両側の脳卒中や脳幹部の障害では食物がうまく飲み込めない「嚥下(えんげ)障害」がしばしばみられます。嚥下障害は栄養や水分摂取だけの問題でなく、誤嚥による肺炎や窒息の危険性も大き
いのです。そこで鼻から胃にチューブを入れたり(経鼻的経管栄養)、最近では手術なしで胃カメラを使って腹壁から胃にチューブを入れる方法(胃ろう)も行われています。しかし、これらの経
管栄養では「食べる楽しみ」は全く無くなります。そこで本来の経口摂取が可能となるように、食道入口部のバルーン拡張療法や手術療法が試みられる場合があります。今回
はバルーン拡張療法で口から食べる機能を取り戻した例を紹介します。
Mさん(66)は脳幹梗塞(こうそく)による重い嚥下障害と知覚障害があり、胃ろうを造設しました。エックス線による嚥下造影検査で誤嚥の程度や食物が滞留する部位、飲み込みやすい食物
形態などを調べました。Mさんは食道の入り口が広がらないための嚥下障害ということが分かりました。以前本欄に述べた(平成11年7月26日付)、冷却刺激や滑りのよい食べ物、みそ汁、お
茶のとろみつけ、飲み込むときの姿勢などを試みました。
しかし、嚥下障害がなかなか改善しないので、バルーンカテーテルを用いた食道入り口の拡張療法を実施しました。直径5ミリ、長さ40センチ、先端に球状の風船が付いたカテーテルを口から
食道の狭窄(きょうさく)部を越えて飲み込みこませます。そこで風船を直径2.5センチ程度まで膨らませてカテーテルをゆっくり引き抜き、膨れたバルーンで食道入り口の輪状咽頭筋を広げま
す。Mさんはこの訓練を自宅で毎食事前に20回(約10分)繰り返し続けました。その努力が実って3カ月後には食事も水分も飲めるようになり、胃ろうを抜去できました。
また、手術療法として、一部の症例にしか有効ではありませんが、輪状咽頭筋を切断する方法もあります。また大手術ですが気管と食道を完全に分離する手術もあり、これは口から食べられ、誤
嚥は100%なくなりますが声を失います。嚥下障害には鼻くうチューブという固定した考えではなく、何か口から食べられる方法がないか専門医によく相談してください。
(鹿児島大学医学部リハビリテーション科: 桐野 友子、田中 信行)