第104回:転倒の防止

原因を把握し環境整備を

 転倒は全身のさまざまな外傷の大きな原因です。お年寄り、特に女性は骨粗鬆症が多いため、ちょっとした転倒が大腿骨頚部骨折や脊椎の圧迫骨折を起こし、寝たきりの原因ともなります。転倒の原因には、本人の要因と環境要因があり、それぞれへの対策が大切です。
 起立や歩行には、足や体の筋力やバランス能力が重要です。さらに視覚や身体のさまざまな感覚を統合して、周囲に注意を配ったり、危険を予測する能力も大切です。お年寄りや脳卒中などでは、手足の麻ひやバランス障害に加えて、視力や知覚障害、注意や認知の障害、痴ほうなどのために転倒しやすくなります。まず、このような障害の有無を、本人も周囲もよく知っておくことが大事です。
 さらに、手足の筋力低下やバランス障害などは適切なリハビリでかなり改善します。また、たとえ転倒しても上手に手をつけば、けがや骨折は少なくなります。リハビリで立った姿勢から床に手をついて腰をおろす動作をくり返し練習したり、外出時には手提げではなくリュックサックを利用して両手を空けておくのも良いでしょう。  また、“転ばぬ先の”杖やシルバーカーの利用、あるいは訓練中は介助者が支えやすいように腰ひもをつけることも効果的です。
 一方、暗いところに段差があるとだれでも転びそうになります。転びにくい環境整備も必要です。そこで、(1) 屋内外の段差を解消し、通路は通りやすく片付けておく、 (2) 滑りやすい敷物はやめて、滑り止めマットを使用する、(3) ベッドやいす、ポータブルトイレはしっかりと固定し、高さは足底がつくように調整する、(4) つまずきやすいスリッパやサンダル履きはやめて、杖や装具、手すりの利用を習慣付ける、(5) 自力でできない動作は無理をせず介護者の手を借りる、(6) 特に夜間のトイレでは足元に十分気を付け、足元や階段に照明を設置する − などの対処も必要です。
 転倒を恐れて、いたずらに歩行や行動を制限すると、寝たきりや自立度の抑制につながります。私たちは生まれてから、何回も転んでは立ち上がるという学習を通して上手に歩けるようになります。歩行や日常生活動作の訓練過程でも、転倒は完全には防げないかもしれません。
 しかし、その人の転倒の危険性やその原因を十分に知ることで転倒を少なくし、たとえ転んでも被害を最小限に食い止める工夫が大切と思われます。
 (鹿児島大学リハビリテーション科・下堂薗恵、田中信行)
目次に戻る