研究内容

研究室の近況

現在、当教室では4人の大学院生(岩川昌平、清永夏絵、内野えりか、向原桂香)が研究活動に従事しており、向原先生は長谷川先生指導の元、麻酔科での臨床研究を中心としておこなっています。岩川先生と4月から研究を開始する内野先生は、統合生理学教室(桑木共之教授)で麻酔やペイン等と関係の深い基礎研究を、マウスを用いた動物実験を中心におこなっています。

清永先生は私(森山)とともに急性腎障害の予防・治療薬の有効性を見つけるために、ラットを用いた動物実験や培養細胞実験を行っています。当実験室は2015年に医局耐震工事に伴いリニューアルしました。少しずつ以前の実験・測定機器に加えて最新鋭の実験機器も揃いつつあります。学位取得後も研究を継続している五代先生や、大学院生の指導とともに自分自身の研究も発展させている長谷川先生も活発に活動中です。当研究室の特徴は麻酔科領域だけでなく、ペインクリニックや集中治療といったサブスペシャリーティー分野での研究まで幅広く行っている点だと思います。

広い分野の中から比較的自由に研究テーマを決めることができ、研究に興味を持って継続できる環境にあります。また麻酔科は全国的に相変わらず人員不足が続き、当科も臨床でも厳しい状況の時もありますが、医局員同士の協力により研究活動が滞ることなくおこなえています。現在は中原先生が学位取得後にさらに研究を発展させるため、米国Johns Hopkins大学に留学中です。今秋には2年の留学を終えて帰国予定なので、さらに当研究室も発展していくでしょう。基礎研究室出向や海外留学などを経験していた医局員も多くなり、今後はさまざまな領域でこれまで以上にさらに発展していくものと確信しています。

臨床研究

1.麻酔中の鎮痛モニターに関する研究

麻酔は鎮静・鎮痛・筋弛緩の3要素から成り立っています。しかし鎮痛の客観的指標が存在しないために、麻酔中にもちいられるオピオイド等の至適投与量を評価することは難しい状況にあります。全身麻酔のような鎮静下では痛みに特異的な脳変化を捉えにくいことが一因としてあげられます。周術期の鎮痛モニタリング法を検討し、安全な麻酔、術後鎮痛へ応用することを目指しています。

発表論文

・Contralateral cerebral hemoglobin oxygen saturation changes in patients undergoing thoracotomy with general anesthesia with or without paravertebral block: a randomized controlled trial. Mukaihara K, Hasegawa-Moriyama M, Kanmura Y. J Anesth 2017 31:829-836.

2. CT画像をもちいた術前気道評価の有用性〜3D-CT 構築と推定流速の算出〜 (後ろ向き研究)小児歯科分野との共同研究

当院小児歯科学分野の岩崎智憲准教授、山崎要一教授が開発された気道通気状態解析システム(特許番号:JP2015/069666)をもちいて、術前に撮影された頭頸部CTから上気道流体シミュレーションをおこない、
●睡眠時無呼吸症候群における通気障害部位の特定と周術期気道管理
●気道確保困難が予測される患児の術前気道評価
●気管分離肺換気中の酸素化能と術後呼吸状態の予測に関する研究を、小児歯科分野との共同研究としておこなっています。

発表論文

・Evaluation of the pharyngeal airway using computational fluid dynamics in patients with acromegaly. Mukaihara K, Hasegawa-Moriyama M, Iwasaki T, Yamasaki Y, Kanmura Y. Laryngoscope Investigative Otolaryngology 2018 DOI: 10.1002/lio2.151

CT画像をもちいた上気道の流体シミュレーション

3. 全身麻酔下手術の術後痛・術後回復に影響する麻酔関連因子の検討(前向き研究)

手術を受ける患者さんの高齢化や、術前放射線・化学療法による免疫力低下により手術部位感染のリスクは増大し、再手術や慢性痛の発生率は増加することが想定されます。一方手術中にもちいられるオピオイドや、吸入麻酔薬は免疫抑制作用を有することが知られており、過量投与によって癌の再発をはじめとする予後や生存率に影響することが指摘されています。
本研究では麻酔・鎮痛薬の周術期免疫活性に対する作用と、術後痛や手術部位感染との因果関係を、手術をうける患者さんの血液検体を解析して検証しています。鎮痛薬の適切な使用によって鎮痛をはかるだけでなく、術後回復や予後の改善を促すことが目標です。

4.脊椎手術における術後感染に影響する麻酔関連因子の検討(後ろ向き研究)

整形外科学講座との共同研究

当院整形外科学講座の研究により、脊椎手術における術後感染の周術期危険因子の検証がおこなわれてきました(Eur Spine J 2016 25:3908-3915., Medicine [Baltimore] 2016 95:e5118.)。当科では、麻酔薬の種類や投与量、輸血など術中全身管理と術後感染の関連について検討しています(投稿中)。

5.ロボット支援手術における眼圧・気道内圧と脳血流変化の検討(前向き研究)

