第50回:前頭葉障害

自発的な行動を促して

 交通事故や脳卒中などで大脳の前頭葉に障害を受けると、手足のまひや言語障害は特にないのに、自発性や集中力、記憶力、物事を総合的に考える能力が低下するということがあります。逆に、思いついたら即行動したり(脱抑制症状)、怒りっぽい、飽きっぽいなどの人格変化が起こることもあります。いずれも社会復帰には大きな妨げとなります。
 五十歳男性のAさんはくも腹下出血のため脳神経外科で手術を受けました。手術は成功しましたが、血管れん縮による前頭葉の脳こうそくを起こしました。当センターに入院したときは、手足のまひはないのに自分では何もしようとしない状態でした。指示しても30秒と続かないうえ、すぐほかのことに気をとられます。応答は遅く、的外れ。食事は介助が必要で、尿失禁もありました。
 リハビリは、まず脳を活性化するアマンタジンやメチルフェニデートという特殊な薬を使いながら、立ち上がりの練習や平行棒歩行から始めました。尿失禁には、ぼうこう機能検査を行って薬物療法を行い、決まった時間にトイレヘ誘導しました。自発性や運動能力が上向いてくると、それに応じて指示や介助を減らしていきました。約ニカ月後にはAさんは自分から歩くようになり、食事やトイレもほぼ自力でできるようになりました。現在は外来通院しながら復職を目指していますが、まだまだ時間がかかりそうです。
 前頭薬障害は一見、怠け者のように見られます。前頭葉は脳の中でもっとも高度な働きをする部分で、「人間らしさ」すなわち自ら考え、複雑な出来事を適切に処理し、行動することにかかわっています。
 そのリハビリは非常に困難ですが、少しずつ回復させることは可能です。体を使った単なる訓練でなく、症状に応じて薬を使い、ノートで一日のスケジュールを立てる、日記をつける、計算問題を解く、旅行や買い物などいろいろな計画を立てさせる、など自発的に頭を使うことが大切です。以前していた仕事を模擬的にやってみるのも、効果があります。
 回復には時間がかかり、本人も周囲もイライラしがちですが、温かい目で見守ってください。社会や家庭復帰まで至らなければ、障害者向けの授産施設や療養施設、中高年なら介護保険を利用できる場合もあります。
 (鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・佐々木浩文、田中信行)

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