復職に備えて歩行訓練するために入院した脳卒中患者のAさん(45歳の男性、右まひ)の事例を通じて、歩行訓練の考え方を説明します。Aさんは当科入院前に6カ月間の歩行訓練を受けてお
り、短下肢装具とつえを用いた3拍子の歩行ができ、安定はよいのですが、10メートルを35秒で歩いていました。入院後、2拍子の歩行と健側(けんそく)(まひのない側)の足のけり出しの
訓練を行い、2週間後には10メートルを20秒で歩けるようになりました。
脳卒中後の歩行訓練は、平行棒内で(1)健側の足で立つ(2)まひ側の足の振り出し(3)まひ側の足へ体重をかける(4)健側の足でけり出し、健側の足で立つ(5)(1)から(4)の一
連の動作を行います。同時に、つえ歩行に備えて健側の手の動きと歩行リズムを合わす訓練を行ってから、つえ歩行に移ります。
まひ側の足に体重をのせるとひざが折れる場合は長下肢装具、ひざがパチンと伸び切ってしまう(反張膝=はんちょうしつ)場合は短下肢装具を用います。歩行のリズムは、健側で立つのが不安
定な場合は3拍子の歩行(つえ→まひ側の足→健側の足)、安定している場合は3拍子の歩行(つえとまひ側の足→健側の足)を行います。3拍子の歩行はスピードが遅く、健側強化訓練によって
健側の足での立位バランスが安定すれば、2拍子の歩行を行います。
2拍子の歩行では、つえはまひ側のかかとの位置にそろえて健側の前外側にまっすぐに立ててつき、つえを持つ腕のひじを体から離さないようにして、下肢とつえのリズムを合わせます。まひの
程度に比べて歩行能力が低い例の多くは、下肢装具やつえを用いない効率の悪い歩行を行っている場合、体を前方に移動させながら健側の足のけりだしを行って体をまひ側の足より前に進める動作
[(3)−(4)]がうまくできない場合です。
まひ側への体重負荷から健側の足のけりだしがうまくできない例の多くは、まひ側に体重をかける気持ちがあまりに強すぎて、健側の足のけり出しが弱くなり、健側のステップ後も腰が引けた形
でまひ側に体重が残るものです。後方へバランスを崩しやすいだけでなく、まひ側の足の振り出し時も、つま先をひっかけやすくなります。重心の移動を円滑にするためには、まひ側に体重をかけ
ることより「健側の足のけり」を健側前方に強くすばやく行い、まひ側に体重を残さないことを優先する。まひ側が突っ張って体重の移動を妨げる場合は、まひ側のつま先を少し外側に向けるよう
に体を斜めに開いて歩くことが大切です。
つえや下肢装具の使用と健側強化を行いながら、重心移動を円滑にする歩行を心がければ、腰のぐらつきやまひ側の足が健側の足へからむことや足先のひきずりも減り、歩行が安定し、スピード
も改善されます。
(鹿児島大学医学部リハビリテーション科:川平和美)