教授の雑文

井上博雅教授の雑文

日本免疫学会会報

2011年9月

 2010年6月鹿児島大学呼吸器内科学の新設にあたり、講座を主宰しております井上博雅です。この場を借りて、九州大学在任中よりご指導頂きました免疫学会の皆様に感謝申し上げますとともに、講座開設のご報告を致します。

 私が臨床研修を始めた1980年半ばは救急外来を受診する喘息患者が後を絶たず、喘息のコントロールが困難な状況でした。対症療法でなく、病気の仕組みを解き明かし喘息を根本的に治療する必要性を感じていました。九州大学呼吸器内科 故 相澤久道先生(前 久留米大学教授)のもと肺生理研究室に籍を置き、喘息の病態、特に気道過敏性亢進に注目して研究を始め、生理学的・薬理学的アプローチで学位を取得しました。ちょうどその頃、米国UCSF Nadel教授を中心としたグループが気道炎症に伴って気道過敏性が生じると発表し、そのNadelラボへ留学の機会に恵まれました。Nadelラボも生理学が主体でしたが、ここでは分子生物学を取り入れた研究の重要性を感じ、他のラボにも間借りしながら研究をさせて頂きました。肺でのサイトカイン発現、気道炎症とケモカインに関する研究に取り組んだのですが、分子生物学については全くの素人ですので、同時に分子生物学コースを受講しながら実験したのも充実した思い出のひとつです。

 帰国後は、サイトカインシグナルに注目して喘息や肺気腫のメカニズムの解明を目指しました。この頃からJ Immunolから査読依頼が相次ぎ、どなたからのご推薦か人違いかAssociate editorに指名いただきました。数多くの論文に目を通せる場をいただいて、免疫学の面白さを学ぶことができました。日本免疫学会には2001年からの参加ですが、まずはそのレベルの高さに圧倒されたものです。皆様のご指導のお陰で、幸いにもIL-13による喘息反応がステロイド抵抗性であることを発見でき、吉村昭彦先生、久保允人先生、高津聖志先生方との共同研究により喘息発症におけるサイトカインシグナル抑制因子の役割を見出すことができました。また、東みゆき先生や八木田秀雄先生との研究では、アレルギー性喘息反応における抑制性共刺激分子の重要性を明らかにすることができました。

 鹿児島に転居して一年が過ぎ、桜島の降灰にも慣れてきました。新設の講座ではありますが、診療・教育はどうにか体制が整い、熱心な研究者や大学院生も少しずつ集まって来ました。自由闊達な雰囲気のなか、呼吸器病学と免疫学や生理学を融合させることにより、疾病のマーカーや制御方法の開発を目指す研究を進め、若い研究者を育てて行きたいと思います。変わらぬご支援を賜りますようお願いいたします。