低濃度移行群

呼吸器系

マクロライド系、ニューキノロン系

テトラサイクリン系、アミノグリコシド系

β-ラクタム系

胆道系

リンコマイシン系、ニューキノロン系、マクロライド系、テトラサイクリン系、セフェム系、ペニシリン系

モノバクタム系、ホスホマイシン系、セフェム系、ペニシリン系

アミノグリコシド系、カルバペネム系

尿路系

アミノグリコシド系、ポリペプチド系、グリコペプチド系

β-ラクタム系、ニューキノロン系、テトラサイクリン系

 

マクロライド系、リンコマイシン系

食細胞

リファンピシン、マクロライド系、ニューキノロン系、クロラムフェニコール

リンコマイシン系、テトラサイクリン系

β-ラクタム系、アミノグリコシド系

山田舞子 ほか. 感染対策ICTジャーナル, 6: 48-53, 2011.

B. 各 論

B.1 細菌性髄膜炎 Meningitis

B.1.1 成人細菌性髄膜炎診療時の留意事項

1)    項部硬直などの典型的な症状は全例には見られない(高齢者では35%程度)のでまずは疑うことが診断への第一歩である。

2)    典型的な細菌性髄膜炎の髄液所見は@45mg/dl 以下A蛋白500mg/dl 以上B細胞数1000以上(多核球優位)と言われているが、実際の細菌性髄膜炎の髄液所見は多岐にわたるので、髄液所見が典型的でなくても髄膜炎が疑われれば早期に専門医に相談し抗菌薬の使用を考慮する。

3)    抗菌薬は髄液移行性の観点から可能な限り最高量を用いる。βラクタム系薬は分割投与(14回)が望ましいが、我が国の一般的な投与量では1回投与量が不十分となることも危惧されるので、髄液内濃度と原因菌のMICから投与量を調節する。

4)    抗菌薬の使用期間は7~14日、結核性髄膜炎の場合は12~24ヶ月間、グラム陰性桿菌による髄膜炎では基礎疾患や患者状態を加味して比較的長期(12~21日間)の投与が目処となる。しかしいずれの場合も臨床症状・徴候・検査所見を参考にして決定する。

5)    近年インフルエンザ菌や肺炎球菌髄膜炎では。抗菌薬投与前の副腎皮質ステロイドの短期使用(デキサメタゾン0.15mg/kg/回を142~4日間静注)の有用性が報告されている。しかしこの場合は原因菌に有効な抗菌薬の十分量の投与がなされていることが前提となる。

6)    成人の細菌性髄膜炎の原因菌の頻度は肺炎球菌が最も多く次いで髄膜炎菌、グラム陰性桿菌、リステリア属、インフルエンザ菌などである。このうち、髄膜炎菌は人を唯一の宿主として人から人へ飛沫感染で伝播する。

7)    リステリア属は乳幼児に多いが成人では60歳以上、担癌患者、副腎皮質ステロイド使用患者、糖尿病、肝・腎障害、H2ブロッカーやプロトンポンプ・インヒビター薬服用中の患者(胃液pHの低下)などがハイリスクグループとされる。我が国では市販されている食肉類のリステリア属による汚染率が極めて高く健康成人の数%がリステリア属の保菌者であるといわれている。

成人細菌性髄膜炎診療時に必要な検査

1)     末梢血検査(白血球数、白血球文画含む)、赤沈、CRP

2)     髄液検査*(脳圧亢進が著しい場合=巣症状がある場合は禁忌)。

検査項目

@    細胞数及び分画(多核球、単核球)、髄液糖(血糖も必ず測定)、髄液蛋白

A    培養(細菌、真菌、結核菌)、グラム染色、抗酸菌染色、墨汁染色

B    結核菌PCR、髄液中アデノシンデアミナーゼ(ADA)**

C    必要・可能であれば髄液中クリプトコッカス抗原などのラテックス凝集反応、Herpes simplex virus PCR、トキソプラズマ抗体など

D    可能であれば残った髄液は凍結保存する

3)     血液培養2セット***

 

*:治療経過は可能な限り髄液所見で確認していく。CRP、末梢白血球のみに頼らない。

**ADA は髄液中濃度8.5IU/lで結核性髄膜炎が疑われるといわれる(診断の感度は57%、特異度は87%)。しかし重症の細菌性髄膜炎やHIV陽性者では偽陽性となることもある。

***:抗菌薬未投与患者でグラム陽性菌が原因菌だった場合は5070%で陽性となる。髄膜炎菌が原因菌だった場合には陽性率は低い。

各種患者背景における成人細菌性髄膜炎のempiric therapy

 

患者背景

推定される原因菌 

使用抗菌薬

免疫不全無し

18~60歳 

肺炎球菌、髄膜炎菌

3世代セフェム系薬*

カルバペネム系薬**

60歳以上

肺炎球菌、リステリア属

アンピシリン

グラム陰性桿菌

+第3世代セフェム系薬、

  カルバペネム系薬

免疫不全患者

肺炎球菌、髄膜炎菌

リステリア属、

グラム陰性桿菌(緑膿菌含む)

同上

頭蓋骨骨折患者 

肺炎球菌、インフルエンザ菌

A群レンサ球菌

3世代セフェム系薬

頭部損傷

黄色ブドウ球菌

バンコマイシン***

脳神経外科手術後

表皮ブドウ球菌

+第3世代セフェム系薬、

グラム陰性桿菌(緑膿菌含む)

バンコマイシン

+カルバペネム系薬

脳脊髄液シャント

黄色ブドウ球菌、 表皮ブドウ球菌、グラム陰性桿菌(緑膿菌含む)

同上

*:セフォタキシム、セフトリアキソン、セフェピム、セフピロム。

**:髄膜炎に対する保険適応があるのはパニペネム/ベタミプロンとメロペネム。

***:バンコマイシンの保険適応疾患はMRSA感染症のみ。しかしβラクタム系薬剤にアレルギーがある患者では感性菌であれば使用せざるを得ない。髄液移行が低いので4g/(10.5g6時間毎、または12g12時間毎)使用するが、血中濃度のモニタリングが必要。

 

成人細菌性髄膜炎における各種原因菌に対する抗菌薬の選択

 

