第35回:言語障害
パソコン使い意思伝達
日常、私たちは自分の気持ち、意見などを言葉や文字で相手に伝えています。もし、頭で考えていることや言いたいことがあっても、“声が出ない”、字を書くための“両手も動かせない”としたら、どうしたらよいのでしょうか。身ぶり手ぶりで知らせることもできません。今回は、脳卒中による童度の四肢まひで両手足が動かせず、言語障害、嚥下(えんげ=飲みこみ)障害を合併した患者のパソコンを使った意思伝達の方法を紹介します。
Kさんは25歳の女性です。四年前、小脳の脳動静脈奇形(血管が網目状に固まったもので破れやすい)が破れて脳出血を起こしました。意識障警と呼吸停止も起こしましたが、脳外科での救急的手術で命は助かり、動静脈奇形も取り除かれました。意識は戻ったものの、手足は全く動かず、言葉もしゃべれず、食事の嚥下もできまん。舌や唇、嚥下、さらに手足を動かす神経が両側とも損傷されたためです。
失語症と違い、Kさんは相手が話すことはすべて分かります。そこで動かせるまぶたや目で、五十音表を用いた意思伝達の訓練をしました。例えば「おなかが痛い」なら、看護婦が順に。指さすア行で目を閉じて合図し、縦のアイゥエオのオで合図して「オ」、次はナ行のナで合図して「ナ」というふうに、一つずつ文字を決めて文章を作るのです。よく使う「はい」「いいえ」「痛い」「トイレ」などは別にカードを作りました。
並行して、声や唇を動かす訓練、息を吐く訓煉などを一生懸命行いましたが、なかなか声は出せません。その後、右手の指がわずかに動くようになってきたので、パツコンの活用を考えました。手は左右に動かせないので、特殊なワープロソフトと、軽いスイツチを購入しました。
やり方は目を使ったときと同じです。画面に五十音表が出て、アから順に色が変わり、ア行でスイッチを押すと今度は縦に順に色がつき、Kさんがいい。と思ったところでスイッチを押すと、その文字が選択されます。選択された文字は漠字変換でき、入力されます。
これでKさんは時間はかかりますが、自分の思ったことを漠字の文章で知らせることができるようになりました。また、作った文章をプリントして手紙も出せます。それまでは必要最低限のことしか伝えられなかったKさんがいろんなことを考え、感じていることが私たちにも分かるようになりました。
その後、Kさんは電子メールも出せるようになり、より多くの人とコミュニケーションがとれるようになりました。手足のまひは重度で自分では動けませんが、自宅で家族、友人たちに支えられて毎日パソコンに向かっています。
現在ではスイッチひとつでカーテンの開閉、テレビや電話を使える機器のほか、声だけで動く装置もあります。最近の電子機器の発達をうまく利用し、重度の障害があっても、その人のQOL(生活の質)を高めることを考えることも大切なリハビリの一つです。
(鹿児島大学医学部りハビリテーション科・緒方敦子、田中信行)
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