手術部位感染(SSI)対策

はじめに

 感染のリスクの高い「手術」という医療行為においては、100 %感染を防ぐ方法は現在無く、少なからず術中・術後感染が起こり得る。そのリスクを低コストで、最小限に抑えることが重要であり、必要な周術期の手術部位感染(SSI: Surgical Site Infection)対策について、CDCInfection Control and Hospital Epidemiology Guideline for Prevention of Surgical Site Infection, 1999 およびSHEA/IDSAStrategies to Prevent Surgical Site Infections in Acute Care Hospitals, 2008をもとに指針を記す。

術後感染症の分類

外科手術で対象とする「手術部位感染(surgical site infection)」とは切開部感染臓器/腔感染のことをさす。「創外感染(手術部位以外の感染)」または「遠隔臓器感染症」とは呼吸器感染、尿路感染、カテーテル感染を含め手術補助療法によって発症してくる感染症を意味する。

表1 術後感染の分類

手術部位感染(Surgical Site Infection

手術創感染

切開部表層

切開部深層

手術対象臓器/腔の感染

手術部位以外の感染

呼吸器感染

尿路感染

カテーテル感染

薬剤関連性腸炎など

術後耳下腺炎

術後胆嚢炎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表2 手術創の分類

classT/清潔:炎症がなく、気道・消化器・生殖器・未感染尿路に到達しない非感染手術創。

classU/準清潔:管理された状態で気道・消化器・生殖器・尿路に達した異常な汚染のない手術創。

classV/不潔:偶発的新鮮開放創。無菌手技に重大な過失のある手術創。あるいは胃・腸管からの著しい腸液の漏れ、内部に非化膿性の急性炎症のある切開創。

classW/汚染−感染:壊死組織が残る古い外傷、感染状態または内臓穿孔のある手術創。

手術部位感染への危険因子と予防措置

手術部位感染を減少させる方法は術後感染予防抗菌薬の使用法・選択に留まるものではない。患者の合併症、消毒、手術室環境、医療従事者の消毒・感染管理など、手術全体に注意を払う必要がある。

1.  患者の特性

a. 糖尿病:手術後48時間以内の血糖値が200 mg/dl以上ではSSI発症の危険性が増大する。ヘモグロビンA1c濃度を術前に7%以下に低下させる。

b. 喫煙:喫煙はSSIの重要な危険因子である。心臓手術後のSSIに対しては、現在喫煙していることが独立する危険因子である。手術の30日前には禁煙するようにする。

c. ステロイド投与:クローン病では術前ステロイド投与患者のSSI発症率が高いとの報告はあるが、関係なしとの報告も散見される。

d. 栄養失調:栄養状態の改善はSSIの防止手段だけでなく、術後合併症の減少効果がある。

e. 術前の黄色ブドウ球菌の鼻腔内定着: 黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌とSSI発症との間には顕著な関連がある。しかし、MRSAに対するムピロシンによる除菌によりSSI危険性の低下に対する効果については確定していない。

. 周術期の輸血:血液製剤を必要とする手術患者にSSI発症減少の手段として投与を中止する科学的根拠はない。

 

表3 手術部位感染発症の危険性への患者・手術の影響因子

患者

年齢

栄養状態

糖尿病

喫煙

肥満

離れた部位に同時に存在する感染

微生物の定着

免疫反応の変化

手術前入院期間

手術

手洗い時間

患者の皮膚の消毒

術前の剃毛

術前の皮膚の準備

手術時間

術後感染発症阻止抗菌薬の投与

手術室の換気

手術機器の非適切な滅菌

手術野の異物

ドレナージ

手術手技

2.手術前の問題

a. 手術前の除毛

手術前の除毛はいかなる方法でもSSI発症率増加に結びつき、除毛は行わない。除毛の必要がある場合には術直前に専用のクリッパー(バリカン)にて行う。かみそりは使用しない。除毛の有無・方法・時期と手術部位感染率の関係は表4のとおり。

表4:除毛の有無・方法・時期と手術部位感染率の関係

 

時期不定

直前

 

24時間以上前

脱毛剤使用または除毛しない

0.6%

 

 

 

かみそりで剃毛

5.6%

3.1%

7.1%

>20%

電気クリッパー

 

1.8

4.0%(前夜)

