第58回:障害者のスポーツ

おくせず能力生かして

 スポーツには、楽しい遊びの要素と、心身の鍛錬という二つの要素があります。今やスポーツは、障害者であっても健常者であっても、やる気さえあれば全く同じように楽しめる時代になってきました。
 Sさんは44歳の男性です。交通事故で腰髄を損傷し、下半身まひになりました。両足は全く動かず、座るのがやっとという状態で入院してきました。
 リハビリは、まず自力でヘツドから車いすに乗り移る訓練から始めました。肩や腕の筋肉を、足を伸ばして座った姿勢でおしりを上げる訓練(プッシュアップ)や鉄亜鈴、車いす駆動訓練で徹底的に鍛えました。もともと野球やバスケットボールをやっていたSさんの上半身の力はめきめき強くなりました。自力で車いすに乗って院内を動き回れるようになると、めいっていた心も日増しに明るくなりました。
 そんなある日、テレビで車いすマラソンを見たSさんは、これをやろうと決意しました。家族はとんでもないと反対しましたが、およそ2年間、徹底したトレーニングを積んで大分国際車いすマラソン大会に参加。見事42.195kmを完走したのです。Sさんはこれに大きな自信を得て事務職に職場復帰しました。現在は仕事の傍ら、数人の仲間で車いすマラソンチームをつくっています。ちなみに車いすマラソンの日本記録は約一時間三十分。足で走るよりずっと速いのです。
 障害者スポーツは車いすを使ったものだけでもマラソン、バスケット、ボウリング、テニス、ゴルフ、スキー、最近では健常者とペアを組む車いす社交ダンスなどがあります。楽しむものから記録を目指すハードなものまで多種多様です。オリンピックの前後にはパラリンピックなどの国際大会も開催されます。
 気後れする、他人に迷惑をかけると言って、外出すら敬遠する障害者もいますが、それは全く間違った考えです(WEB master 註)。障害者スポーツの専門家や医師のアドバイスを受けながら、自分の好みや体力に応じて挑んでください。
 身体に残った能力を最大限生かし、仕事にもスポーツにも挑戦しましょう。世界の社会環境は、障害を一つの個性ととらえ、それを当たり前に受け入れる方向に変わっていきつつあります。
 (鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・松元秀次、田中信行)

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WEB master 註:この「間違った考え」という表現について、本欄の熱心な読者である障碍者の方(WEB master の知人でもある)から抗議(のようなもの)を頂いたので、WEB master の独断で訂正しておきたい。
 気後れして引っ込み思案になりがちな心のありようは、確かに損をするかも知れない。障碍者であれ、健常者であれ、何事にあたっても臆することなく、積極的な方が望ましいし、周囲の人間にも好ましい影響を与えることが出来るだろう。しかしながら、当の障碍者だって、そんな事は先刻承知のことである。承知の上でもどうしようもない気持ちというものだってある。それを、正しいとか間違いとかいう言葉で括ってはならないだろう。「全く間違った考え」などと言われれば、それは「強者の傲り」だと噛み付きたくなる障碍者がいてもおかしくはない。そのような「強者の傲り」こそが、私たちの社会の中にバリアを形作っているのではないか。
 頂いた「抗議」は、概ね以上のようなものであった。返す言葉もない。
 まったく、その通りだと思います。ただ、今回の原稿担当者は決して「傲った」人間ではないと私は思います。週1の原稿に追われる中、頑張って欲しいという気持ちが空回りしたのだろうと思われます。とりあえず、WEB master の独断で訂正を申し上げます。
(この項文責=WEB master,000731 記す)