利き手は字を書いたり、はしやはさみなどの道具を使ったり、ボールを投げたりするときの手です。多くの人は右利きですが、左利き、両手利き、左利きを矯正して右利きにした人などがいます。
脳卒中で右利きの人の右手がまひしたとき、右手の機能回復訓練をします。しかし、文字を書いたり、はさみを使ったりする細かい筋力まで回復するのは困難な場合があります。そういうとき、いつまでも右手にこだわっていても仕方ありません。そこで、左手を右手と同じくらい上手に使えるように訓練の目標を変えることを「利き手交換」といいます。
訓練は、右利きの人なら、まず左手で色鉛筆を持って色を塗ったり、線を引いたり、あるいはスプーンを使い皿に入れた豆をすくう訓練をします。さらに左手ではしを使ったり、字を書く訓練へと進めていきます。だんだん小さな文字や細かい動きへと難しくしていきます。
Aさんは65歳男性で、脳卒中で右片まひが生じました。幸い、右まひの人に多い失語症という言語障害はなく、文字を読むことも話をすることも問題ありません。歩行訓練などと並行して右手の訓練を行いましたが、右まひは重度で右手はなかなか自由に動くようにはなりませんでした。そこで、本人にも右手の完全な回復は難しいことをよく説明し、左手への利き手交換の訓練を納得してもらいました。Aさんは習字の先生で利き手交換は鉛筆だけでなく、毛筆を使っての訓練も必要でした。初めは思うように力が入らず、読みにくい字で本人も焦っていました。しかし、根気強く1日3、4時間も練習し続けました。今では左手でも右手で書いたのと同じくらいの字になりました。
58歳女性のBさんは脳出血で右まひとなり、趣味のお茶をたてられないのを残念がっていましたが、左手でできるよう訓練しました。右手で茶わんを支えることができないので、ご主人が手伝います。上手にできず、こぼしてしまうこともありましたが、今では力の入れ具合も分かるようになりました。右足にもまひがあるので正座はできませんが、いすに座ってお茶を楽しんでいます。
子どものころに左利きを矯正させられた経験のある人もいると思います。利き手は右、あるいは左と決まっているように思えますが、大人になってから利き手の機能を失った場合でも、反対の手を訓練すれば利き手になりうるのです。訓練によって、手を動かす脳の神経の働きがよくなるためです。人間の脳は訓練で発達するいろいろな可能性を持っています。
( 鹿児島大学医学部リハビリテーション科・緒方敦子、田中信行)