ある患者さんとの出会いについて

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昨年、ひとりの患者さんに出逢い良い経験が出来たので報告したいと思います。

80代女性のMさん
息子さんと二人暮らし

腎機能が悪く透析導入しなければならないが高度の大動脈弁狭窄があり血液透析は出来ないとの事で、腹膜透析導入目的での紹介入院。
それが昨年の7月末の事です。
毎年冬に心不全を繰り返していること、Mさんはある宗教を信仰しており、10月にその宗教のお祭りで総本山のある奈良へ行きたいとの理由で夏の間に導入となりました。

私たちの病棟ではプライマリーナースが計画を立ててオペから腹膜透析の手技指導、退院調整に関わります。
オペも終わり、体調も良くご家族も自宅での腹膜透析の手技を覚えて頂きました。9月末に退院調整となりました。
Mさんは信仰心が強く10月の奈良への旅行を楽しみにしており、退院も喜んでいました。

退院前に試験外泊をしようと計画し、その自宅訪問時に一緒に家屋調査に伺いました。
御主人を介護した時に自宅改修がされており問題ないように見えました。
しかし翌朝Mさんが自宅で転倒し救急搬送されてきました。
診断は左大腿頸部骨折。
その日の内にオペをしました。
次の日からリハビリを開始しましたが思うように動かない体にショックを受けていました。
奈良への旅行まであと3週間です。
『もう行かなくていい』と言います。
以前の私ならこんなにしてまで行かなくてもいいと思ったと思います。
しかし、沖永良部での実習を終えたばかりの私は、Mさんにとっての宗教はMさんの文化ではないかと考えました。
Mさんの自宅は教会をしているほど信仰心が強いのです。

ゆっくり話を聞いてみるとその発言の裏にあるものが見えてきました。『自分が行くと家族に迷惑がかかるから』との事でした。『本当は行きたい』と言う気持ちがあったのです。
ご家族も一緒に行きたいと言う気持ちが強く、『一緒に行って神様にお願いしよう』と。
10月23日まであと10日ほど。その時点でなんとか見守りでポータブルトイレへ移乗出来る程度。
奈良へは軽乗用車で高速を使い行くとの事。
リハビリスタッフと相談し、リハビリに階段昇降を追加、車中での創部の圧迫解除の仕方などを指導。
ご家族とは腹膜透析をどこのSAでどういう風にするかなどの細かい事を打ち合わせ。
1日1回は病棟へ状況報告をお願いしていよいよ出発です。
息子さんからは毎日『元気ですよ』との連絡がありました。

3日後、帰ってきました。
私たちの顔を見るなり『すっきりしたよー』と満面の笑顔。
神様にお願いして塞ぎ混んでいた気持ちがすっきりしたと言うのです。
そしてびっくりしたのがADLが上がっていたのです。ベッド周囲を柵につかまりながら歩いています。
写真も見せてくれました。全て笑顔でとても素敵な写真でした。
本当に嬉しい事でした。

帰ってきてからのMさんはリハビリも積極的で入院前のADLに近い状態まで回復しました。
そして退院前に介護保険の見直し、訪問看護の介入等を調整し退院に至りました。
今でも外来の診察時には『迫田さんはいるけ~』と病棟に来てくれます。
あの笑顔に本当に癒されます。
沖永良部での実習で、その土地の文化、家の文化、その人自身の文化…それを考える機会があったからこそ介入できた事だと思います。
業務に流されている私にこれからの看護を考える良い機会となりました。

迫田聡子