髄膜腫
 現在の日本で最も多い脳腫瘍は髄膜腫です.中年以降の女性に多く,女性は男性の1.5〜2倍の頻度になります.髄膜( meninges)と呼ばれる脳を包んでいる膜から発生するのでHarvey Cushingが髄膜腫 ( meningioma)と名付けたそうです.髄膜とは,硬膜,クモ膜,軟膜の3種類の膜のことです.硬膜は頭蓋骨を裏打ちしている硬い膜です.クモ膜は,クモ膜下出血と言う言葉に出てくるクモ膜で,この膜の下にクモ膜下腔という脳脊髄液を貯めた空間があります.軟膜は脳の表面と一体化した弱い膜です.髄膜腫は硬膜に付着して内側に向かって発育することが多いため,硬膜から脳へめり込むように大きくなります.できやすい場所はありますが,脳を包んでいる硬膜のどこからでも発生します.希に,視神経(視神経を包む膜は硬膜の延長)や松果体部分(クモ膜がある)に発生することもあります.頭痛や頭部外傷の検査でたまたま見つかる場合もありますが,腫瘍ができた場所により,麻痺や痙攀,視力障害,嗅覚障害,聴力障害など多彩な症状を呈します.腫瘍は一つだけのことが多いのですが,2つあるいはそれ以上の多発性の事もあります.
←髄膜腫

一般的には良性で,髄膜から発生しているため,脳との境界ははっきりしています.上のMRI写真のように弓隆部(脳の丸くふくらんだ外側)にあり,あまり大きくない場合は,問題なく摘出できます.しかし,腫瘍が静脈洞(脳を灌流した後の静脈血が集まる,硬膜に包まれた大きな血管)を取り込んだり,頭蓋底(脳の下,脳が載っている面)の硬膜から発生し重要な神経や血管を巻き込んでいる場合,全摘出は難しくなります.髄膜腫は血流の多い腫瘍で,特に大きな腫瘍では手術に際して出血が多くなります.そのため前もって血管内塞栓術を行い,腫瘍に行く血液の流れを止める操作を行う場合があります.
  髄膜腫には一般的な良性髄膜腫の他に,atypical(異型), malignant(悪性)のものがあります.前述のWHO脳腫瘍分類2000年版によると,異型髄膜腫は髄膜腫の4.7〜7.2%,悪性髄膜腫は髄膜腫の1.0〜2.8%と報告されています.異型髄膜腫は少し悪性,悪性髄膜腫はかなり悪性という位置づけです.顕微鏡強拡大10視野あたりの細胞の核分裂数(mitotic indices)を比べると,良性では0.08+-0.05,異型髄膜腫では4.75+-0.91,悪性髄膜腫では19.00+-4.07と増殖が激しくなることがわかります.また,悪性髄膜腫は脳への浸潤や髄腔内播種(脳脊髄液を介して,脳の他の場所に腫瘍が播かれるように広がること),他臓器への転移を生じ易く,平均的な生存期間は2年程度であるとも報告されています.手術で摘出した髄膜腫が悪性髄膜腫である可能性はそれほど高くありませんが,もし悪性髄膜腫であった場合は,術後にγ-ナイフやサイバーナイフなどの定位放射線治療を行う場合があります.


髄膜腫の主な発生部位と手術

髄膜腫は脳の硬膜ならどこにでも出来ますが、特に発生しやすい場所があり、それぞれの部位で現れる症状に特徴があります。ただ、どの場所に出来た髄膜腫でも治療の主役は手術で、脳や神経の機能を損なうことなく全摘出することが必要です。

1.円蓋部髄膜腫は大脳の表面に出来ます。
主な症状は麻痺、言語障害、けいれんなどです。

左手の麻痺を呈した髄膜腫

手術前 手術後


2. 傍矢状洞部髄膜腫
上矢状洞と呼ばれる大きな血管の近くに発生します。麻痺、特に足に強い麻痺が起こりがちです。

右足の麻痺を呈した髄膜腫

手術前 手術後


3. 鞍結節髄膜腫 
視神経の近くに発生しますので、視野の欠損を示しがちです

視野欠損を呈した髄膜腫

手術前 手術後

4. 嗅窩髄膜腫 
嗅神経の近くに発生しますので、嗅覚の低下を示すことがあります

嗅覚低下を呈した髄膜腫

手術前 手術後

5. 小脳橋角部髄膜腫
聴神経、顔面神経、三叉神経などの脳神経が集まっている所に発生しますので聴力の低下、顔のしびれ、顔の麻痺などを呈します

左聴力低下を呈した髄膜腫

手術前 手術後

6. 大孔部髄膜腫
手足を動かす神経、飲み込みや発声の神経に近いので、手足の麻痺が起こったり、飲み込みが出来にくくなったりします。

後頭部痛と飲み込みの難しさを示した大孔部髄膜腫

手術前 手術後

7. 小脳天幕-大脳鎌移行部髄膜腫
脳の中心部に近いため、意識障害や水頭症が起こります。

頭痛、認知症状、歩行障害を呈した小脳天幕-大脳鎌移行部髄膜腫

手術前 手術後


<<閉じる>>