第92回:治る痴ほう
潜む病気の見極め大切
いったん獲得した知的能力が著しく後退した状態を痴呆と呼びますが、これまでアルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆を紹介しました。さらに今回は、第3の痴ほうとして「治る痴呆」を紹介します。
治る痴呆は、別名続発性痴呆、仮性痴呆などと呼ばれていますが、元の病気が存在し、それによって痴呆の症状が出現している状態をいいます。病気を見抜いて治療を行えば、症状は改善することが期待されます。
Aさんはボーッとして何をするにも長続きしなくなったと家族が連れてきました。また、玄関に排尿したそうです。頭部CTで脳と頭がい骨の間に血腫が確認されました。4カ月前にふろ場で転んだことがあるとのことで、慢性硬膜下血腫ということになります。脳外科で血腫を吸引し脳への圧迫を除いたら、元のはつらつとしたAさんに戻りました。
Bさんは動脈瘤破裂によるくも膜下出血で動脈瘤をクリップでとめる手術の後、リハビリに励んでいるうちに、精彩を失い満足に応答ができなくなりました。歩行時のふらつきや排尿障害も起き、頭部CTで脳室拡大が確認され、正常圧水頭症と分かりました。貯留した脳の髄液を腹膜に流すシャント術を行うとBさんは頑張り屋に戻りました。
Cさんは定年退職と妻の事故死が重なりました。初めは気を張りつめていましたが、いつしか風船がしぼむようにしょんぼりとなり、引きこもってしまい、大切なことを何も決められません。また給食サービスにも、ろくに手をつけず布団も万年床です。ときどき訪れる娘がたまりかね、外来に連れてきたので、症候性うつとして抗うつ剤を少量開始したところ、次第に快活になっていきました。
これら以外にも、治る痴呆があります。中毒性のものとして、向精神薬、睡眠剤、アルコールなど、代謝性のものとして高血糖、低血糖、電解質異常、バセドー病、肝不全、腎不全など。また脳腫瘍やヒステリーも忘れてはなりません。
知的能力が後退したような状態の奥に潜む病気を見抜くこと、見抜いてもらうことは、個人が充実した人生を続けていくために最も重要なことだと思います。初めからあきらめるのではなく「治る痴呆があると聞きましたが」などと、かかりつけの医師に一度尋ねてみるとよいでしょう。
(鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・川津学、田中信行)
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