鹿大院医歯学総合研/医学部/旧第二生理学

研 究 の 紹 介  (亀山前教授時代 〜17.3 の研究)


1.神経・筋のCaチャネルの調節機構

 Caチャネルは、細胞膜にあるイオン輸送性蛋白の一つで、Caイオンが細胞外から細胞内に流入する際の通路を提供しています。神経細胞では、シナプス前終末における伝達物質の放出がCaシグナル(細胞内Caの上昇)を引き金としていますが、そのCaシグナルを起こすのが細胞膜の脱分極によって開口したCaチャネルを通るCaイオンの流入です。また、樹状突起や細胞体の膜にもCaチャネルがあり、神経伝達の可塑的変化や代謝調節などに関係していると考えられています。これらのチャネルは遺伝子の異なる複数の種類(サブタイプ)から成っており、各サブタイプの種々の神経細胞での異なった発現や細胞膜における不均一な分布などが機能とも関連していると考えられますが、未だ不明の点が多く残っています。

 筋細胞においても、Caチャネルは重要な役割を果たしています。骨格筋や心筋のCaチャネルは横行小管(T管)に多く存在し、膜の脱分極を感知してそのシグナルを筋小胞体のCa放出チャネルに伝達し筋を収縮させます。心筋では、それに加えて、ペースメーカー(結節)細胞での自発興奮(自動能)に不可欠です。

 

 Caチャネルは血管平滑筋細胞においても筋収縮に関与しており、そのため、Caチャネル阻害剤が血管拡張薬(血圧降下薬や虚血改善薬)として臨床で広く用いられています。Caチャネルの機能は、ホルモンなどによって調節されていますが、その一例が心筋のCaチャネルです。心筋のβアドレナリン受容体が刺激されると細胞内でサイクリックAMP(cAMP)が産生され、cAMP依存性蛋白キナーゼ(Aキナーゼ)が活性化されます。AキナーゼはCaチャネルなどの蛋白をリン酸化し、その結果、Caチャネルの開口確率が増大し自動能亢進や収縮力増大が起こりますが、チャネル蛋白のリン酸化部位やリン酸化の結果生じる分子構造の変化については未解明です。また、心筋Caチャネルは、Ca結合蛋白カルモジュリンによっても調節を受けていますが、当研究室ではこれらの調節の分子機構の解明を目指しています。

2.イオンチャネルの分子構造、遺伝子に関する研究

 イオンチャネル遺伝子のクローニングは、大方終わったという感がありますが、チャネルの分子構造には多くの謎が残されています。我々は、Caチャネルのリン酸化やカルモジュリンの結合の研究を通してチャネルの分子構造の解明を進めたいと考えています。また、チャネル遺伝子の発現調節機構の解明は、再生医療とも関連して大きな課題となっています。

3.生理活性物質のイオンチャネルに対する作用

 動物や植物の中には、神経や筋組織に作用する薬物や毒物を産生したり保有したりするものが少なくありません。例えば、フグ毒は神経や筋のNaチャネルを特異的に阻害して、運動麻痺や感覚麻痺などの症状を発生させます。また、イモ貝の一種で、沖縄や奄美諸島に棲息するアンボイナという貝は、毒を獲物に注入して麻痺させて補食しますが、その毒にはNaチャネルやCaチャネルを阻害するペプチドが含まれてり、刺された人が死亡することもあるほど強力なものです。
 当研究室では、現在、オニダルマオコゼという毒魚に刺されると起こる心臓不整脈の機序について研究しています。パッチクランプ法を用いた研究により、オニダルマオコゼ毒が心筋細胞のCaチャネルやKチャネルを情報伝達系を介して変調させることが明らかになりました。

4.イオンチャネル異常が関与する神経筋疾患の病態と病因の解明

 最近、チャネルの自己抗体や遺伝子異常による神経筋疾患が認識されるようになってきました。例えば、Lambert-Eaton筋無力症候群は、シナプス前終末に多く存在するN型やP/Q型のCaチャネルに対する自己抗体により神経伝達が阻害され、筋無力症が生ずることが明らかになっています。一方、心筋では、家族性QT延長症候群の中からNaチャネルやKチャネル遺伝子の変異に起因するタイプが発見されています。また、Caチャネル遺伝子の突然変異による疾患として、脊髄小脳失調症(6型)、家族性片麻痺性片頭痛、反復発作性失調症(2型)などが知られるようになりました。また、遺伝性の盲目にもCaチャネルが関与することが報告されています。
 当研究室は、神経内科学との共同研究で、神経性ミオトニアを呈するIsaacs症候群の患者血清が神経細胞の電位依存性Kチャネルを抑制することを明らかにしました。これにより運動神経の興奮性が上昇し、神経性ミオトニアが起こると考えられます。

5.神経細胞のイオンチャネルの生理学的研究

 当研究室では、中国医科大学のグループと共同して、神経細胞に発現するNaチャネルのサブタイプ、組織分布や細胞分化に伴うチャネル発現の変化などについて研究を進めています。脳腫瘍などの病態診断に応用することを目指しています。