第101回:抑うつ
抑うつ適切な薬と周囲の支援を
重い障害では、だれでも将来への不安にかられ、さらにそれが不眠や食欲不振、リハビリへの意欲の喪失などの「抑うつ」という精神的な落ち込みに発展することもあります。特に障害が重く痛みがあり、高齢の場合は必ず起こるといってよいほどです。抑うつは、病気の治療やリハビリの進行を妨げる大きな要因の一つであり、早くそれに気づいて適切な治療をすることが大切です。
A子さん(52)は、脳梗塞(こうそく)で右片まひと軽度の構音障害を起こしました。最初の病院では、約2カ月リハビリがなく、食事も半介助でおむつの状態でした。眠れない、頭が痛い、自発性に乏しく同室の人と話もしない−などで、「うつ状態」という紹介状を持って転院してきました。
まず、同じような障害を持った人と同室し、互いに話ができるようにしました。そして、毎日車いすで訓練室に連れ出し、脳卒中のリハビリの様子を見てもらいました。同時に、過剰な不安を抑える精神安定剤を眠る前に処方して不眠を改善し、最近よく使われる抗うつ薬「SSRI」を少量から使いました。
看護や介護、リハビリの各スタッフにも、声掛けを多くするよう頼みました。家族には症状を説明して面会回数を増やし、なるべくリハビリに同席してもらいました。
最初は、集団訓練の一員として、ミュージックセラピーに出席してもらったり、家族と一緒にパズルの組み立てなど興味の持てる作業療法を行いました。そうすると、約2週間後には自分から訓練室に通うようになり、表情も明るく、会話も増えてきました。
抑うつはしばしば不安を伴い、精神症状だけでなく、めまいや息苦しさなど身体的症状も引き起こすことがあり、抗不安薬と抗うつ薬を適切に組み合わせて治療することが大切です。同時に同じ病気の仲間との語らいを通じて、障害の受容や家族の支援、的確な治療とリハビリの継続も大きな後押しとなります。
「生きることはすばらしい」という生命の充実は難しい問題ですが、おそらく本人の人生観と価値観、家族の存在、社会的背景などが深く関係するのでしょう。リハビリは、身体だけでなく心のバランスにも常に心を配り、必要なら精神科などの助言を受けることを勧めます。
(鹿児島大学リハビリテーション科・松下兼一、田中信行)
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