 

b. 手術室での患者皮膚消毒

 グルコン酸クロルヘキシジンもヨードホールも有効である。クロルヘキシジンの方が皮膚菌数の減少が顕著であり、一回の使用でも持続効果が大きい。またクロルヘキシジンは血液や血清蛋白で不活化されないが、ヨードホールは不活化される。

c. 術者の術前の手指衛生

 適切な消毒薬(アルコール、クロルヘキシジン、ヨードホール)で肘まで消毒する。爪を短く保ち、付け爪はしない。

d. 感染・定着のある手術室職員の管理

 排膿のある皮膚疾患を持つ外科系職員は治癒するまで業務からはずす。

e. 術後感染予防抗菌薬(AMP:antimicrobial prophylaxis)投与

 AMPは組織を無菌にするための物ではなく、手術中の汚染微生物を宿主の防御機能が十分機能できる微生物の数まで減少させる目的で、投与時間を設定した補助的手段である。術後の汚染・感染を防止するためのものではない。AMPの効果を最高にするには次の4つの原則に従う。

·          AMPは臨床試験の結果SSI発症防止効果が認められた手術全部、または手術後に切開部・臓器/腔が縫合不全などにより破局的になった場合に使用する。

·          最も汚染が予測される菌に有効なAMPを選択する。

·          皮膚切開時にAMPの血中もしくは組織内濃度が殺菌濃度に達するよう、時間を計算し投与する。整形外科領域などで駆血帯を使用する場合は装着前に抗菌薬投与を終了する。(帝王切開では臍帯クランプ後に投与するのが一般的である。)

·          AMPの治療濃度を手術中および手術後数時間は維持する。

手術創は表2のごとく大きく4つに分類できる。外科医は術前にその手術の手術創を予測し、また表5に示した予想される感染原因菌をふまえてAMPを選択するのである。

SHEA/IDSAガイドラインでは術後感染予防抗菌薬について、

1.         執刀前1時間以内に予防抗菌薬を静脈投与する(バンコマイシンおよびフルオノキノロン投与の場合は2時間以内でよい)

2.         ガイドラインに基づいて抗菌薬を選択する

3.         術後24時間内に予防抗菌薬の投与を中止する(成人で心臓胸部手術を行った場合、中止は48時間以内でも可)

4.         2日以内と比較し、3日以上の予防抗菌薬投与は耐性菌発生リスクになるため、48時間以内投与を推奨する。

4つの提案による手術感染防止共同計画(Surgical Infection Prevention Collaborative: SIPC)を明らかにし、腹式子宮摘出術、膣式子宮摘出術、股関節置換術、膝関節置換術、心臓手術、血管手術、結腸直腸手術に焦点を絞りこの提案を遵守した病院でSSI発生率が低下したと報告している。

心臓血管外科、乳腺・甲状腺手術など(清潔手術):清潔手術にはグラム陽性菌に抗菌力の強い第1世代セフェム系のセファゾリン(CEZ)や第2世代セフェム系のセファロスポリン系のセファマンドール(CMD)やセフォチアム(CTM)、セファマイシン系のセフメタゾール(CMZ)やセフォキシチン(CEX)が第一選択と考えられる。

上部消化管手術:上部消化管手術において対象となるのは黄色ブドウ球菌、腸球菌、グラム陰性桿菌などである。第一世代セフェム系セファゾリン(CEZ)や、広域ペニシリンのピペラシリン(PIPC)などが第一選択である。嫌気性菌への抗菌力を考えて第二世代セフェム系のセファマイシン系抗菌薬も選択肢のひとつとなる。

表5 手術と手術部位感染(SSI)推定原因菌

グラフト、人工臓器、インプラントの設置

黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

心臓

黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

神経外科

黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

乳腺

黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

眼科

黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、連鎖球菌、グラム陰性菌

整形外科

全関節置換術

閉鎖骨折(釘、プレート、内部固定具を使用)

機能回復術(インプラント無し)

外傷

黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、グラム陰性菌

心臓以外の胸部

肺切除、その他縦隔操作

閉鎖胸腔ドレナージ

黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、肺炎球菌、グラム陰性菌

血管

黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

虫垂切除

グラム陰性菌、嫌気性菌

胆道

グラム陰性菌、嫌気性菌

大腸

グラム陰性菌、嫌気性菌

胃十二指腸

グラム陰性菌、ブドウ球菌、口腔咽頭の嫌気性菌(ペプトストレプトコッカスなど)

頭頚部(口腔・咽頭粘膜切開を伴うもの)

黄色ブドウ球菌、ブドウ球菌、口腔咽頭の嫌気性菌(ペプトストレプトコッカスなど)

産婦人科

グラム陰性菌、腸球菌、B群レンサ球菌、嫌気性菌

泌尿器

グラム陰性菌

ブドウ球菌はあらゆる種類のSSIに関与している。

下部消化管手術:大腸手術に対しては嫌気性菌にも有効なセファマイシン系のセフメタゾール(CMZ)やセフォキシチン(CEX)が第一選択と考えられる。日本ではオキサセフェム系のフロモキセフ(FMOX)も有効な抗菌薬として上げられる。

