第7回:摂食・嚥下障害

訓練と工夫で食事可能

 人間にとって「食べること」は、本質的な欲望です。しかし、食道と気管の入り口は非常に接しています。このため食物を食べ、飲み込むことは、のどの筋肉の複雑な反射的コントロールで行われています。
 脳卒中、口やのどの手術後はしぱしぱ摂食・嚥下(えんげ=飲み込み)障害が起こり、一歩間違うと気管内へ食物が入ってしまう誤嚥により、窒息や肺炎などの重とくな事態を招きかねません。従って授食・嚥下障害に対するリハビリテーション(以下リハ)では、リハ科や耳鼻咽喉科の医師、看護婦のほかに言語聴覚士、栄養士などの多職種の協力が重要です。
 Aさんは69歳の男性で、脳梗塞(こうそく)の発症3カ月後に転院してきました。前病院では食事時にむせて誤嚥の危険があるため、鼻から胃へのカテーテル(管)を留置され、流動食で栄養をとっていました。
 診察では、舌や口唇の動きがやや不良で、少量の飲み水でむせました。嚥下造影検査(飲食物に造影剤を混ぜて、嚥下の状況をエックス線透視下に見る検査)では、口からのどへの送り込みの遅れ、飲み込みの際の食物の流れと嚥下器官の動きのタイミングにずれがありました。しかし、本人の食べることへの意欲が強く、摂食・嚥下障害の訓練もしていないことから、リハを始めました。
 まず看護婦による口腔ケア(ブラッシング、含うがい剤による口腔清しき)を徹底して行い、合わない入れ歯を作り直しました。また、言語聴覚士が顔面やのどのアイスマッサージ、飲み込むのに使う筋肉を動かす訓練を毎日3回は行い、入院2週目にはゼリーをむせずに食べられました。
 その後、歩行・ADL(日常生活動作)訓練も同時に行いながら、栄養士に食べやすいとろみのある食事やゼラチン寄せの食事を工夫してもらい、段階的に量を増やしました。3カ月後の退院時には留置カテーテルを取り、注意すれば普通食も食べられるようになりました。もちろん、家族も嚥下訓練の方法や食事の注意を十分勉強され、自宅でもスムーズに生活しておられます。
 危険だということで、食べることをあきらめるのは簡単です。しかし、適切なリハにより少量でも食事が可能になる場合も多く、QOL(生活の質)の向上にむけて摂食・嚥下障害のリハは今後重要性を増してくると思われます。
(鹿児島大学医学部リハビリテーション科・久松憲明)

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