原因菌

第一選択薬

第二選択薬

肺炎球菌

PSSP

 ペニシリン系薬* 

第三世代セフェム系薬**

カルバペネム系薬***

PISP

第三世代セフェム系薬

カルバペネム系薬

バンコマイシン

PRSP

カルバペネム系薬 

第三世代セフェム系薬

+バンコマイシン

インフルエンザ菌

βL非産生&ABPC感受性

アンピシリン

第三世代セフェム系薬、

一部のカルバペネム系薬

βL非産生

ABPC耐性

第三世代セフェム系薬

一部のカルバペネム系薬

βL産生

第三世代セフェム系薬

一部のカルバペネム系薬

髄膜炎菌

アンピシリン

第三世代セフェム系薬

クロラムフェニコール

腸内細菌

第三世代セフェム系薬

カルバペネム系薬

緑膿菌 

セフタジジム 

カルバペネム系薬

リステリア属  

アンピシリン

ST合剤、カルバペネム系薬

B群レンサ球菌

ペニシリン系薬

第三世代セフェム系薬

バンコマイシン****

黄色ブドウ球菌

MSSA

クロキサシリン

バンコマイシン

MRSA

バンコマイシン

テイコプラニン

表皮ブドウ球菌

バンコマイシン

 

結核菌(結核性髄膜炎の治療は 必ず専門医に相談する) 

イソニアジド、リファンピシン 

ピラジナミド 

エタンブトール

ストレプトマイシン

*:アンピシリン4~8g/日分2-4点滴静注またはピペラシリン8g/日分4点滴静脈注。

**:セフォタキシム、セフトリアキソン、セフェピム、セフピロム。

***:髄膜炎に対する保険適応があるのはパニペネム/ベタミプロンとメロペネム。

****:バンコマイシンの保険適応疾患はMRSA感染症のみ。

 

B.1.2 細菌性以外の髄膜炎(脳炎)の治療

B.1.3.1 クリプトコッカス髄膜炎

(1) AIDS患者の場合:アンホテリシンB0.7~1mg/kg/日静注 +フルシトシン25mg/kg6時間ごと経口を2週間または臨床的に安定するまで継続。続いてフルコナゾール400mg/日に切り替え、最低10週間続けた後200mg11回の抑制療法に切り替える。抑制療法は有効な抗HIV治療を行ってCD4100以上となった場合に中止が推奨される。なお、AIDS患者でも意識状態正常で髄液細胞数20未満、クリプトコッカス抗原1024倍未満であればフルコナゾール単独療法(フルコナゾール400mg経口116~10週その後抑制療法)が妥当。

(2) AIDS患者以外の場合:アンホテリシンB0.5~0.8mg/kg/日静注 +フルシトシン25mg/kg6時間ごと経口を患者の発熱が軽快し培養が陰性になるまで継続。続いてフルコナゾール400mg11回に切り替え8~10週間(重症でない場合)。再発率を低下させるためには2年間フルコナゾールを投与すべきとの報告もある。

髄液圧が250mmH2Oであった場合、200mmH2O以下になるまで毎日髄液穿刺を行う。この疾患を診断した場合、HIV感染を疑って検査する。フルシトシンの血中濃度はピーク値70~80mg/L、トラフ値30~40mg/Lとなるよう調節する。

 

B.1.3.2 単純ヘルペスウイルス症(単純ヘルペスウイルス脳炎)

アシクロビル10mg/kg静注(1時間以上かけて)8時間ごと14~21日間。

Herpes simplex virus type 1(HSV1)は散発性脳炎の原因として最も多い。生存率と神経学的後遺症からの回復の程度は治療開始時の精神症状の程度に左右されるため早期診断・早期治療が大切。髄液中HSV-PCR検査は特異度100%、感度75~89%で有用な検査である。

B.1.3 小児の細菌性髄膜炎

1か月未満:B群レンサ球菌,大腸菌が多い→ABPC+CTXまたはABPC+アミノグリコシド薬

ABPCはリステリア(セフェム耐性)の場合に備えて用いる。

1か月以降:インフルエンザ菌,肺炎球菌が多い→CTX(またはCTRX)+PAPM/BP(またはVCM

 

脳脊髄液検査後すみやかにステロイド(デキサメタゾン)と抗菌薬を静注

抗菌薬による菌体破壊に伴う高サイトカイン血症の悪影響を緩和する目的で使用する(0.15mg/kg/回を6時間毎)。抗菌薬投与の直前または同時に静注する。

 

起因菌が判明したら単剤へ変更する

 

小児細菌性髄膜炎における抗菌薬の選択

菌不明時の開始抗菌薬

CTX(またはCTRX)+PAPM/BP(またはVCM

新生児ではABPC+CTXまたはABPC+アミノグリコシド薬

 

迅速診断判明後の抗菌薬(適切な塗抹グラム染色判定後でも可)

大腸菌

MEPM

B群レンサ球菌

ABPC+アミノグリコシド薬

肺炎球菌

PAPM/BPまたはVCM+CTX (CTRX)

インフルエンザ菌

CTX (CTRX)またはMEPMまたはその併用

 

原因菌感受性(MIC)判明後の抗菌薬

肺炎球菌

Penicillin <0.1 μg/ml

ABPCまたはPCG

 

Penicillin 0.1-1.0 μg/ml

PAPM/BPまたはCTX (CTRX)a

 

Penicillin ≥2.0 μg/ml

PAPM/BP またはVCM+CTX (CTRX)

 

PAPM/BP ≥1μg/ml

VCM+CTX (CTRX)

インフルエンザ菌

CTX <1μg/ml

CTXまたはCTRX

 

CTX ≥1μg/ml

MEPM b

大腸菌

CTX <1μg/ml

CTX

 

CTX ≥1μg/ml

MEPM

B群レンサ球菌

Penicillin <0.1 μg/ml

ABPC+アミノグリコシドまたはPCG

 

Penicillin 0.1-1 μg/ml

CTX (CTRX)PAPM/BPVCMなどを考慮

リステリア

ABPC <1μg/ml

ABPCまたはPCG

 

ABPC ≥1μg/ml

MEPM, PAPM/BP

髄膜炎菌

Penicillin <0.1μg/ml

ABPCまたはPCG

 

Penicillin 0.1-1μg/ml

CTX (CTRX)

CTX:セフォタキシムCTRX:セフトリアキソン、PAPM/BP:パニペネム・ベタミプロン、MEPM:メロペネム、VCM:バンコマイシン

aCTXまたはCTRXMIC≥1μg/mlの場合は推奨されない。b MEPMが使用不能または無効なときは、βラクタマーゼ陰性株ではPIPC、陽性株ではPIPC/TAZも使用できる。

 

小児細菌性髄膜炎における抗菌薬の投与量4)

 

1日投与量

投与方法

CTX

200~300 mg/kg

34one shot静注

CTRX

100~120 mg/kg

2one shot静注

PAPM/BP

100~160 mg/kg

3430分点滴静注

MEPM

100~140 mg/kg

3430分点滴静注

ABPC

200~300 mg/kg

34one shot静注

VCM

60 mg/kg

460分点滴静注

新生児での使用量は参考文献(Tunkel AR, et al. Practice guidelines for the management of bacterial meningitis. Clin Infect Dis. 2004;39:1267-1284)を参照

