飛蚊症 (ひぶんしょう)
45歳女性です。

二週間前から右眼で見る風景に小さなゴミが一つ浮かんでいるのに気付きました。
眼球の表面にホコリがついたのだろうと思いましたが、いつまでも無くなりません。
眼のレンズに傷がついたのかとも思いましたが、心当りはありません。

周囲が暗いときは気にならないのですが、明るい場所ではゴミが気になって仕方がありません。

なぜゴミ(濁り)が見えるのでしょうか。また、ゴミを無くす治療法があれば教えてください。
左右の視力は眼鏡をかければ良く矯正できます。コンタクトレンズは使っていません。

「ゴミ」の正体は何でしょうか?

このような症状を飛蚊症(ひぶんしょう)と呼びます。
眼の前に文字どおり蚊(か)が飛んでいるように見えるというのが代表的な症状ですが、 ゴミが浮いて見えたり、丸い輪が見えたり、粟粒が見えたりすることもあります。
一個のことも数個のこともあります。

飛蚊症の正体は、眼の中のレンズと網膜の間にあって眼球の四分の三の容積を占める卵の白身のように透明な硝子体の中にいろいろな原因で起こる濁りです。
この濁りを硝子体混濁といいます。

小さな混濁物が網膜に影を映すので、眼の前にものがあるかのように見えるのです。
飛蚊症は明るい所では気になるけれども、ちょっと暗いところでは気付かなくなるのは網膜に映る影があまり濃くないからなのです。
また、眼を動かすとゴミは空間のあちこちに移動しますが、これは硝子体の中で混濁物が動きまわるからです。


硝子体混濁の原因は何ですか?

おおざっぱに三つあります。
つまり、生まれつきの場合、加齢による場合、眼底に病気が発生した場合です。

40歳以下の若い人でも飛蚊症を訴えることがありますが、生まれつきの場合が多いです。
硝子体の中には母親のお腹の中にいるときは細い血管がたくさんありますが、生まれる頃にはきれいになくなります。ところが、組織の一部が僅かながら残ってしまう人がいます。これがフワフワ飛んで見えるのです。
このような場合は「生理的飛蚊症」といって病気ではありません。まったく心配する必要のないものです。

一番多くみられるのは加齢によるものです。若いころは硝子体の中には細い線維が網目状に走っており、その間に寒天状の物質がつまっていますが、 年を重ねるにつれて液体がだんだん増えてきて水っぽくなってきます。そして、粘りけがなくなると急に網膜から剥がれることがあります。これを「硝子体剥離」といって、線維が集まって塊になるために網膜に影を落とすのです。

硝子体剥離は何の前触れもなしに突然起こるので、飛蚊症を急に感じて心配の種になります。
このような硝子体剥離による飛蚊症は、五十歳代後半から増えはじめ、六十歳代では半数の人に、七十歳代以後では八割以上の人に起こるごくごくありふれた現象で病気とは言えないものです。

また、滅多にないことですが、眼の中のさまざまな病気によって飛蚊症が起こることもあります。

最も警戒しなければならないのは、網膜剥離の前兆です。
この場合には、網膜に小さな亀裂ができているのが検査するとわかります。
眼底検査によって網膜を詳しく調べて亀裂がみつかったときは、レーザー光線によって亀裂を塞いでやると網膜剥離になるのを防ぐことができます。

その他、いろいろな原因による眼底出血のために、血液の一部が硝子体の中に流れ込むと飛蚊症を来すことがあります。
このような場合も、硝子体や眼底の病気の性質をよく調べて治療することが大切です。


どうしたらよいでしょうか?

お尋ねの文面から判断すると、加齢によって硝子体剥離が起こったものと思われます。
心配する必要はまずありませんが、念のため眼科の専門医を受診して診察を受けるとよいでしょう。細隙灯顕微鏡という検査機具を使って硝子体を詳しく調べると、「ゴミ」に相当する形の小さな濁りが硝子体の中に浮かんでいるのが確かめられるでしょう。
また、眼底検査によって網膜剥離の前兆となるような異常が見つからないとも限りません。 実際に眼底検査をして前兆があるかのかないのかを確かめることが大切です。
もしも網膜剥離の前兆が見つかった場合には、きちんと手当すれば網膜剥離にならずにすむのです。


「ゴミ」を取り除くことができるでしょうか?

生まれつきや加齢によって起こる飛蚊症の場合は残念ながら確実な方法はありません。
あまり気にしないように、と言うほかありません。いつとはなしに「ゴミ」が見え なくなることもあるのです。


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