第69回:主婦の家庭復帰

練習と工夫で家事克服

 家庭の主婦が脳や手足に障害を持った場合、食事の準備ができるかどうかは大切な問題です。もちろんそれができないとダメ、というわけではありませんが、多くの人は世話されるだけでなく、できれば一品でも家族のために料理を作れる「主婦(母)」に戻りたいと願います。炊事訓練は、リハビリにおける作業療法の一環として本人の自立と生きがい、QOL(生活の質)を高める重要な訓練の一つです。
 リウマチなどによる指の変形や片手切断などの障害なら、太い握りのお玉やレバーを長くした水道栓など道具の工夫のほか、片手動作の練習が非常に大切です。ところが、脳卒中や脳の外傷による片まひの場合は、単なる片手動作の訓練だけでは済みません。脳の障害の場合、材料や炊事道具がよく分からない(失認)、道具の使用法や手順を間違える(失行)、火やお湯・刃物に注意できず、危険防止が拙劣であったりします。さらには味覚の変化などを伴うことも多く、十分な訓練が必要です。
 63歳、女性のAさんは脳出血のため、右片まひと失語症になりました。初めは包丁の刃を握ろうとしたり、ざるをお玉の代わりにするなど、なかなかうまくいきませんでした。料理を作る手順も分からず、困惑して「ばかになってしまった」と落ち込んでいました。しかし、道具の使い方や手順の練習をすることで、退院するころにはカレーや煮しめなど6品の料理を1人で作れるようになりました。今では家族と一緒に買い物に行き、料理を楽しんでいます。
 われわれが簡単に行っている動作は、実は複雑な脳の働きで成り立っています。しかし、これまでにも繰り返し書いてきたように、脳は大きな機能回復力(可能性)を持っています。それは炊事能力でも同じです。障害を持つようになっても、あきらめずに簡単な動作から練習を始め、家族もそれを支えてあげることが大切です。フードプロセッサーや電子レンジ、半調理済みの食品を使えば、献立の範囲はもっと広がります。
 最後に、脳卒中による味覚障害もしばしば見られる症状ですが、「カルバマゼビン」という薬が有効なこともあります。
 (鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・鎌田克也、柴山和代、田中信行)

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