 

B.2 院内肺炎 Hospital acquired Pneumonia

1) 定義

院内肺炎は入院後48時間以上経てから発症した肺炎であり、病院外で日常生活をしていた人に発症した肺炎である市中肺炎とは区別されるものである。ただし、レジオネラ肺炎は潜伏期が2〜10日と比較的長いので、入院後9日以内の発症では慎重に判断する。また市中肺炎と院内肺炎の中間に位置し、介護を必要とし医療環境へ頻回に接触する高齢者で誤嚥などを発症機序とする医療・介護関連肺炎(NHCAP)が存在し、市中・院内肺炎と比較し死亡率は高いとされる。

院内肺炎は発熱、咳、膿性痰、胸痛、呼吸困難などの自覚症状、胸部単純X線や胸部CTなどの画像所見、白血球、CRPなどの検査所見で臨床的に診断されるが、市中肺炎に比べ肺炎の症状や所見がマスクされやすく、また画像検査の実施が困難となる場合もあり、必ずしも容易ではない。

実際には胸部X線写真で新たに出現、または進行性の浸潤影をみとめ、@症状(発熱、胸痛など)、A検査所見(CRP,WBC,ESR)、B喀痰、血液、経気管支洗浄液、経気管支擦過物、生検材料から病原菌を分離、C気道分泌液からウイルスを分離するか、ウイルス抗原を検出、D血清抗体価の有意な上昇、E病理組織学的な証明などを参考に診断される。

気管内挿管、経腸栄養チューブ、鎮静剤使用などは誤嚥のリスクに、長期の抗菌薬使用や不適切な手指衛生、中心静脈カテーテル挿入などは耐性菌を含む病原菌増生のリスクになるため配慮が必要である。

また、特殊病態下の肺炎として、@免疫不全患者の肺炎(好中球減少、液性免疫不全、細胞性免疫不全)A人工呼吸器関連肺炎(Ventilator-associated pneumonia: VAP)、B誤嚥性肺炎を念頭におく必要がある。

 

2) 起炎菌について

  院内肺炎の起炎菌では入院早期の細菌性肺炎としては肺炎球菌、インフルエンザ菌が多く、それ以降は緑膿菌、エンテロバクター属、アシネトバクター属、セラチア、大腸菌、黄色ブドウ球菌(MSSAMRSA)が起炎菌となることが多い。また、嫌気性菌やレジオネラ菌も院内肺炎の起炎菌となる。さらに、抗菌薬の適応とはならないが、結核、ウイルス(インフルエンザウイルス、RSウイルス、サイトメガロウイルスなど)、真菌(アスペルギルス、クリプトコックス、ムコールなど)、Pneumocystis jiroceciiなどによる肺炎も考慮する。

 

3) 重症度分類

日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」 成人院内肺炎診療ガイドラインでは主に患者の生命予後を予測する指標として下記のような重症度分類を設定している。

 

 

 

4) 院内肺炎の診断と病原体検査法

Ÿ   胸部異常陰影に加えて、発熱、白血球数異常、膿性分泌物のうち2項目を満たす症例を院内肺炎と診断する。

Ÿ   院内肺炎の原因病原体の検索には、下気道検体を用いた培養検査が原則である。喀痰培養は上気道の細菌汚染がある、下気道からの分泌物が少ない、抗菌薬前投与がある場合などは診断には不適切であるが、抗菌薬の前投与のない患者から膿性痰が得られた場合には診断に有用である。喀痰の肉眼的および顕微鏡的観察により検体の質を評価し、Miller & Jones分類はP2以上、Geckler分類は4-5が望ましい。

Ÿ   塗抹検査により緑膿菌(ムコイド型)、クレブシエラ属、ブドウ球菌などの存在を迅速かつ高い感度で推定することができ、白血球による貪食像、白血球集積部位に一致した細菌の存在から原因菌を強く推定することができる。ただし実施者の経験によって感度・特異度は異なるので専門家が担当するのが望ましい。

Ÿ   下気道検体において複数の病原体が観察される場合には誤嚥の関与を疑う。

Ÿ   喀痰からの検出菌で好中球貪食像が認められない菌の場合は106 ~7cfu/mL(2+)存在する場合は原因菌とみなすことができる。ただし、臨床症状や炎症所見が乏しい場合は原因菌とはみなさず、逆にこれ以下であってもS. pneumonieH. influenzaeなどの場合は原因菌であることが多いので塗抹検査の結果を参考にして判定する。

Ÿ   血液培養は原因菌の判明する頻度は低いものの、陽性であった場合の特異度は高く、予後の改善にもつながる。

Ÿ   気管吸引液で106 cfu/mL(2+)、気管支肺胞洗浄液(BAL)104-105 cfu/mL(1+)、気管支鏡プロテクトブラシ(PSB)103 cfu/mL以上の菌が分離された場合には原因菌である可能性が高い。ただし、侵襲的検査法の実施は有用性とリスクを考慮して慎重に判断されなければならず、耐性菌や抗酸菌、真菌の関与が疑われる、非感染性疾患を否定できないなどの症例が対象となる。

Ÿ   人工呼吸器関連肺炎を疑う症例で、72時間以内の抗菌薬変更がなく下気道から有意な細菌が検出されない場合には肺炎の存在をほぼ否定することができる。

Ÿ   迅速検査として尿中抗原診断(肺炎球菌・レジオネラ属)が有用である。ただし、肺炎球菌検査における小児の偽陽性やL. pneumophila血清型1以外の偽陰性の問題が残されている。

Ÿ   治療開始2-3日後の臨床症状および微生物検査結果から治療効果を判定し、抗菌薬の変更・追加・中止を再評価する。

Ÿ   喀痰の検査でMRSAや緑膿菌が検出されない場合には、これら耐性菌の関与は低いと考えて狭域抗菌薬の選択、あるいは抗菌薬のde-escalationを考慮する。

Ÿ    

5)治療 (抗菌薬投与量は腎機能正常例に適応)

 (1) 群別抗菌薬選択の基本的考え方

1. A(軽症群)

 呼吸器感染症の原因菌として高率な肺炎球菌、インフルエンザ菌、クレブシエラ属などを標的として抗菌薬の選択を行い、培養検査で耐性菌が検出された場合はその結果に応じて抗菌薬を追加・変更する。

Ÿ   CTRX (ロセフィン)  12g 11回または11g 12回 

Ÿ   CTX (クラフォラン)   11-2g 12-3回 (最大4g/) 

