第66回:在宅酸素療法

療養しながら社会復帰

 肺から取り入れられた酸素は血液中のヘモグロビンと結合します。それは心臓を経て全身に送られ、生命維持に必要なエネルギーを生み出します。老廃物として生じた炭素ガスは再び肺に戻り、呼吸で体の外に放出されます。つまり肺は、酸素を取り込み炭酸ガスを排出するガス交換の場なのです。
 肺気腫や肺結核の後遺症などで肺の機能が損なわれて血液中の酸素が不足したり、炭酸ガスがたまったりした状態を「慢性呼吸不全」といいます。呼吸困難だけでなく、頭痛や不眠、注意力低下などの症状も現れます。また低酸素による肺血管の収縮などによって、心臓にも負担がかかってきます。
 このような症状には外から酸素を補う治療が必要になりますが、それを家庭でできるようにしたのが在宅酸素療法(HOT)です。酸素供給機器を家に置いて鼻チューブで酸素を送り込むもので、1985(昭和60)年に健康保険がきくようになってから急速に普及しました。全国では現在7万人以上の患者さんがHOTを受けています。
 HOTは、動脈血酸素分圧が55 Torr(トリチェリ)以下の人と、60 Torr 以下で睡眠時または運動時に著しい低酸素血症をきたす人が対象です。肺疾患だけでなく、重症心臓病や筋ジストロフィーなど神経筋疾患による呼吸不全の人も使えます。
 73歳のMさんは、10年前に肺気腫と診断されました。去痰(たん)剤や気管支拡張剤を服用するほか、禁煙指導や腹式呼吸などのリハビリを通院で続けていました。しかしなかなか禁煙できなかったMさんは、わずかな歩行でも息切れするようになって運動できなくなり、手足の筋力も低下してきました。
 動脈血酸素分圧が53 Torr まで低下していた3年前、HOTを開始しました。これで呼吸困難を起こしにくくなったMさんはめきめき元気を回復。家事や軽い散歩ができるようになって、手足の筋力も戻ってきました。
 現在、HOTを受ける患者さんの8割が、酸素濃縮器という空気中の酸素濃度を90%にまで濃縮できる機械を利用しています。外出には軽量化した携帯用酸素ボンベを使います。HOTは、住み慣れた家で療養しながら行動範囲を広げ、趣味や仕事を楽しむことを可能にします。しかし残っている肺の機能を落とさないための適切な呼吸訓練や運動、薬と併用することを忘れないでください。
 (鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・吉田輝、田中信行)

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