第107回:誤嚥と肺炎
食事の工夫や口腔ケアを
日本人の死亡原因のうち、肺炎(第4位)の占める割合がこの10年で急上昇し
ていますが、その9割以上が65歳以上のお年寄りです。その原因として、お年寄りに多い多発性脳こうそくや、老年痴ほう、パーキンソン病に伴う誤嚥が背景にあることも分かっています。つまり、これらの病気による嚥下筋の障害が最も影響を与えていますが、咽頭や気管の知覚の低下も大きく関与しています。
口腔内や、胃の内容物が間違って肺の中に入り込むことを誤嚥といい、それによる肺炎を誤嚥性肺炎といいます。
食事の時の誤嚥は、むせたりせき込んだりして分かりますが、睡眠中にも誤嚥は起こっています。健康な人でも10%、肺炎を起こしたことのある人では70%もの人が、夜間にだ液などを肺の中に誤嚥しているといわれています。
高齢者でも、歯の有無で肺炎の発症率に差はなく、また、口腔内を清潔に保っている人では発症率が低いことが分かっています。口腔内に食べ物の残りかすがあると、温度、湿度、栄養の3条件がそろうので口腔内に細菌が繁殖し、それが気道に入ると肺炎の原因になるため、お年寄りでは食後、特に寝る前の口腔の清掃が大切です。
ただし、誤嚥が必ず肺炎を引き起こすとは限りません。細菌と生体の抵抗力との力関係が問題で、抵抗力の落ちている高齢者はそれだけ肺炎になる可能性が高いといえます。
誤嚥性肺炎の症状は、発熱を繰り返す、食事中や食後のむせや咳、食後のしわがれ声などですが、夜中にせき込む、口の中に食べ物が残っている、食事時間が長い、脱水、低栄養状態にある、拒食がある人は要注意です。
予防としては、主食はおかゆや卵ごはん、パンがゆ、おかずや汁物はあんかけやかたくり粉入りに、水やお茶は「トロメリン」という粉を入れて「とろみ」をつける、といった食事の工夫があります。また、食後約1時間は座っておく、そして特に食後、食べ物の残りかすや舌苔、歯こうを取り除き、義歯を洗浄する「口腔ケア」が重要です。明らかに誤嚥のある人に対しては、口腔やのどの冷却刺激、あごを引いた飲み込みやすい体位の指導も大切です。L・ドーパやACE阻害剤(降圧剤の一種)も誤嚥防止に有用といわれています。
誤嚥による肺炎を恐れるあまり、安易に鼻腔チューブで「食べる楽しみ」を奪わないように、食事や体位の工夫、口腔ケアを十分に行ってください。口腔ケアについては、歯科医に相談されるとよいでしょう。
(鹿児島大学医学部附属病院霧島リハビリテーションセンター・上下智之、田中信行)
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