Ÿ   SBT/ABPC (スルバシリン・ユナシン)  11.5-3g 13-4回 (誤嚥など嫌気性菌の関与が疑われる場合)

Ÿ   PAPM/BP (カルベニン)  10.5-1g 12-4回 (誤嚥など嫌気性菌の関与が疑われる場合)

2. B(中等症群)

 全死亡率が25%を占め、緑膿菌その他の耐性菌肺炎による死亡率が高く、初期抗菌薬選択としては多剤耐性菌に対する広域の抗菌薬選択を行う。

Ÿ    TAZ/PIPC (ゾシン) 14.5g 13-4

Ÿ    MEPM(メロペネム・メロペン) DRPM (フィニバックス)  10.5-1g 13回 BIPM (オメガシン)  10.3g 14

Ÿ    CFPM(マキシピーム)  CZOP(ファーストシン) 11-2g 12-4回 (最大4g/)

+/- CLDM(クリダマシン) 1600mg 12-4回 (最大2400g/)

(誤嚥など嫌気性菌の関与が疑われる場合に併用)

Ÿ   CAZ (モダシン)  11-2g 12-4回 (最大4g/)

+ CLDM(クリダマシン) 1600mg 12-4回 (最大2400g/)

Ÿ   PZFX (パズクロス)1500-1000mg 12回、CPFX (シプロキサン) 1300mg 12回、LVFX (クラビット) 1500mg 11

+ SBT/ABPC (スルバシリン・ユナシン)  11.5-3g 13-4

3. C(重症群)

 多剤耐性菌のリスクが高く、広域抗菌薬の選択を初期治療薬として薦める。

 B群の抗菌薬選択に以下を併用する。

Ÿ   AMK 15mg/kg 11回 投与開始2-4日目に薬物血中濃度測定を実施

Ÿ   PZFX (パズクロス)1500-1000mg 12回、CPFX (シプロキサン) 1300mg 12回、LVFX (クラビット) 1500mg 11回 (B群でキノロン系を用いてない場合)

4. 抗MRSA薬の適応

以下のMRSA保有リスクがあれば、グラム染色の所見も考慮し抗MRSA薬の併用を検討する。

Ÿ   長期(2週間程度)の抗菌薬投与

Ÿ   長期入院の既往

Ÿ   MRSA感染やコロナイゼーションの既往

 

 (2) 起炎菌判明時の抗菌薬選択

肺炎球菌

PCG感受性 (MIC2μg/mL)

Ø  PCG 1200-300万単位、14

Ø  ABPC (ビクシリン)  11-2g13-4

PCG低感受性・耐性 (MIC8μg/mL)

Ø  CTRX (ロセフィン)  12g 11回または11g 12

Ø  CTX (クラフォラン)   11-2g 12-3回 (最大4g/)

Ø  PAPM/BP (カルベニン)  10.5-1g 12-4

Ø  LVFX (クラビット) 1500mg 11

Ø  VCM 11g 12回 投与開始3日目以降に薬物血中濃度測定

インフルエンザ菌

ABPC感受性

Ø  ABPC (ビクシリン)  11-2g13-4

BLNAR

Ø  CTRX (ロセフィン)  12g 11回または11g 12

Ø  CTX (クラフォラン)   11-2g 12-3回 (最大4g/)

緑膿菌

(感受性検査を確認し、最適化する)

Ø  TAZ/PIPC (ゾシン) 14.5g 13-4

Ø  CAZ (モダシン)  11-2g 12-4回 (最大4g/)

Ø  CFPM(マキシピーム)  CZOP(ファーストシン) 11-2g 12-4回 (最大4g/)

Ø  MEPM(メロペネム・メロペン) DRPM (フィニバックス)  10.5-1g 13回 BIPM (オメガシン)  10.3g 14

Ø  PZFX (パズクロス)1500-1000mg 12回、CPFX (シプロキサン) 1300mg 12回、LVFX (クラビット) 1500mg 11

上記薬剤にアミノグリコシド系薬剤の併用を考慮する。

黄色ブドウ球菌(MSSA)                     

Ø  CEZ (セファゾリン・セファメジンα)  11-2g 13

Ø  SBT/ABPC (スルバシリン・ユナシン)  11.5-3g 13-4

黄色ブドウ球菌(MRSA)

Ø  VCM 11g 12回 投与開始3日目以降に薬物血中濃度測定

Ø  LZD (ザイボックス) 1 600mg 12

Ø  TEIC 112mg/kg 12時間毎 3回投与し、投与24時間後に薬物血中濃度測定

Ø  VAPや糖尿病患者ではLZDの方がVCMより臨床的効果および細菌学的効果が優れる。

Ø  (2選択薬)

Ø  ABK (ハベカシン)  1 150-200mg 11回 3日目投与終了後30分後に薬物血中濃度測定

大腸菌

クレブシエラ属

プロテウス属

(ESBL非産生)

(感受性があれば)

Ø  SBT/ABPC (スルバシリン・ユナシン)  11.5-3g 13-4

Ø  CEZ (セファゾリン・セファメジンα)  11-2g 13

Ø  CTM(パセトクール)  11-2g 12-3回 (最大4g/)

Ø  CTRX (ロセフィン)  12g 11回または11g 12

Ø  CTX (クラフォラン)   11-2g 12-3回 (最大4g/)

ESBL産生腸内細菌

Ø  MEPM(メロペネム・メロペン) DRPM (フィニバックス)  10.5-1g 13回 BIPM (オメガシン)  10.3g 14

(感受性があれば)

Ø  PZFX (パズクロス)1500-1000mg 12回、CPFX (シプロキサン) 1300mg 12回、LVFX (クラビット) 1500mg 11

Enterobacter, Serratia, Citrobacter

Ø  CFPM(マキシピーム)  CZOP(ファーストシン) 11-2g 12-4回 (最大4g/)

(感受性があれば)

Ø  CTRX (ロセフィン)  12g 11回または11g 12

Ø  CTX (クラフォラン)   11-2g 12-3回 (最大4g/)

A. baumannii

Ø  SBT/ABPC (スルバシリン・ユナシン)  11.5-3g 13-4

Ø  MEPM(メロペネム・メロペン) DRPM (フィニバックス)  10.5-1g 13回 BIPM (オメガシン)  10.3g 14

嫌気性菌

Ø  SBT/ABPC (スルバシリン・ユナシン)  11.5-3g 13-4

Ø  CLDM(クリダマシン) 1600mg 12-4回 (最大2400g/)

