第41回:道に迷う
ボケと思わず、まず相談
脳卒中や脳外傷の症状の一つとして、自分の家や部屋、トイレなどの場所が分からなくなることがあります。お年寄りがよく知っているはずの自宅周辺で道に迷ったり、患者さんが長く入院している病院の中で「あのー、私の部屋はどこでしょうか」とたずねる、などの症状がそれです。
一口に道に迷うといっても、脳のどの機能が妨げられているかによって症状が分かれます。最も知られているのが痴ほう、つまり脳の全般的な働きが低下して道に迷うものです。健康な人でも、疲労や飲酒で脳機能が低下したとき、ふと今いる場所が分からなくなることがありますが、これはその延長といえます。
ほかに脳の一部の障害が道に迷う原因になるものがあります。「地誌的障害や視空間失認」という症状は、場所という平面の認識力が低下したり、左側にある道や建物を見落とすものです。多くは脳の後頭葉や頭頂葉の損傷が原因です。一方、側頭葉や後頭葉などの障害で起こるのが「町並み失認」です。よく知っているはずの風景や建物の形が認知できなかったり、記憶がかき乱されて道に迷ってしまいます。
まれなものでは、主に右の脳梁(りょう)膨大部後部の損傷によって起こる「道順障箸」もあります。風景の理解も記憶も正常なのに、家や道路、また部屋と部屋の位置関係や順序が分からなくなるものです。
人間の動作は、家や部屋に帰るという単純な作業一つをとっても、非常に複雑な脳の働きを経ています。したがって一口に「道に迷う」といっても、さまざまな原因が考えられるのです。すぐにぼけたと思わずに、専門医に相談してください。的確な診断を受ければ脳血流や脳機能を活発にする薬の処方や、脳機能を再び鍛える作業療法、また部屋やベッドに目印を付けるなどの対策が非常に有効です。最近は、迷子になりやすい患者さんに発信器を持たせ、衛星ナビゲーターを便って見つける試みも行われています。
家族や周囲の人は患者さんの外出には必ず付き添って、患者さんを一人にしないようにしてください。治りにくい症状ですが、患者さんの悩みを理解し、気長に見守ってください。
(鹿児島大学医学部リハビリテーションセンター・田中違也、田中信行)
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