大腸手術においては術前の腸管処置が重要であり効果が高い。手術前々日から浣腸と下剤を投与後、非吸収性の抗菌薬を内服する。Ronald L Nichols (Clin Infect Dis 24:609-619, 1997)は次の前処置を推奨している。術前々日は注腸準備食を取り、硫酸マグネシウム30 ml10時、14時、18時に内服し夕刻に浣腸を行う。術前日には同量の硫酸マグネシウムを10時、16時に内服するか、または9時から12時までポリエチレングリコール液を1L/1時間の割合で経口投与する。翌日8時手術開始の場合、術前日の13時・14時・23時にneomycin(カナマイシンを代用している)とerythromycinEM)を1 gずつ内服する。この12時間後血中EM濃度と腸管中のneomycinEM濃度が最高になる。日本では施設により様々なcolon preparationがなされているが、代表的なものは、カナマイシン+メトロニダゾール、トブラマイシン+クリンダマイシン、ポリミキシンB+メトロニダゾールなどの内服である。いずれにしても機械的処置(下剤や浣腸)と併用することが重要である。

腹腔鏡手術:腸液・胆汁の漏れがほとんどない場合は、落下細菌や皮膚常在菌も極めて少ないと考え、第一世代セフェム系抗菌薬の1日投与でよい。

汚染・感染手術:多くの菌種が存在し、多臓器不全に移行させないためにも始めから強力に細菌数を押さえなければならない。初回より広域スペクトラムを持つ第4世代セフェム系や、カルバペネム系抗菌薬を使用すべきである。

 

β-ラクタム薬に対するアレルギーがある場合、class I(清潔手術)ではクリンダマイシンやバンコマイシン、classII以上(準清潔・不潔・汚染-感染手術)ではアミノグリコシド系薬またはキノロン薬とクリンダマイシンの併用を行う。

 

投与開始時期:抗菌薬の投与は術野が露出した時に血中・組織中の薬剤濃度が最高になるように、通常手術開始030分前に投与を開始し、3時間を越える手術では濃度維持のために2回目の投与を行う。βラクタム系の抗菌薬の殺菌作用は時間依存性であり、追加投与による濃度維持は特に重要である。

投与期間:原則として乳腺・甲状腺・ヘルニアなどの清潔手術においては1〜2日間で十分であろう。CRPなどの炎症マーカーは手術侵襲の影響を受けるため、予防抗菌薬中止時期の参考にしない。上部消化管手術にしても下部消化管手術にしても、術後4日目までが初回投与薬剤継続の限界と考える。それ以降の感染は二次的感染と考えられるし、また4日以降の検出細菌に対して初回投与抗菌薬はほとんど抗菌力を持たない。4日目以降感染の兆候がある場合には、抗真菌薬を含めて抗菌薬の再考をすべきである。

 

SSI防止のためにルチーンにバンコマイシンを使用することは推奨されない。SHEA/IDSAガイドラインでは以下の特定の場合にはバンコマイシンが適切なことがあると記載されている。

a.       MRSAが原因のSSIアウトブレーク時

b.       MRSAが原因のSSI発生のハイリスク患者 (MRSA保菌者や心臓胸部手術患者および糖尿病のある高齢者を含む)

c.       インプラント機材のあるハイリスク患者の場合

ただし、バンコマイシン単剤での使用はグラム陰性菌がカバーされないこと、MSSAなどの薬剤感受性菌に対する予防効果は劣るという報告もあることから、通常使用するβ-ラクタム薬の併用も考慮する。バンコマイシン投与は最大2(術後24時間以内)とする。

3.手術中の問題

a 手術室の環境

手術室内の人数制限

室内陽圧の保持・粉塵除去

手術用機器の滅菌への配慮

b 手術時服装・覆布

  手術着・マスク・手袋・ガウン・覆布についての配慮

c 無菌操作及び手術手技

(1) 無菌操作

麻酔医・麻酔担当ナースを含めた無菌操作の徹底。すべての手術機器を滅菌する。フラッシュ滅菌器の使用は最小限にする。

(2) 手術手技

優れた手術手技はSSIの危険性を低下させる。

十分な止血

縫合糸、炭化組織、壊死片の残留を抑える

組織の損傷を抑える

モノフィラメントの縫合糸が感染に強い。抗菌吸収糸も選択可能である。

(3) ドレナージ

ドレーンは手術切開創とは別に作成し、できるだけ早期に抜去する。基本的に、閉鎖式吸引ドレナージを使用する。

d 術中の管理

 術中の低体温はSSI発生を助長するので、体温は36.5度以上に保つようにする(Kurz et al: NEJM 1996, 334:1209)。術中および、術後2時間の酸素投与はSSI発生を減少させる(Grief et al: NEJM 2000, 342:161)

