第75回:記憶障害
「思いだし練習」反復を
記憶障害は、加齢のほか脳卒中、脳外傷、脳炎、アルツハイマー型痴ほうなどでよく見られる症状の一つです。改善が難しい場合にメモ帳やテープレコーダーで補う方法は以前に述べました。今回は、記憶障害そのもののリハビリについてお 話しします。
一般に記憶は三つの段階に分かれます。まず覚えて(書き込み)、次にそれを覚えておいて(保持)、必要なときに思いだす(再生)という過程ですが、軽い記憶障害では通常、最後の思いだす段階が問題になります。つまり覚えているのに思いだせない、という“ど忘れ”に似た症状です。思いだすべき事柄を教えると「そうだった」とたちまち合点し、「知っていたのに」と残念そうな顔をします。
周囲が教えてしまうとリハビリになりませんが、こうした再生段階での障害には、次のような対策があります。
たとえばリンゴを見せて隠し、ミカンだったかリンゴだったか尋ねます。バナナやブドウを加えて数個の中から選ぶようにすると難易度が上がります。見せてから尋ねるまでの時間も延ばしていきます。
また、リンゴを見せて隠してから、果物、赤い、「リ」が付く、などヒントを少しずつ出して答えを当てるやり方もあります。ヒントを減らし、見せてから尋ねるまでの時間を長くすると難易度は上がります。トランプゲームの神経衰弱はこれを難しくしたものといえます。リハビリでは4枚や6枚から始め、枚数を少しずつ増やしていくと、その人に合った難易度が見つかります。
このようなリハビリは、果物やトランプがなくても絵や図形や文字の描かれたカードで自由に応用できます。また見せる代わりに物品名を聴覚を通して聞かせることでも訓練はできます。
記憶障害は、元の病気によっては進行することが少なくありません。しかし、最近承認されたアルツハイマー型痴ほうのドネペジルという薬のような脳代謝改善薬や、必要なら高気圧酸素療法などの治療法もあります。軽症のうちは生活習慣の確立、歌やゲームを取り入れた遊ビリテーションとこれらの療法を組み合わせながら、記憶障害そのもののリハビリを積極的に進めたいものです。
(鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・川津学、田中信行)
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