第53回:おしゃべりな失語

根気強い声掛けで回復

 意味のかなった言葉でしゃべったり、相手の話を理解する脳の働きは、左側頭葉のウェルニッケ中枢が中心になっています。ここに脳卒中や外傷、腫瘍(しゅよう)で傷害が及べば、言葉はすらすら出ても正しい音韻でないため相手にはちんぷんかんぷん、相手の話もうまく理解できません。このような失語をウェルニッケ失語といいます。
 63歳、女性のNさんは脳出血をおこしました。幸い、軽い右まひですみましたが、意味不明の言葉の羅列が見られ、2カ月目に霧島リハビリセンターへ転院して来ました。
 得意料理をたずねると、「おとこんぶをかちりすのへっきょくに入れて、つりて、こんみちがなるのきゅうとします。あらあら、先生、あらー」といった具合で、言語明りょうながら意味不明です。「よい天気ですね」という会話や「ひざを3回たたいて」という指示も、理解している様子がありません。
 訓練では、単語を聞いて絵カードを選ぶ、絵カードと文字カードを合わせる、それを復唱する、身の回りの物に名前を付ける、国語の教科書を音読する、人と一緒に童謡を歌う、などを根気よく毎日行いました。
 入院4カ月目には単語の理解が向上し、言葉の羅列も減ってきました。この時点で退院とし、言語聴覚士のいる近所の病院で週2回リハビリを続けることを指示しました。半年後に会ったNさんは、日常会話がかなり成立するまで回復していました。
 ウェルニッケ失語の言語療法は、昨年6月21日付の本紙で述べた「おしゃべりしないブローカ失語」以上に、専門的で長い訓練を必要とします。1年近く入院する人も少なくありませんが、身ぶり手ぶりを交えた会話が十分できる家族があるなら、早めに退院することもできます。四六時中熱意たっぷりに行われる家庭リハビリと、言語聴覚士による専門のリハビリを組み合わせれば、入院以上の効果も考えられます。
 ウェルニッケ失語は、ともかくもおしゃべりができているのですから、本人や聴覚士、医師、家族の協力でそれなりに良くなるものです。あきらめないで、その時点で最善のリハビリの方法を話し合うことが大切ではないでしょうか。
 (鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・川津学、田中信行)

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