ロボット支援手術では術中25-30度の頭低位となるため、コンパートメント症候群や神経障害、気道浮腫などの周術期合併症を伴う可能性が報告されています。2018年度からロボット支援手術の適応手術は拡大されており、手術部位の低侵襲化を期待できる一方で、長時間手術も想定されているため、眼圧・頭蓋内圧・気道内圧上昇による術後合併症を生じる可能性があります。
そこで、ロボット支援手術中の眼圧・気道内圧、脳血流変化を経時的に検証し、手術部位や手術時間、体位のみでなく、麻酔法や輸液量などの周術期因子と術後合併症との関連を検討しています。ロボット支援手術によって生じうる全身合併症を回避し、適切な周術期管理を見出すことを本研究の目標としています。

基礎研究

1.敗血症性腎障害におけるアドレナリン受容体の関与(森山孝宏、大学院生:清永夏絵)

競争的獲得資金

2017年度 基盤研究(C) 研究課題名:敗血症性腎障害におけるアドレナリン受容体の関与

関連発表論文

・Moriyama T, Hagihara S, Shiramomo T, Nagaoka M, Iwakawa S, Kanmura Y. Comparison of three early biomarkers for acute kidney injury after cardiac surgery under cardiopulmonary bypass, J Intensive Care 2016 4:41.・Moriyama T, Hagihara S, Shiramomo T, Nagaoka M, Iwakawa S, Kanmura Y. The protective effect of human atrial natriuretic peptide on renal damage during cardiac surgery. J Anesth 2017 31:163-169. ・Moriyama T, Kanmura Y, Lindahl SG. Atrial natriuretic peptide attenuation of renal ischemia-reperfusion injury after major surgery. J Surg Res 2016 201:213-8.

2.術後急性期のマクロファージ活性と術後痛の相関の検討(長谷川麻衣子/大学院生:向原桂香)

臨床研究3に関連して、手術侵襲期・炎症期あるいは創傷治癒期に麻酔・鎮痛薬をもちいることの負のアウトカムの検証と機序の解明をおこなう研究です。手術部位の異物が好中球によって除去されると、マクロファージは炎症性から抗炎症性へ極性変化し、創部環境は炎症期から創傷治癒期に移行します(臨床研究3図参照)。
臨床上示唆されている麻酔薬の免疫抑制や局所麻酔薬による創傷治癒遅延が、炎症性から抗炎症性マクロファージへの極性変化とどのように関連しているのか、痛みと局所免疫の関係性を検証し、麻酔関連薬による修飾を検証します。

競争的獲得資金

2018-2020年度 基盤研究(C) 研究代表者:長谷川麻衣子、研究分担者:松永明研究課題名:周術期の免疫活性と術後痛の関連性に関する研究

関連論文

・Peripheral Nerve Block Facilitates Acute Inflammatory Responses Induced by Surgical Incision in Mice. Yamada T, Hasegawa-Moriyama M, Kurimoto T, Saito T, Kuwaki T, Kanmura Y. Reg Anesth Pain Med 2016 41:593-600. 

3.間葉系幹細胞の術後鎮痛への応用と感染防御・創傷治癒の促進(長谷川麻衣子/大学院生:向原桂香)

間葉系幹細胞は創傷治癒において、線維芽細胞や皮膚や血管内皮などさまざまな組織を構築する多分化能を有する細胞です。炎症が収束すると間葉系幹細胞によって創傷治癒が促進されますが、麻酔薬や鎮痛薬の影響はあまりわかっていません。鎮痛薬によって炎症を抑え鎮痛を得ている代わりに、間葉系幹細胞の誘導まで抑制している可能性を検証します。
マウスの骨髄由来細胞や脂肪組織から間葉系幹細胞を単離したのち創部に移植し、術後痛や手術部位感染、組織修復への効果と麻酔関連薬による抑制作用を検討します。

4. 慢性疼痛における一酸化炭素による鎮痛効果の検討(五代幸平)

一酸化炭素と言えば練炭などの一酸化炭素中毒が有名ですが、生体内でも少量の一酸化炭素は生成されています。一酸化炭素はヘム・オキシゲナーゼという酵素によって生成され、生体内のシグナル伝達に関与しています。ヘム・オキシゲナーゼはマクロファージを変化させ、炎症を抑制することが知られています。これまで私たちは術後痛や炎症性疼痛において、ヘム・オキシゲナーゼがモルヒネや糖尿病治療薬ロシグリタゾンの鎮痛効果に関与していることを報告しました(Biochem Biophys Res Commun. 2012; 426: 76-82, PAIN. 2013; 154: 1402-12, Mol Pain. 2014; 10: 36)。私はその後、米国フロリダ州マイアミ大学麻酔科へ留学し、HIV関連神経障害性疼痛について研究を行いました。帰国後に科研費を取得し、現在は神経障害性疼痛における一酸化炭素の鎮痛効果を検討しています。

競争的獲得資金

2017年度 若手研究(B) 研究代表者: 五代幸平研究課題名:慢性疼痛における痛覚伝導路でのヘム・オキシゲナーゼの鎮痛・発痛効果の検討