第55回:日常生活動作の自立

反復練習と道具を工夫

 日常生活動作(ADL)とは、毎日の生活における最も基本的な身体動作のことです。具体的には食事や洗顔、髪の手入れ、着替え、排せつ、入浴、歩行や移動などが挙げられます。脳卒中や交通事故で手足のまひや関節のこわばりなどの障害が出ても、リハビリですべて元通りになるわけではありません。ですが、何らかの方法でADLを自立させることもリハビリの目的の1つです。
 例えば脳卒中片まひの人の排せつは、
 (1)車いすやつえを使ってベッドからトイレまで行く
 (2)ドアを開けて中に入る
 (3)ズボン、下着を下ろす
 (4)便器に座る
 (5)ちり紙を使う
 (6)水を流す―
など一つひとつの動作をすべて片手で行う訓練をします。
 脊髄(せきずい)損傷で下半身が全く動かない人でも、腕や腰、背筋を鍛えればベッドから車いすを使いトイレに移動することもできますし、改造した車で運転することもできます。
 食事動作に障害がある人の場合には、食器に工夫ができます。まひやリウマチで手指が変形しているなら、プラスチックなど柔らかい素材で手の変形に握りを合わせたスプーンやはしを作ります。食べ物をすくいやすいように皿の底を滑りにくくしたり、縁を内側に曲げた食器もあります。まな板にくぎを打って大根などの食材を突きさせば、片手でも調理ができます。
 言葉が話せない障害なら手話やジェスチャーを覚えます。文字キーを打つとその言葉を発声するコミュニケーションエイドという機械も使えるでしょう。両手足まひの重度障害であっても、あごや唇の動きを認識する機械を使えば、電気スイッチやテレビのチャンネルを操作することもできます。
 住宅改造も大切な要素です。トイレを和式から洋式にしたり、出入り口を広げたり、段差を解消して手すりを付ければ、障害があっても自分でできる動作はぐんと広がります。
 いずれも簡単ではありませんが、本人の努力や道具の工夫が自立につながっていきます。「見ていられない」とか「時間がかかる」ということで周囲が手出しして、本人のやる気を妨げないようにしてください。リハビリとは「失ったものを嘆くのではなく、得られたものを喜ぶ」ことなのです。
   (鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・有馬美智子、田中信行)

目次に戻る