第52回:障害を克服する力

家族の協力と支え大切

 Tさん(44歳、男性)が、久しぶりに霧島リハビリセンターを訪ねて来ました。4年前、脳出血による左片まひのため1人で座ることもできない状態で入院してこられた方です。現在はつえはなし、日常生活も自立して、30分の電車通勤で仕事を続けています。
 入院当初のTさんには、左片まひのほか「左視空間失認」というやっかいな症状がありました。リハビリへの集中力や意欲の低下、周囲への不注意があり、転倒することも再三ありました。ベッド周辺は乱雑で、薬も忘れがちでした。
 リハビリでつえでの歩行はできるようになりましたが、身の回りのことさえ満足にできないTさんに、奥さんはずいぶん悩まれていました。さらに夫の実家との問題や父親としての役割、幼い子供の養育、家計の基盤となるTさんの復職など、奥さんの悩みや不安はつきません。私たち看護婦はそれをじっくり聞くと同時に、同じ症状で回復した人の話や、「失認」に対する注意についても話すよう努めました。
 そうした中、奥さんはTさんの早めの退院を決意し、在宅でのリハビリに踏み切りました。同時に何度も夫の会社に足を運び、復職を実現させました。転勤になってからは会社の近くに引っ越し、初めのうちは毎日夫の送り迎えをしました。今では夫の実家が3人の子供の世話を手伝ってくれ、奥さんも仕事を持って働いているそうです。
 突然の事故や脳卒中で障害を受けた場合、本人や家族の悩みはさまざまです。障害の重さにもよりますが、看病とともに子供の世話や復職、お金が大きな問題になります。解決には本人の力だけでなく、家族の協力や支えが不可欠です。それはかねて家族が長い時間をかけてつくり上げた親密さで決まるもので、Tさん一家にはその「家族の力」があったため、これほどの立ち直りができたのだと思います。
 病気や重い障害を受けたとき、家族がその障害をあるがままに受け入れる(受容)ことで、本人に生きる力を与えられます。私たち看護婦も患者さんや家族の心情に配慮しアドバイスできるよう努力しますが、家族の協力なしにはそれも十分に生かされません。また家族が苦難をともに乗り越えられたとき、より一層強い結束が生まれることになります。
 (鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・三石久美子、田中信行)

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