第81回:手術前訓練
肺合併症の予防に効果
手術で体の悪い所を切除したとき、その後の合併症や体力低下の防止は非常に大切です。
ほとんどの手術では患者に全身麻酔をかけ人工呼吸器を挿管しますが、この麻酔ガスや呼吸管理の刺激を受けることによって肺の中では分泌物=痰が増えてしまいます。手術後は切った部分(創)の痛みで強いせきができないため、気管支が痰でつまる無気肺や肺炎などの呼吸器合併症が起こりやすくなります。この合併症で寝込めば、さらに心肺機能は悪化してしまいます。
そこで「術前リハビリ」という概念が生まれてきました。手術前からせきや痰を出す訓練や腹式呼吸訓練、自転車こぎなどの有酸素運動をして、心肺機能や体力・筋力を向上させておくのです。
69歳、男性のNさんは先日、肺がんによる二度目の手術を受けました。2年前にも左肺の部分摘出をしたのですが、術後の排痰困難のため気管切開が必要になり、非常に苦しい思いをしていたのです。今回再手術が必要となり、二度とあんな苦しい思いはしたくないと約2週間、排痰や腹式呼吸、筋力訓練を十分に行ってから手術に臨みました。その結果、手術後の排痰は非常に力強く、スムーズにいきました。
Nさんは肺炎を起こすこともなく手術後2週間でほぼ全快、転院されました。
排痰訓練の中でも特に「ハッフィング」は有効です。手術の傷口を保護しながら効果的にせきをする方法の一つで、ハーッと息を速く吐いて肺の隅にたまった痰を上方へ移動させるもので、せきをする前に行うと効果的です。
肺活量を増やし、せきを力強くするためには腹筋運動も大切です。特に腹式呼吸は肺の換気効率を高め、筋緊張も緩めます。深呼吸や排痰訓練にはスーフルやトリフローという訓練器具もあります。自転車こぎも心肺機能や全身の筋力を向上させますが、階段の上り下りや少し急ぎ足の散歩を心がけるだけでも十分効果はあります。
リハビリというと手術後のものと思われがちですが、私たちは「術前リハビリ」という新しい考え方で呼吸器合併症や体力低下を予防し、患者さんが早くベッドから離れられるよう促しています。
( 鹿児島大学医学部附属病院理学療法室・ 園田睦、田中信行)
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