Xさんを連れて家族が外来に来たのは3年前のことです。Xさんはパーキンソン症
候群のため、起居動作が困難で、痴ほうの初期症状も出ていたため、家族は入院治療させたかったのです。しかし、Xさん本人は頑として拒否しました。
薬物治療も受けていなかったXさんは、無表情で反応が乏しく、意欲も低下していました。しかし、最低限の筋力は保たれていて、適切な指示があれば在宅でもリハビリができそうでした。
早速、訪問スタッフに連絡をとり、もっとも簡単で効果的なものとして、起立訓練から始めました。しかし、Xさんは、立ち上がろうとすると後方にそっくり返ってしまいます。軽くうなじを押さえるだけのちょっとしたコツを指導すると、身体の小さな奥さんにも楽に訓練介助ができました。
3カ月後、Xさんは自分で立ち上がり、ポータブルトイレに乗り移れるようになりましたが、歩こうとすると、やはり後方にそっくり返ってしまいます。そこで、歩行訓練の前に前屈運動を十分に行ったり、両ひざに手をついて前傾姿勢を保つなど、ちょっとした姿勢の工夫をお願いしました。
半年後、Xさんはトイレまで歩いて行けるようになり、表情も明るく、冗談を口にするようになりました。しかし、体が固いため、歩くことはできても起きあがることができません。次は、体をひねる訓練を集中して行うよう、訪問スタッフと奥さんにお願いしました。
さらに半年後、Xさんは自力でベッドから起きあがれるようになりました。バランス能力も改善し、数年ぶりに玄関を下りて庭に出ることもできました。
最近では不確かだった尿意も改善して、ほぼ完全におむつを外して生活しています。ここまでたどり着くには、適切な薬物療法にもまして、訪問スタッフと家族の絶え間ない努力が必要でした。
入院して集中的にやれば短期間ですんだことかもしれませんが、一つ一つ順を追って訓練を進めていけば、Xさんのように、在宅でも潜在能力を引き出せる人もいます。
最近は在宅リハビリのケースも増えてきましたが、在宅だから維持的なものばかりとは限りません。介護保険が、単に療養の場所を変えるだけのものではなく、適切で積極的な在宅リハビリを支援するものであってほしいと願います。
(鹿児島大学医学部リハビリテーション科・東郷伸一)
目次に戻る
WEB master 註:本文に記した「パーキンソン症候群のリハの内容」について、WEB master の知人から照会を頂いた。本当にそれだけの訓練で良くなるのか、あるいは、本文に記してあるリハの内容は適切なもので本当に効果的なのか? という御質問である。
前者について言えば、答えはNOである。現実には、もっといろいろな訓練内容を組み合わせてある。しかし、家族や訪問ナースにお願いする内容は、あまり込み入ってしまっても逆効果なので、出来るだけワンポイントに絞ってお願いすることにしている。そのワンポイントが、本文に記したような内容であった、ということである。
ただ、このようなワンポイントに家族が熱心に取り組んでくれなければ、本文に記したような回復は得られなかったろうと WEB master は感じている。ごくたまにPTなりの専門家が訪問するだけで、そんなに良くなるわけがない、継続・繰り返しの量こそが力になる、という点は否定できない。
したがって、後者については、YESと答えたい。かなり効果的であったし、この患者さんに関して言えば、適切な訓練指示であったと思っている。成書にばかり目を奪われないで、現実に即して患者さんと向き合っていれば、こういうアプローチも十分にあり得るものだろう、などと、ちょっと偉そうに(走召・糸色・火暴・笑)回答しておきたい。
(この項文責=WEB master,010510 記す)