第106回:訓練の質と量

家族も参加して十分に

 少ない努力で大きな成果を上げることは、だれもが夢見ることですが、リハビリ テーションでも少ない訓練で大きな治療効果を上げることはわれわれの夢です。しかし、試験の成績と勉強時間の関係に似て、治療効果は訓練の質と量に依存します。
 たとえば、下肢筋力の維持・増強のためには、いすからの立ち上がりを毎日100回、歩行を3000歩−というように訓練量を重視していますが、同時に間違った訓練によって関節を痛めたり、まひした手足のひきつりを強めたりすることがないよう訓練の質も重視しています。
 ことに、脳卒中後のまひの回復促進には訓練内容の質と量が必要です。つまり随意的な筋収縮を誘発し、それをできるだけ繰り返して、それに関連した神経路の形成と強化が必要です。退院後の家族の熱心な訓練によって、字が書けるほどまひが回復した例もあります。
 Sさん(54)は、発症1カ月目に当科に入院、2カ月の集中訓練(まひの程度に合わせた5種類の運動パターンを、それぞれ一日100回、計500回、介助自動運動の形で反復)によって、肩とひじは良くなりましたが、指は別々に動かせない状態で退院しました。
 退院前、Sさんの妻から「右手は良くなるのでしょうか」との質問を受け、私は「1000回ずつ頑張れば、ずっと良くなるはずです」と返事しました。Sさん夫妻は、退院後も指導された5種類の訓練パターンを1000回ずつ、一日5000回を実践し、1年後には右手で文字を普通に書けるまでになりました。
 日本のリハ医療が抱える問題点の一つは保険制度の制約のため、治療内容が質、量とも不十分なことです。理学療法を例にあげると、現在の保険制度では、「単純なもの−15分」と「複雑なもの−40分」とがあり、これを超えて行ってもその分の診療報酬は認められません。この時間でとても十分な理学療法はできないので、不足分は患者さんの自主訓練で補うことになります。
 しかし、多くの訓練が必要な重度から中度の患者さんは、座ったときや立ったときのバランスが悪く、自主訓練は困難ですので、結局は不十分な訓練内容にならざるを得ません。
 私どもは、効果的に治療を行うため、まひ肢の自主訓練が可能な上肢、下肢機能評価訓練装置を作ったり、筋力強化訓練にタンパク同化ホルモンを併用して筋肥大の促進を試みていますが、いずれにしても十分な訓練量なしに成果は上がりません。現状では、十分な効果を上げるために、慢性期あるいは回復期にかかわらず、家族を積極的に訓練に参加させ、訓練法や介助法を指導してくれる熱意のある病院でリハビリテーションを受けることが大切です。
 (鹿児島大学医学部附属病院霧島リハビリテーションセンター・川平和美)
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