第94回:誤用・過用症候群

状態考え適量の訓練を

 いろいろな疾患で、早期の適切なリハビリの重要性や不必要な安静による筋力低下、関節のこわばり、ボケなどの「廃用症候群」の怖さについては何度も述べてきました。
 しかし、誤った訓練方法や過度の訓練は、逆に「誤用あるいは過用症候群」といわれる害を与えることもあり、注意が必要です。特に脳卒中後遺症などで度々見かけるのは、肩関節の誤用性損傷と過用性関節炎です。
 Mさん(65歳、男性)は脳出血で左片まひを生じましたが、約1カ月半のリハビリを受け、歩行もできるようになり自宅に帰りました。このときに左肩を自分自身で動かした際の範囲は挙上120度、外転90度とやや不十分でしたが、痛みもなく、着替えや洗髪などの日常動作に支障はありませんでした。しかし、Mさん自身がさらに肩の動きの改善を期待し、良い方の手で、まひ側の腕を上に引っ張る訓練を1日に何十回も繰り返しました。その結果、徐々に肩関節に痛みが生じて、可動域が減少し、日常生活にも支障をきたすようになりました。
 腕を挙げる運動の3分の1は、肩甲骨の回旋で行われています。肩甲骨を動かさずに腕だけを無理に上にひっぱったために、関節周囲の腱(けん)や関節包の小さな断裂、内出血をおこし、痛みが生じたのです。関節の安静と局所麻酔剤・ステロイド剤の肩関節注入と消炎鎮痛剤の服薬により、痛みを和らげて、肩関節のリハビリを再開しました。肩甲骨回旋を加えた肩関節屈曲訓練と肩甲骨を固定した肩関節外旋訓練を繰り返したところ、痛みは徐々に消失し、可動域も改善しました。
 そのほかの誤用には、脳卒中片まひ患者の不適切な装具使用や誤った歩行訓練による反張膝(はんちょうひざ)(ひざが過度に伸展している状態)、そして関節のこわばりの過度の矯正による異所性骨化などもあります。過用には、ポリオや筋ジストロフィーなどで過度の筋使用による筋力低下などが挙げられます。
 良いリハビリのためには、患者さんの状態にあった正しい訓練方法や適切な訓練量が重要です。訓練に際しては、医師および療法士の適切なアドバイスを十分に受けるよう心がけてください。
 (鹿児島大学医学部霧島リハビリテーションセンター・鶴川俊洋、田中信行)
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