レジオネラ

Ø  PZFX (パズクロス)1500-1000mg 12回、CPFX (シプロキサン) 1300mg 12回、LVFX (クラビット) 1500mg 11

Ø  AZM (ジスロマック) 1500mg 11

ESBL:基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生菌

レスピラトリーキノロン経口薬には、モキシフロキサシン、ガレノキサシン、レボフロキサシン(高用量)、シタフロキサシン、トスフロキサシンなどがある。

 

(3) 特殊病態下の院内肺炎治療

@       免疫不全状態

好中球減少、液性免疫不全、細胞性免疫不全ごとに推測される起炎微生物を決定し、抗菌薬を選択する。

免疫不全の種類

原因

推定される原因菌

好中球減少

500/μl以下)

・原発性

・続発性(急性白血病、再生不良性貧血など)

・医原性(抗癌剤・放射線治療、

 薬剤性顆粒球減少症など)

・グラム陽性菌:黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)、肺炎球菌など

・グラム陰性菌:緑膿菌、クレブシエラ、大腸菌など

・真菌:特にアスペルギルス、ムコール

液性免疫不全

IgG 500mg/dl以下)

・原発性

・続発性(多発性骨髄腫、慢性リンパ球性白血病など)

・免疫抑制薬治療

肺炎球菌、インフルエンザ菌、クレブシエラなど莢膜を有する細菌

 

細胞性免疫不全

(CD4リンパ球 200/μl 以下)

・原発性

・続発性(HIV感染者、慢性リンパ球性白血病、悪性リンパ腫など)

・免疫抑制薬治療、副腎皮質ホルモン治療、抗癌剤・放射線治療

 

・グラム陽性菌、陰性菌

・抗酸菌

・ウイルス(サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスなど)

・ニューモシスチス・カリニ

・真菌(カンジダ、アスペルギルス、クリプトコックスなど)

・トキソプラズマ、糞線虫

 抗菌薬:肺炎は重症であることが多く、最初から第3、4世代セフェム、カルバネペム系薬、ニューキノロン注射薬の十分量の投与を考慮する。さらに、結核、真菌、ウイルス、原虫などの細菌以外の感染も考慮し、薬剤選択をする。

A       人工呼吸器管理下

人工呼吸器管理下では、鎮静薬や筋弛緩薬による咳の抑制、高濃度酸素吸入や吸入湿度低下による線毛クリアランスの低下、挿管に伴う気道損傷により宿主の防御能の低下があり、肺炎が起こりやすい。気管内挿管による人工呼吸開始後48時間以降に発症する肺炎を人工呼吸器関連肺炎(VAP)と呼ぶ。治療開始後3〜5日までの早期VAPでは肺炎球菌、レジオネラを含む各種グラム陰性菌の頻度が高く、βラクタマーゼ配合抗菌薬、第3、4世代セフェム、カルバネペム系薬、ニューキノロン系注射薬を選択する。6日以降の晩期VAPでは緑膿菌やMRSA等の耐性菌にも考慮し、上記薬剤にアミノグリコシド系薬や抗MRSA薬の併用も必要となる。

B       誤嚥性肺炎

 高齢者、脳血管障害では誤嚥が起こりやすく、嫌気性菌による誤嚥性肺炎に対する

抗菌薬を選択する。クリンダマイシン、βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系注射薬、カルバペネム系薬が推奨される。

 

6) 治療効果判定と治療期間

Ÿ   体温、胸部X線所見、炎症パラメータ、膿性分泌物の状態、細菌学的所見、酸素化を総合して治療効果判定を行うことが望ましい。

Ÿ   VAPにおいて予後と最も相関するのはPaO2/FiO2の推移である。

Ÿ   臨床的改善は通常72時間以内に認められるので、急激な症状の増悪のない限り3日目までは抗菌薬変更を行うべきではない。

Ÿ   緑膿菌などの耐性傾向の強い菌による肺炎を除いては、初期抗菌薬が有効なら治療期間は7-10日間でよい。

 

7) 治療に反応しない患者への対応

Ÿ   院内肺炎は症状の改善が認めがたい場合があり、新に抗菌薬治療に不応かどうかを検討する。

Ÿ   非感染性疾患、および抗菌薬不応肺炎では病原微生物側・宿主側・薬剤側の因子の鑑別診断を行う必要がある。

Ÿ    

感染症以外の疾患

Ÿ   薬剤性肺炎            

Ÿ   器質化肺炎

Ÿ   好酸球性肺炎

Ÿ   放射線性肺炎

Ÿ   その他の間質性肺炎

Ÿ   うっ血性心不全

Ÿ   ALI/ARDS

Ÿ   悪性腫瘍

Ÿ   肺梗塞

Ÿ   肺胞出血

Ÿ   気管・気管支異物

Ÿ   無気肺

 

感染症

Ÿ   病原微生物側の要因

Ÿ   一般抗菌薬無効の微生物

: 抗酸菌、ウイルス、真菌、ニューモシスチスなど

Ÿ   耐性化の強い菌種 (MRSA, 緑膿菌、セラチア属等)

Ÿ   抗菌力発現阻止因子

 薬剤不活化酵素産生:βラクタマーゼ阻害薬配合薬

 膿瘍形成:局所ドレナージ

Ÿ   肺以外の感染巣の存在

Ÿ   宿主側の要因

Ÿ   合併症・基礎疾患

肺癌、COPD、糖尿病、肝疾患、腎疾患、心疾患、低栄養など

Ÿ   免疫能低下(白血球減少・血液疾患・HIV感染など)

Ÿ   物理的要因(排痰困難、誤嚥、膿瘍形成、カテーテルなど)

Ÿ   薬剤側の要因

Ÿ    薬剤使用量、回数の不足

Ÿ    薬剤移行性不良

Ÿ    薬剤相互作用

 

8)肺炎の予防

(1)     肺炎の予防には基礎疾患のコントロールが重要であることは言うまでもないが、特に高齢者は複数の基礎疾患を有しており肺炎の治療とともに全身管理が必要となる場合が多く、日頃のコントロールが求められる。

(2)     誤嚥防止対策

誤嚥を起こしやすい患者では、食品の調整や摂取法の工夫により誤嚥を防止するように努める。また、口腔内の嫌気性菌が誤嚥の起炎菌となることが多いため、口腔内ケアも重要である。

(3)     ワクチン

現在のところ、インフルエンザワクチン(年一回接種)と23価肺炎球菌ワクチン(5年後の再接種が可能)がある。高齢者や基礎疾患を有する患者では接種が推奨される。

参考文献

1)      日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」 成人院内肺炎診療ガイドライン(20086月発行)

2)      日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」 成人市中肺炎診療ガイドライン(20071月発行)

3)      日本呼吸器学会医療・介護関連肺炎診療ガイドライン(20118月発行)

