第88回:入院中の酒、コーヒー

適量なら回復を手助け

 患者さんの病院での生活環境をできるだけ快適なものにすることは、安定した精神状態で治療やリハビリに取り組むために大切なことです。特に食事は変化のない入院生活では大きな楽しみの一つですから、病院側も献立や味付けにはいろいろな工夫をしています。しかし、お酒やコーヒー、紅茶といった嗜好品については、ほとんどの病院で考えられていないと思われます。
 少量のお酒は食欲を増す上、睡眠を促す効果があり、一律に禁止すべきかどうか疑問があります。実際、欧米の病院では入院患者に食前酒としてグラス1杯のワインやシェリー酒を出しますし、コーヒー、紅茶は日常的な飲み物です。
 当センターは十数年前、患者さんや家族、職員に対して病院での少量のアルコール提供についての考えを調査しました。また実際に梅酒を飲んでもらっての熟睡感、ほろ酔い感、血圧、脈拍などの検査も行いました。その結果、特に大きな問題は起きず、逆に食欲増進、熟睡、精神的リラックスなどの効果が見られました。
 現在は希望される患者さんに週2回、夕食時に30ミリリットルの梅酒を出しています。もちろん重症の患者さんや肝臓病、胃かいようなどの人は除きます。病院内の規律が乱れたり、自制できなくなるのではと不安視する声もありましたが、トラブルは全く起きていません。コーヒーや紅茶も、インスタントではありますが、病棟に常備し、患者さんが飲みたいときにいつでも利用されています。
 これらのサービスは患者アンケートでも好評でした。梅酒は60%の人が楽しみとし、よく眠れる、食欲が出るなどと回答。コーヒー、紅茶も93%の患者さんに喜ばれ、気分が落ち着く、心が和むなどの回答をもらいました。
 病院ではどうしても薬や点滴、リハビリだけに目が行きがちで、食事は治療食としてのみ考えられがちです。一般に、病人や障害者は「治療やリハビリさえやっていればいい」との考えが多く見られます。しかし、少しのお酒が食欲を増し、1杯のコーヒーや紅茶がリハビリの疲れやストレスをいやし、回復への意欲を高めることにつながるのです。
 病気や障害を持ちながら施設、あるいは自宅で暮らす高齢者が増えた今日、適量の嗜好品をうまく取り入れることが大切だと思われます。
 (鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・田栗教子、三石久美子)
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