4.手術創管理                                  参照:創処置の方法

 手術切開創に対しては、術後48時間以内は徹底した滅菌処置が必要。48時間以降の創部の管理については必ずしも消毒・被覆は必要ではない。術後創部に対する消毒剤についてはグルコン酸クロルヘキシジン(ヒビテン®、マスキン®)及びヨードホール(イソジン®)を用いる。ヨードホールは細胞障害が強く、術後早期には手術創面の皮下組織細胞障害の可能性があり基本的には使用しない。またヨードホールは体液で不活化されることも考慮すべきである。グルコン酸クロルヘキシジンには、それが粘膜などから吸収された場合、アナフィラキシーショックを起こす可能性がある。また濃度(通常は0. 5-1 %以下)にも十分注意が必要である。どちらも創の内部に使用してはならない。

5.手術時手洗い

流水と殺菌性石けんによる手洗いのあと、擦式消毒用アルコール製剤を用いたラビング法を基本とする。ブラシは皮膚損傷のおそれがあるため、つめ先の汚れを除去するのに用いる程度にとどめる。

 

解説

手術部位感染(surgical site infection: SSI

 SSI定義のためのサーベイランス基準は以下のとおり。

表6 手術部位感染(SSI)の定義の規準

切開部表層のSSI

感染は手術後30日以内に発症して、かつ感染は切開部の皮膚または皮下組織に限定され、かつ

少なくとも下記の1項に該当するもの:

1.検査による確認の有無を問わず、切開部表層からの排膿がある。

2.切開部表層から無菌的に採取した体液または組織培養で微生物が分離される。

3.疼痛または圧痛、局所的な腫脹、発赤または発熱のうち、少なくとも1つの感染の徴候または症状があって、しかも外科医が切開部表層を慎重に開放して、切開部の培養が陰性でない場合。

4.外科医または介助の医師が、切開部表層のSSIであると判断した場合。

 

次のような状況をSSIと報告してはならない。

1.縫合部の膿瘍(炎症は僅かで、排膿は縫合個所に限られる)

2.会陰切開術または新生児の環状切除術部位の感染

3.感染した熱傷

4.筋膜及び筋層まで広がった切開部のSSI(切開部深層SSI参照)

注:会陰切開術、環状切除術部位、及び熱傷の感染の認定については特別な規準を用いる。

 

切開部深層のSSI

感染はインプラントを留置しない場合は手術後30日以内に、留置した場合は1年以内に起こり、その感染は手術によるものと考えられ、かつ感染は切開部深層の軟部組織(筋膜及び筋層など)に及び、かつ下記の少なくとも1項に該当するもの:

1.切開部の深層からであり、手術部位の臓器/腔からではない排膿

2.切開部の深層は自然な創の離開または外科医が慎重に切開したもので、患者に発熱(38)、局所の疼痛、圧痛の徴候や症状の少なくとも1つがあって、部位の培養が陰性でない場合

3.切開部深層の関係する膿瘍その他の感染の証拠が、直接的な検査、再手術の際組織病理学的または放射線医学的な検査で見出せる。

4.外科医または介助の医師による切開部深層のSSIであるとの診断

注:1.切開部位の表層、深層の双方に及ぶ感染は、切開部深層SSIとして報告する。

  2.切開部から排膿する臓器/SSIは切開部深層SSIとして報告する。

 

臓器/腔のSSI

感染はインプラントを留置しない場合は手術後30日以内に、留置した場合は1年以内に起こり、その感染は手術によるものと考えられ、かつ感染は切開部位以外で手術時に開いたかまたは触れた(臓器、腔など)部分におよび、かつ下記の少なくとも1項に該当するもの:

1.臓器/腔に刺創を経由して設置したドレーンからの排膿がある。

2.無菌的に採取したその臓器/腔からの体液または組織の培養で、微生物が分離される。

3.その臓器/腔の関係する膿瘍その他の感染の証拠が、直接的な検査、再手術の際組織病理学的または放射線医学的な検査で見出せる。

4.外科医または介助の医師による切開部深層のSSIであるとの診断。

注:ドレーンのために開けた創の周囲が感染した場合はSSIではない。その深さによって皮膚あるいは組織の感染と考えられる。