4)      日本感染症学会編 感染症専門医テキスト 第I部解説編 呼吸器感染症 院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎 p644-654, 2011年 南江堂 東京

5)      日本感染症学会・日本化学療法学会 感染症治療ガイド 2011

6)      日本化学療法学会・日本感染症学会 MRSA感染症の治療ガイドライン (20136月発行)

B.3 結核

わが国では現在10種類の抗結核薬が存在しこれらはその抗菌力などから3つに分類される(表1)。主な抗結核薬の成人の標準投与量と最大投与量を表2に示す。なお、表1First-line drugsは有効血中濃度の維持と直接監視下治療(DOTS)推進の観点から可能な限り11回投与を原則とする。現在の結核治療の標準的な方法は以下の通りである。

 

A)法:RFP + INH + PZASM(またはEB)の4剤併用で2ヶ月間治療後、RFP + INH4ヶ月間治療する。

B)法:RFP + INHSM(またはEB)の3剤併用で2ヶ月間治療後、RFP + INH7ヶ月間治療する。

 

原則として(A)法を用いる。PZA使用不可の場合に限り、(B)法を用いる。

薬剤感受性が不明かつ症状の改善が明らかでない場合には、薬剤感受性の判明、臨床的改善の確認までSM(またはEB)を継続する。 

標準的治療期間は、(A)法では6カ月間、(B)法では9カ月間とする。

但し、有空洞(特に広汎空洞)例や粟粒結核などの重症例、3ヶ月目以後(初期2カ月の治療終了後)にも培養陽性である例、糖尿病や塵肺合併例、全身的な副腎皮質ステロイド薬・免疫抑制剤併用例など、および再治療例、では3カ月間延長し(A)法は9ヶ月、(B)法は12ヶ月まで行うことができる。

 

参考文献:「結核医療の基準」の見直し 2008年平成20420 日本結核病学会治療委員会  http://www.kekkaku.gr.jp/ga/ga-37.htm

 

表1:抗結核薬の分類

First-line drugs (a)

最も強力な抗菌作用を示し、菌の撲滅に必須の薬剤(INHRFPPZA

First-line drugs (b)

主に静菌的に作用し、First-line drugs(a)との併用で効果が期待できる薬剤(SMEB

Second-line drugs

上記2つに比べ抗菌力は劣るが多剤併用で効果が期待できる薬剤(KMTHEVMPASCS

INH:イソニアジド、RFP:リファンピシン、PZA:ピラジナミド、SM:ストレプトマイシン、EB:エサンブトール、KM:カナマイシン、TH:エチオナミド、EVM:エンビオマイシン、PAS:パラアミノサリチル酸、CS:サイクロセリン

 

表2:各種抗結核薬の標準投与量と最大投与量

薬剤名

略号

標準量(mg/kg/day)

最大量(mg/body/day)

リファンピシン

RFP

10

600

イソニアジド 

INH 

5

300

ピラジナミド

PZA 

25 

1500

ストレプトマイシン

SM

15*       

750(1000)

エタンブトール 

EB** 

15(25)

750(1000)

*SMの投与量は毎日投与の場合の投与量である。最初の2ヶ月以内は毎日投与しても可。SM2回投与の場合は1日最大投与量を1g/bodyとする。

**EBは最初の2ヶ月間は25mg/kg(最大投与量1000mg/day)を投与しても良いが資料区障害に注意が必要である。また3ヶ月目以後も継続投与する場合には15mg/kg(最大投与量750mg/day)とする。

B.4 敗血症 sepsis、感染性心内膜炎 Infective Endocarditis

B.4.1 敗血症 sepsis

敗血症の病態は二次的に活性化された炎症性メディエーター(サイトカインなど)が主役であり、感染が原因で引き起こされたSIRS(全身性炎症反応症候群)の病態という概念で捉えられるようになった。敗血症は致死率の高い疾患であり、対処が遅れると、敗血症性ショック、ARDS(急性呼吸促迫症候群)、DIC(汎血管内凝固症候群)、MOF(多臓器不全)などを合併し、予後不良となる。2004年に世界で初めてのsepsis診療に関するガイドラインとして敗血症治療ガイドライン(Surviving Sepsis Campaign Guideline (SSCG))が発表され、2008年に改訂版が発表された(SSCG 2008)。このガイドラインは、(1)初期蘇生、(2)感染源コントロールと抗菌薬治療、(3)血行動態管理、(4)ステロイド補充、人工呼吸、血糖管理、腎代替療法等の支持療法で構成されているが、ここでは(2) 感染源コントロールと抗菌薬治療を中心に関して記載する。

1)     SIRSの定義

 以下の4項目中2項目を満たすもの

@     体温:>38または<36

A     心拍数:>90/

B     呼吸数:>20/分、または<PaCO2 32torr

C     WBC: 12000/μl または<4000/μl、あるいは未熟白血球>10

 

2) 診断

l  Sepsisを疑った場合は感染巣を早急に検索する。 臨床経過や理学所見,血液検査,尿検査,画像診断などで感染巣を検索する。

l  抗菌薬投与前に検体を採取し,細菌培養を行うとともに,感染臓器だけではなく,原因微生物をも類推/特定する。可能な検体ではグラム染色を行う。血液培養は好気性菌用と嫌気性菌用ボトルの少なくとも2セット分の血液(10ml)をそれぞれ異なる部位から採血する。

l  他に原因がなくカテーテル感染を疑った場合,他部位から血液培養を行うとともに,そのカテーテルからも血液培養を行う。抜去可能なカテーテルは抜去し,必要なものは入れ替える。抜去したカテーテルの先端は細菌培養に提出する。

l  血中エンドトキシン,血中 βD−グルカン,プロカルシトニン,CD 毒素,サイトメガロウイルスの antigenemia 法,PCR,抗体検査などによる補助診断法も利用されている。

 

3抗菌薬

Sepsisでは初期治療の失敗が死亡率を上昇させる。そのため重症sepsisでは適切な抗菌薬を遅くとも1時間以内に開始し、しかもターゲットを外さないことが重要である。初期治療薬の選択は局所感染巣の起炎菌を標的として行うが、それがわからない場合には、市中感染か院内感染か、感染巣の部位、および患者の基礎疾患を考慮した上で、抗菌薬を選択する経験的治療(Empiric therapy)を行う。

院内発症の成人敗血症ではcoagulase negative StaphylococcusCNS),S. aureusEnterococcus 属などのグラム陽性球菌の頻度が最も高い。これに E. coliKlebsiella 属,Pseudomonasaeruginosa などのグラム陰性桿菌が続く。また市中発症の敗血症と比較して Candida 属による菌血症の頻度は高くなる。

