第60回:クォリティー・オブ・ライフ
多様性認め合う社会に
リハビリは、まひなど身体機能の回復を促すものから歩行など能力を回復するもの、さらには心理的、社会的レベルに及ぶものまであります。リハビリはもともと、戦傷病者の社会復帰に有用として米国で認められました。当時盛んに言われたのが「リハビリを受ければ障害者もタックス・ペイヤー(納税者)として社会復帰できる」ということだったそうです。
しかし、今や障害者の多くは高齢者です。最近はピンピン・コロリという言葉も耳にします。元気にピンピン生きてコロリと死ぬのが望ましいという意味で、そのような観点から「平均自立期間」という尺度も考え出されました。介護なしで過ごした期間の長さで「寿命の質」を測ろうというわけです。なるほど、自立するのは貴いことですが、だれも好んで病気や事故にあい、老いていくわけではありません。
近年、医療と福祉の現場では「QOL(クオリティー・オブ・ライフ)」という言葉が広く使われています。直訳すると「生命の質」とか「生活の質」という意味になるのですが、別に生命や生活の質を他人からうんぬんされなくとも、私たちは皆それぞれに、かけがえのない今日を生きています。
もちろん、機能回復訓練や能力訓練によって日常生活動作を自立したり、心理的・社会的自立を模索したりすることは大切です。ですが、皆がみな死ぬまで他人の世話になってはいけない、というわけではないでしょう。自立のありようは、人それぞれ異なっていてもいいはずです。
まずは、自分が生きていてよかったと思えること、互いの存在を喜び合えることにこそ「生活の質」を見いだしたいと思います。どんなささいなことであれ「自分の居場所と役割」があることが、生きる希望になってくることでしょう。他人の生命や暮らしの質を測るのではなく、多様な価値を認め合い、支え合う社会を目指したいものです。
本来、リハビリテーションという言葉は、破門になったキリスト教徒が信徒に復権することを意味していました。転じて、現在では人間としての尊厳を復活するという意味になるかと思います。事故や老いによって、身体に障害の不自由さは残るかもしれません。笑顔ばかりでいられない日もあるでしょう。それでも、自分らしさに胸を張れることが、人間としての尊厳ではないでしょうか。
(鹿児島大学医学部リハビリテーション科・東郷伸一)
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