第77回:脳卒中患者の口腔ケア
歯磨き、義歯調整まめに
脳卒中のリハビリで、片まひや失語症、尿失禁などの後遺症の陰になって忘れられがちなのが口腔(くう)ケアです。
高齢者や体にまひがある人は、歯磨きや入れ歯の手入れが不足しがちです。口の中に雑菌が繁殖して汚い舌苔(ぜったい)がたまったり、口臭がひどい患者さんもしばしば見られます。この雑菌をだ液や食物と一緒に誤嚥(ごえん)すると、高率に肺炎を併発しやすくなります。歯肉の炎症や虫歯の悪化もしばしば見られる症状です。また点滴や流動食が続いたり、まひのために咬合(こうごう=ものをかみ合わせる)力が衰えたりすると、歯肉がやせ、義歯が緩んできます。
男性のTさん=当時(64)=は2年前、脳こうそくのリハビリのために入院してきました。発症後2週間は何も食べられず、体重が12キロも減りました。多発性脳こうそくのため水を飲んでもむせ、左半身まひに加えて口や舌もうまく動かず、寝返り、起きあがりから着替え、はいせつも要介助で、ADL(日常生活動作)が3点という状態でした。
口の中を見ると自分の歯は6本しかなく、歯がグラグラし、虫歯や歯肉のはれもありました。だ液が少ないため口の中が乾燥して、まひのある左側には食べかすが残っていました。入れ歯は緩くなり、ガタガタでとても使えません。本人と家族にも毎食後の歯磨きを注意し、入れ歯は作り直すことにしました。
霧島リハビリセンターの研究では、脳卒中で歯科受診を希望した患者さんのうち64%が義歯の不調を訴えています。原因は歯肉の委縮や唇、舌、かむための筋肉のまひ、歯周病、虫歯の悪化です。治療後には食事の摂取量や食事にかかる時間、発音、表情、食べるときの姿勢も改善しています。
新しい入れ歯を入れたTさんは、わずか2キロだった咬合力が8キロへ、2カ月後には13キロまで増強されました。こまめな歯磨きで口臭や舌苔も消えました。日常生活のリハビリも進んでADLも78点となり、つえ歩行ができるまでになりました。現在では普通に食事を取り、元気に毎日を過ごしています。
食物の取り入れ口である口腔を清潔にし、歯科医と連携を取りましょう。歯や歯肉の機能を保つことは、大切なリハビリの一つです。
(鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・川坂哲男、田中信行)
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