感染巣不明の成人敗血症の場合はアンチバイオグラムを参照し、抗緑膿菌作用が保たれているβ-ラクタム薬(2010年の当院におけるアンチバイオグラムではPIPC, CAZ, CFPMが感受性率80%以上である)に加えバンコマイシンまたはテイコプラニンを併用し最大量で投与する。また重症時,もしくは患者が好中球減少・細胞性免疫障害などの免疫不全状態にある場合Candida による感染を考慮し,MCFGまたはL-AMBなどの抗真菌薬の併用を考慮する。

治療開始48-72時間で抗菌薬の有効性を検討し、狭いスペクトルの抗菌薬に変更する(de-escalation)。非感染性とわかったら、すぐに抗菌薬をやめる。

 

4)  感染源の除去

局所感染巣の除去あるいはドレナージは必須である。血管内留置カテーテルは速やかに抜去し、カテーテル先端を培養検査に提出し、再挿入の必要がある場合には別の部位に新しいカテーテルを挿入する。

B.4.2 感染性心内膜炎 Infective Endocarditis

感染性心内膜炎は不明熱の代表疾患であり、診断が困難なことも少なくない。また多彩かつ重篤な合併症を併発し、長期間の治療が必要となる。

診断については、Duke診断基準(表1)が用いられる。心雑音がほとんどの症例で聴取されるため、新たに出現した弁逆流性心雑音は、感染性心内膜炎を疑う所見として重要である。また、末梢血管病変としてJaneway病変(手掌と足底の無痛性小赤色斑径)、Osler結節(指頭部にみられる赤色〜紫色の有痛性皮下結節)、Roth斑(眼底の出血性梗塞、網膜上に綿花状のものとして認められる)などの所見がある。診断に際しては、経胸壁心エコー(できれば経食道心エコー)が有用である。

また手術適応の検討のため、心臓血管外科へのコンサルトが必要となる場合もある。手術を考慮するのは、血液培養が陰性化せず血流感染が持続する場合、疣贅が 10 mm 以上の大きさである場合、心不全がコントロールできない場合,治療開始 2 週間以内に塞栓が 1 回以上起こった場合,原因微生物により治療困難な場合(Candida 等)などである。

 

表1 感染性心内膜炎の臨床診断に関する修正Duke診断基準

大項目

(1)血液培養

-典型的な心内膜炎の原因菌が2セットの血液培養で陽性

l  緑色連鎖球菌、Streptococcus bovisHACEKグループ(#)

l  黄色ブトウ球菌か腸球菌が検出され、他に感染巣がない場合

-持続的菌血症

l  12時間以上あけて採取した血液培養が2回以上陽性

l  1時間以上間隔をあけて採取した3セットすべてあるいは4セット以上採取した検体のほとんどが陽性。

(2)心内膜が侵蝕されている所見

・心エコー図検査所見陽性:動揺性疣贅、膿瘍、人工弁の新たな部分的裂開

・新たな弁閉鎖不全

小基準

(1)感染性心内膜炎をおこしやすい心臓の素因

僧帽弁逸脱、大動脈2尖弁、リウマチ性あるいは先天性心疾患、静注薬物使用

(2)38以上の発熱

(3)血管現象

主要血管塞栓、敗血症性肺塞栓、細菌性動脈瘤、頭蓋内出血、Janeway病変、結膜出血

(4)免疫学的現象

糸球体腎炎、Osler結節、Roth斑、リウマチ因子

(5)血液培養陽性:大基準を満たさない場合

(6)心エコー図所見:陽性であるが、大基準を満たさない場合

確定診断

下記@Bのいずれかを満たす場合

@大基準2つ、A大基準1つと小基準3つ、B小基準5つ

(#) HACEKグループ:Hemophilus parainfluenzae, Hemophilus aphrophilus, Actinobacillus actinomycetemcomitans, Cardiobacterium hominis, Eikenella species, Kingella speciesの菌種の頭文字を連結

 

2) 治療

疣贅や弁組織は血流が乏しく、感染性心内膜炎の原因となった病原微生物を死滅させるためには、高用量の抗菌薬を長期(自己弁で2〜6週、人工弁で4〜6週以上)に投与する必要がある。

自己弁の感染性心内膜炎に対するEmpirical Therapy

第一選択 MRSA のリスクがある場合

 成人(体重 50 kg 以上)で腎機能が正常な場合

 VCM 点滴静注 1 1 g(または 15 mgkg)・1 2

 ±GM 点滴静注 1 1 mgkg1 3

 上記に CEZ 点滴静注 1 2 g1 3 回を,培養・感受性結果判明まで併用してもよい。

第二選択:保険適応外)

MRSA のリスクが極めて低く,血行動態も安定している場合

 SBTABPC 点滴静注 1 3 g1 4 回(1 12 g,保険適用量 1 6 g まで)

 +GM 点滴静注 1 1 mgkg1 3

 

人工弁の感染性心内膜炎に対するEmpirical Therapy

VCM 点滴静注 1 1 g1 2 回または 1 15 mgkg1 2

 +GM 点滴静注 1 1 mgkg1 3

 ±RFP 経口 1 450600 mg1 1

 

起炎菌が判明した場合は、起炎菌に応じ抗菌薬を選択する。(表2)

表2 原因菌が判明している場合の抗菌薬の選択

Viridians streptococciStreptococcus bovis

PCG MIC0.1μgmL

 PCG 点滴静注 1 400 万単位・1 6 回(1 2400 万単位)・4 週間

または CTRX 点滴静注 1 2 g1 1 回・4 週間

(人工弁の場合はいずれも6週間投与し、またGM2 週間併用を考慮する)

PCG MIC 0.1〜<0.5μgmL

 PCG 点滴静注 1 400 万単位・1 6 回(1 2400 万単位)・4 週間

(人工弁の場合は6週間投与)

 +GM 点滴静注 1 1 mgkg1 3 回・最初の 2 週間

PCG MIC0.5μgmL

 PCG 点滴静注 1 400 万単位・1 6 回(1 2400 万単位)・46週間

 +GM 点滴静注 1 1 mgkg1 3 回・46 週間

β−ラクタムアレルギーの場合

 VCM 点滴静注 1 1 g(または 15 mgkg)・1 2 回を代替薬とする。

Enterococcus(腸球菌)

ABPC 点滴静注 1 2 g1 46 回(1 812 g)・6 週間

 +GM 点滴静注 1 60 mg1 23 回・最初の 26 週間

● β―ラクタマーゼ産生菌 :保険適応外)

