第139回:失語症のリハビリ

身近な事柄から始める

 

 人の言葉がわからない、話せないという失語症については以前にも本欄でふれましたが、これは左脳損傷、従って右片まひの人に多く見られる言語障害です。その回復訓練をするのが言語聴覚士(ST)ですが、鹿児島県内にはまだ80人足らずしかいません。

 言語は、聴いて理解する、言葉を話す、文字を読んで理解する、文字を書く、そして計算という5つの要素があります。まずこれらの一つひとつについて詳しく検査(SLTAなど)し、最も機能が低下している点を)十分に訓練します。

訓練は、まず身近な事柄や簡単なあいさつ、よく使う言葉などから始めます。自分の名前や住所、「おはよう」や「ありがとう」といった言葉の理解や返事は、最も自然な形で訓練の導入に用いられます。

物品名の理解は、例えば「眼鏡を取ってください」とか「眼鏡」という文字を 見せて、正しく眼鏡を取ることができれば、眼鏡という言葉や文字の意味がわかっているわけです。並べる物品の数を加減することで難易度が調節できます。

「近眼の人がかける物」といって眼鏡が取れれば、短文も理解できることを示します。

発話については、眼鏡を見て自分から「めがね」と言う呼称、「めがね」と聴いてそれを繰り返す復唱、文字を見て声に出す音読など、言葉の引き出し方にもいろいろあります。重度の失語症の場合、復唱または斉唱(訓練者と一緒に言う)ならそれらしく言えるといった特徴があります。実物や絵、あるいは文字を一字一字指し示すとより言葉は出やすくなります。その人の言葉がどんな手掛かりで引き出されやすいかを見極め、発話訓練の糸口としていきます。

理解も発話も困難な最重度の失語症(全失語)の場合、ジェスチャーや絵カード、描画などで意思を伝達する練習や、会話用ノートの利用など、残存している機能をフルに活用する訓練も有用です。失語症は痴ほうとは異なるものです。

訓練は、易しい言葉から複雑なものへ、前述の5つの要素について繰り返し行います。毎日疲れない範囲で、うまくできたらほめながら、家族も温かく見守りつつ行うことが大切です。

失語症の回復は非常にゆっくりで時間がかかりますが、徐々にコミュニケーションは取りやすくなっていきます。2、3年かけてかなりよくなる人もあります。

(鹿児島大学医学部リハビリテーション科:東 貴子、田中 信行)

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