第112回:院内感染防止

手洗いの徹底、最も重要

 

 入院患者にはその治療中にしばしば感染症が起こります。それが「院内感染」として特に問題になるのは、病院ではどうしても抗生物質を使う頻度が高いため、通常の薬が効きにくいMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や緑膿菌の感染が起こることが多いからです。また通常の細菌やウイルスは互いに抑制しあって存在しており、その多くは健康な人への危険性は少ないものです。しかし手術や抗がん剤などで体力、免疫力の低下した患者には大きな危険があり、それが患者同士や医療従事者、医療機器を介して広がる可能性もあります。

リハビリ病棟も抵抗力の弱いお年寄りや嚥(えん)下、膀胱(ぼうこう)機能 障害などの患者が多数います。さらにリハビリの現場では、医師、看護婦、理学療法士、作業療法士などの多くの人が患者に接し、また訓練室という共通の場で 患者同士も接します。そこで前述のMRSAに感染した患者には、他の患者への感染を防ぐために、 一律に個室管理やリハビリ時間の制限をやむを得ず行ってきました。しかしこれ では患者の訓練の機会を減らし、さまざまな廃用症候群を引き起こすという弊害もあります。

 またMRSA感染症あるいはその保菌者の患者さんとその家族にアンケート調査を行ったところ、個室管理やリハビリ時間の制限などの対応にも、患者と家族の多くが疎外感や差別感を感じていました。つまり感染の拡大防止策と患者の希望は相反するわけです。

 しかし、その後、患者に触れても十分な手洗いで菌は消失し、保菌者の菌排出量は少ないことが分かってきました。そこで職員、家族の手洗いの徹底や患者の感染状況に応じて活動や訓練法を工夫するとともに、十分な栄養や誤嚥、膀胱機能のリハビリもさらに充実させました。その結果、患者の機能は明らかに改善する一方で、感染の拡大や明らかなMRSA感染症の発生もありませんでした。

 つまり、十分な手洗いや栄養、誤嚥防止や尿路管理が院内感染の防止に最も重要なのです。また、スタッフのきめ細かい訪室や声かけ、十分なリハビリの実施により、患者や家族の疎外感を和らげる配慮も必要です。

 院内感染を恐れず、あなどらず、廃用症候群を予防して生活の質の向上という 目標に向かって常に取り組んでいきたいものです。

(鹿児島大学医学部リハビリテーション科・ 久松憲明、田中信行)

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