ABPC /SBT 点滴静注 1 3 g1 41 12 g)・6 週間

 +GM 点滴静注 1 60 mg1 23 回・最初の 26 週間

ペニシリンアレルギーの場合やペニシリン高度耐性の場合

VCM 点滴静注 1 1 g(または 15 mgkg)・1 2 回・6 週間

 +GM 点滴静注 1 60 mg1 23 回・最初の 1 週間

MSSA

(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)

CEZ 点滴静注 1 2 g1 3 回(1 6 g,保険適用量 5 g まで)6 週間

 +GM 点滴静注 1 1 mgkg1 3 回(1 3 mgkg)最初の 35 日間

β−ラクタムアレルギーの場合

VCM 点滴静注 1 1 g(または 15 mgkg)・1 2

人工弁の場合はRFP450-600mg11回または300mg12回の併用を考慮する

MRSA

(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)

VCM 点滴静注 1 1 g1 2 回または 1 15 mgkg1 2 回・6 週間

またはDAP点滴静注16mg/kg11回(右心系の場合)

 ±GM 点滴静注 1 60 mg1 23 回・2 週間

人工弁の場合はRFP450-600mg11回または300mg12回の併用を考慮する

 抗菌剤の使用にも拘わらず、臨床所見や検査所見が改善しない場合は、真菌性心内膜炎の可能性についても検討する必要がある。真菌性心内膜炎では大部分をカンジダ属が占める。

B.4.3 感染性心内膜炎の予防投与

心疾患のなかには、心内膜炎を起こしやすい疾患があり、ハイリスク群として以下の疾患(患者)が挙げられる。

1)       特に重篤な感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高い心疾患で,予防が必要であると考えられる患者

・生体弁,同種弁を含む人工弁置換患者

・感染性心内膜炎の既往を有する患者

・複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室,完全大血管転位,ファロー四徴症)

・体循環系と肺循環系の短絡造設術を実施した患者

2)      感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高く予防が必要であると考えられる患者

・ほとんどの先天性心疾患

・後天性弁膜症(詳細は本文)

・閉塞性肥大型心筋症

・弁逆流を伴う僧帽弁逸脱

上記のハイリスク群において、感染性心内膜炎予防として抗菌薬投与が推奨されている手技には以下のようなものがある。

・歯科・口腔外科 出血を伴うような大きな侵襲を伴う口腔内歯科処置(抜歯,歯周外科手術,スケーリング,インプラント埋入、歯根端切除術、骨膜下局所麻酔など)

・呼吸器  扁桃摘出術・アデノイド摘出術など

ハイリスク群に上記のような処置を行う場合には、表4に従い抗菌薬の選択を行なう。

 

表4 予防投与時の抗菌薬の選択(成人の投与量)

経口投与可能

アモキシシリン

2g(または0.5g小児は50 mg/kg)を処置1時間前に投与

経口投与不能

アンピシリン

2小児は50 mg/kgを処置前30分以内に筋注あるいは静注

ペニシリンアレルギーを有する場合

・クリンダマイシン

 

・セファレキシンあるいは セファドロキシル

・アジスロマイシンあるいはクラリスロマイシン

600mg小児は20 mg/kg を処置1時間前に経口投与

2小児は50 mg/kgを処置1時間前に経口投与

500mg小児は15 mg/kg を処置1時間前に経口投与

ペニシリンアレルギーを有して経口投与不能

・クリンダマイシン

 

・セファゾリン

600mg小児は20 mgkg を処置30分以内に静注

1gを処置30分以内に筋注あるいは静注

 

B.4.4血管内留置カテーテル関連血流感染症

血管内カテーテルが挿入されている患者で、発熱・悪寒・戦慄など敗血症症状を呈し、かつ他に明らかな感染源がない場合は血管内留置カテーテル関連血流感染症を疑う。

カテーテル感染を疑った場合、他部位から血液培養を行うとともに、そのカテーテルからも血液培養を行う。抜去可能なカテーテルは抜去し、必要なものは入れ替える。抜去したカテーテルの先端は細菌培養に提出する。

1) 推定される原因微生物

ü    コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS, S. aureus (MRSAを含む)

ü    Candida,

ü    Enterococcus,

ü    グラム陰性桿菌(E. coli, Enterobacter, P. aeruginosa, K. pneumoniae)

2) Empirical therapy

1選択

Ø  VCM 11g 12回 投与開始3日目以降に薬物血中濃度測定

+  CFPM(マキシピーム)  CZOP(ファーストシン) 11-2g 13-4回 (最大4g/)

2選択 (VCMが使用不可の場合のみ)

Ø  DAP(キュビシン) 6mg/kg 11

+  CFPM(マキシピーム)  CZOP(ファーストシン) 11-2g 13-4回 (最大4g/)

特に、重症・重篤感がある場合、鼠径部にカテーテルが留置されていた場合、発熱性好中球減少症ではグラム陰性菌を想定する。重症例(ショックや臓器障害の徴候など)や免疫低下、長期抗菌薬使用、中心静脈栄養鼠径部にカテーテルが留置されていた場合、複数箇所のカンジダ定着患者では抗真菌薬(MCFGF-FLCZL-AMBなど)を追加する。

3) 最適化治療

     MSSA

Ø   CEZ (セファゾリン・セファメジンα)  12g 13

短期留置カテーテルの場合はカテーテル抜去14日間以上、長期留置カテで免疫低下状態や合併症がない場合は4-6週間投与

Ÿ  MRSA

1選択

Ø  VCM 11g 12回 投与開始3日目以降に薬物血中濃度測定

Ø  DAP(キュビシン) 6mg/kg 11

2選択

Ø   TEIC 112mg/kg 12時間毎 3回投与し、投与24時間後に薬物血中濃度測定

Ø   LZD (ザイボックス) 1 600mg 12

Ø   ABK (ハベカシン) 1 150-200mg 11回 3日目投与終了後30分後に薬物血中濃度測定

短期留置カテーテルの場合はカテーテル抜去14日間以上、長期留置カテで免疫低下状態や合併症がない場合は4-6週間投与

     メチシリン感受性CNS

Ø   CEZ (セファゾリン・セファメジンα)  12g 13

 カテーテル抜去した場合は5-7日間、カテーテル温存した場合は10-14日間投与。症状悪化、再発の場合はカテーテルを抜去。

Ÿ  メチシリン耐性CNS

Ø  VCM 11g 12回 投与開始3日目以降に薬物血中濃度測定

 カテーテル抜去した場合は5-7日間、カテーテル温存した場合は10-14日間投与。症状悪化、再発の場合はカテーテルを抜去。

     E. faecalis / E. faecium

Ø   ABPC感受性: ABPC (ビクシリン) 12g 14-6