お知らせ

私たちは、神経内科領域の神経・筋疾患の原因究明・治療を目指して研究を続けております。私たちは、30年異常前から、遺伝性ニューロパチーの研究を続けており、5年前からCharcot-Marie-Tooth病(CMT病;遺伝性運動感覚性ニューロパチー)の遺伝子診断のシステムを開発し、遺伝子診断を引き受けてきました。

今回、報告した遺伝性運動性ニューロパチー(hereditarymotor neuropathy:HMN)は、CMT病(遺伝性運動性感覚性のニューロパチー)とは、異なって分類され、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの運動ニューロン病に近い位置にある疾患と認識されています。CMTやHMN、運動ニューロン病は、別々の疾患でありますが、近年の研究の進歩により、CMTやHMN、運動ニューロン病の原因や病態にある程度以上の重なりがあることがわかってきました。

私たちは、5年前からCMT病の遺伝子診断を行うためオリジナルデザインの遺伝性ニューロパチー診断DNAチップを作成し、それを用いて様々な症例の遺伝子解析を行っていました。その中に、すでに知られている遺伝子と私たちが病気の遺伝子の原因となるのではないかと予想した遺伝子を、マイクロアレイDNAチップで配列が決定できるように作製しました。その中にその候補遺伝子としてはいっていたのが、今回のアラニルtRNA合成酵素(AARS)であります。私たちは、CMT病におけるアミノアシルtRNA合成酵素の重要性に着目し、8つのアミノアシルtRNA合成酵素の配列をマイクロアレイDNAチップに組み込み、CMT病の検査に使ってきました。

今回、 遺伝性運動性ニューロパチー (HMN)においても検査を行い、今回の発見につながっています。AARSの異常は、CMT病の原因であることも1-2年前にフランスから報告されています。私たちが500例のCMT病の遺伝子診断を行ったなかにも、病気の原因の可能性のある異常が1-2例に見つかっていますが、病気の原因となっているというところまでは証明出来ませんでした。今回、HMNについては、今回の私どもの研究で証明することが出来ました。特にこの研究は国際共同で行われ、河北省医科大学神経筋学(胡静教授、趙哲医師)との共同研究で発行われておりますが、胡教授は当科で大学院博士の学位を取得した中国の神経内科教授であります。

今回の発見は、蛋白質合成に重要な役割をするアミノアシルtRNA合成酵素の一つで,アラニルtRNA合成酵素(AARS)の遺伝子配列の異常が、運動神経をすこしずつ変性させる遺伝性運動性ニューロパチーを引き起こすことを証明したものです。このAARSの異常により、蛋白合成が障害され、蛋白質の細胞への供給が滞ることにより、神経変性を来すことが推定されます。CMTやHMNなどの神経変性疾患において、運動ニューロンや感覚神経のニューロンなどの変性の一つの共通性をしめすことができ、このような神経変性機序の知見の蓄積により、疾患治療の対策を立案する重要な基礎データが得られると思われます。

本研究は、厚生労働省の“次世代遺伝子解析技術を用いた希少難治性疾患の原因究明及び病態解明に関する研究”が、平成23年度厚生労働科学研究費補助金(難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業〔難病関係研究分野〕)により行われております。

本研究は、2012年5月22日号のNeurology誌(IF 8.017) に掲載されました。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22573628

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