第111回:左半側空間無視

転倒への注意と作業療法を

 

 Tさんは70歳の女性です。脳出血で救急病院に運ばれました。右脳に大きな出血があり、その血腫(しゅ)を取り除く手術を受けました。術後の経過は良好で、大きな出血にもかかわらず、手足のまひも軽く、後遺症がなくて良かったと家族も喜んでいました。しかし、自分で歩けるようになると、左側の物にぶつかったり、廊下の左側にある自分の病室やトイレが分からないなどの問題が起きてきました。

 Iさんは56歳の男性です。右脳に脳こうそくを起こし、左半身まひが残りました。自分で食事がとれるようになりましたが、右側のおかずばかり食べて左側の皿には手を付けようとしません。また、車いすからベッドに移るときの左側のブレーキのかけ忘れや、歩行訓練時の左への不注意があり、いつも転倒の危険がつきまといます。絵をかき写すテストをしてみると、2人とも見本の絵の左半分を書き落としていました。また、水平な線の中心に印を付けてもらうテストでは、中心よりずっと右に偏って印をつけていました。

 脳卒中などの重要な後遺症の一つに、半側空間無視というのがあります。自分の身体や目で見た情景の片側、あるいは奥行きなどの空間の情報処理がうまくいかず、片側、特に左側からの刺激に気が付かないため反応できなくなるわけです。

 半側空間無視はTさん、Iさんのように右脳損傷の場合に多く、従って左片まひを伴う人に多く見られます。ヒトは右側空間は左右両方の大脳で処理しますが、左側空間の情報処理はほぼ右脳だけで行われているため、といわれています。

リハビリは左側に注意を促すような作業療法を行うことでかなり改善します。碁石並べや塗り絵、絵の模写、グループでの風船バレー(左右どちらにいくか分からない)など、あらゆる方向に注意を向ける訓練をします。日常生活の中でも、左側から声をかけたり、左側にラジオやテレビを設置したり、大切なものや部屋に赤いリボンや目印を付けて、注意を促したりします。また、左側への注意不足から左のものにぶつかったり、転倒の危険もあります。段差の解消や滑り止めマットの使用、室内の整とんなど転倒予防対策も必要です。

 半側空間無視の患者さんは、自分ではその症状に気付かないことがほとんどです。左片まひや左方への不注意がある場合は、半側空間無視を疑い、専門医の正しい診断と適切なリハビリが非常に大切です。

(鹿児島大学医学部リハビリテーション科・ 野元佳子、田中信行)

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