第120回:廃用性筋委縮

ホルモン投与併用が有効

 

 Aさん(54)はインフルエンザウイルスが原因と思われる脳炎を発症し、重篤な状態が4カ月続きました。容体が少し落ちついたところで当センターに入院しましたが、自分ではベッドの上で寝返りもできず、寝たきり状態になっていました。手足はやせ細り、まるで棒のようで、体重が13キロほど減っていました。頭部CTやそのほかの検査では、手足のまひの原因は見あたらず、Aさんの寝たきり状態は「廃用性筋委縮」によるものと診断されました。

廃用とは「不活動状態により生じる二次的障害」と定義されています。動かさないこと、使わないことで生じる障害で、その代表的なものが「廃用性筋委縮」です。筋肉の委縮のほか、関節の拘縮(こうしゅく)、骨粗しょう症、起立性低血圧、仮性痴ほうなどの症状をきたすこともあります。一般的に、絶対安静状態では1週間で10−15%筋力が低下し、1カ月で約半分になるといわれています。

 Aさんは入院して2カ月間は全身の状態が不安定で、起きあがりや車いす座位もきつく、なかなかリハビリが進みませんでした。しかし、高タンパク食の摂取や低周波刺激治療、タンパク同化ホルモンの投与を

行いながら徐々に訓練量を増やし、訓練室での筋力トレーニングに加えて、ベッド上での自主訓練、水中訓練を行いました。3カ月目以降は訓練メニューも順調にこなせるようになりました。半年後に退院したときは、大腿(だいたい)の筋肉の断面積が1.8倍、筋力は約6倍になり、つえ歩行ができるようになりました。現在は職場に復帰しています。

タンパク同化ホルモンは、筋肉の細胞のタンパク質合成を促進します。運動選手が筋肉肥大と筋力増強のために使用することはオリンピックなどでは厳禁ですが、Aさんのように筋力が低下した患者が使用することは問題ありません。廃用を防ぐためには、無用な長期安静を少なくし、早期にリハビリテーションすることが第一です。しかし、Aさんのように治療のために安静臥床(がしょう)を余儀なくされる例もあります。従来の筋力訓練にタンパク同化ホルモンを併用することで、効率よく筋力増強効果が得られます。ただし、肝機能や前立腺がんのチェックなど、医学的管理をおこないつつ、使うことが大切です。

( 鹿児島大学医学部リハビリテーション科・野元 佳子、田中信行)

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