第57回:意欲・自発性の低下

抑うつ状態への対処を

 何をするにも、目的意識を持って自発的にやることが上達の基本です。リハビリでも意欲や自発性−いわゆる「やる気」はとても大切ですが、「やる気」の出ない人にはどう対処したらよいのでしょうか。
 59歳、男性のSさんは会社社長として精力的に働いていましたが、脳出血で片まひと軽い失語症になりました。入院してリハビリが始まりましたが、訓練室に行っても表情が暗く、すぐ部屋に戻ってため息をつく姿がよく見られました。家族が「早く歩けるよう頑張って」と応援しても状況は変わりません。
 意欲や自発性がなえる原因として、まず全身性の病気や脳機能の低下、軽い意識障害が考えられます。高齢者の場合は貧血や脱水、感染にも注意すべきです。異常がない場合はうつ病の発症や軽い脳卒中の再発、痴ほう、薬物過剰(睡眠薬や安定剤など)などが考えられます。いずれにしても、専門医の診断を受けることが大切です。
 次に多いのは気分が落ち込んでいるケースです。病気や障害、失業やお金の問題でうつ状態になることはだれでもあり得ます。リハビリの過程で、自分の身体障害を受け入れられない、あるいは家庭や社会に帰れないのではという不安から抑うつ状態になる人は多いのです。
 Aさんも身体や仕事のことで悩み、目標を立てられないでいたのです。こういった場合、むやみな励ましは「私はこんなに頑張っているのに」と逆に抑うつを強めるのでいけません。本人の悩みや不安をじっくり聞く姿勢が一番大事です。わかりやすいリハビリ指導や良くなった人の経験を話してもらうのも効果があります。また、うつ状態では脳内のセロトニンやエピネフリンという物質が減少しているので、それを増やす抗うつ剤、不安や心配を和らげる安定剤を服用するといいでしょう。
 Aさんには少量の抗うつ剤を処方し、外泊で気分転換をはかったり、家族や職場の人と職場復帰の話し合いも行いました。Aさんは徐々に笑顔が見られるようになり、訓練室にも自分から車いすで出かけるようになりました。
 難しい病気や家族関係、お金、復職が絡む場合には、なかなか意欲が戻らないこともあります。しかし、意欲のなさを年のせいや脳卒中のせい、社会的背景のせいにしてすぐあきらめない姿勢が最も大切です。
 (鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・下堂薗恵、田中信行)

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