第126回:訓練意欲の低下

ドーパミン作用薬が有効

 

 リハビリが必要な患者で、特に脳卒中の患者の中には、リハビリへの意欲が低下する人もしばしば見られます。自発性がなく、スタッフがついていないとすぐに居眠りをしたり、訓練をやめてしまったりして、機能回復が進みません。

68歳の男性Yさんは2カ月前に右大脳半球の脳梗塞(こうそく)により左半身のまひとなり、本人の意欲がなくリハビリが進まないため、当センターに転院してきました。夜もよく眠っているのに昼間も居眠りが多く、自分からはなにもしようとしません。訓練も長続きせず、まひは軽いのに起きあがりなどの基本的な動作もなかなか上達しません。これは単にYさんがなまけているのではなく、脳梗塞のために意欲や自発性にかかわる神経機能が低下しているものと考えられました。そこで、意欲にかかわるドーパミン神経を刺激するアマンタジンという薬を処方したところ、居眠りが少なくなり、訓練も長く続けられるようになりました。2カ月の訓練で、身の回りのことは自分でできるようになり、装具とつえで歩けるようになりました。

人間の脳は多数の神経細胞からなるネットワークで構成され、各神経細胞は神経伝達物質という化学物質を介して相互に情報のやりとりをしています。その物質の1つがドーパミンです。これを持つ神経細胞は脳のあちこちにありますが、特に脳幹から前頭葉につながっている神経は意欲、活動性と深い関係があり、脳梗塞などで働きが弱まると、意欲や活動性の低下が起こるのです。アマンタジンは、ドーパミン神経の障害で起こるパーキンソン病に使われる薬です。もともとは抗ウイルス剤としてインフルエンザなどに使われていましたが、ドーパミン神経の働きを増強することが分かりました。

Yさんの場合、この薬の作用で意欲や活動性が向上し、訓練効果も上がりましたが、量が多すぎたり、適用を誤ると幻覚や妄想などの副作用が生じるため、十分な注意が必要です。また、うつ病やうつ症状も脳血管障害としばしば合併し、意欲低下を引き起こします。この場合は、セロトニンやノルエピネフリンという神経伝達物質を増やす抗うつ剤が有効です。

このように、意欲、活動性が低下している場合でも、ただ本人のやる気がないとあきらめずに、適切な薬の使用でリハビリを効果的に行うことができる場合があります。しかし、家族やスタッフの働きかけが最も重要であることを忘れてはなりません。

( 鹿児島大学医学部リハビリテーション科・池田  聡、田中信行))

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