私たちの顔には表情筋と呼ばれるたくさんの筋肉があり、この動きで笑った顔、怒った顔など豊かな表情を作り出します。顔面神経まひでは、これらの筋肉を動かす顔面神経の働きが妨げられ、表情のゆがみが生じます。寒冷時に突然まひが起こるベルまひが最も多く、次いで、中耳の炎症を伴うハント症候群があり、いずれもウイルス感染が原因とされます。このほか、外傷や手術後のまひもあります。
症状は、目を閉じにくい、しゃべりにくいなど日常生活にも支障をきたします。特に顔の変形が残ると、精神的なストレスとなり、その人の性格を変えるくらい深刻です。そのため、リハビリはできるだけ早く始めて、正常な表情や機能を取り戻さなければなりません。
Aさんは26歳の女性です。ハント症候群による右顔面神経まひと診断されましたが、リハビリは2カ月後にやっと始めました。リハビリが遅れたため、顔は左にゆがみ、口も大きく開かず、まゆは下がり、目も閉じられない状態でした。
訓練では、まず硬くなった皮膚や筋肉を柔らかくするマッサージをします。次に、正しい表情筋の動きをリラックスした状態で訓練します。左右同時に行い、まひしている側は、初めは療法士が、慣れたら自分の手で手伝って動かします。当施設では「筋電図バイオフィードバック療法」が効果を上げています。筋電図は、筋肉を動かすときに生じる微小な電流、電圧を顔に取りつけた電極で検出し、顔の筋肉の収縮の程度を数字や棒グラフで画面に表示したものです。患者は画面で確認しながら、どうすれば動かしたい筋肉をよりよく収縮させられるかを自分で学習します。
Aさんの表情筋は、見た目には全く動きませんでしたが、筋電図にはわずかに反応が見られました。その反応を手がかりに訓練を続けた結果、筋電図に現れる反応が徐々に大きくなり、筋肉の動きが分かるようになりました。3週間後には、ゆがんだ顔はまっすぐになり、表情も元に戻りました。性格も明るくなり、人との会話も自然にできるようになりました。
顔面神経まひは、回復過程で異常な動きや顔のゆがみが残ることが多いものです。これを防ぐには、できるだけ早く適切なリハビリテーションを行うことが最も重要です。
( 鹿児島大学医学部リハビリテーション科・ 角裕之、田中信行)