鹿児島大学 医歯学教育開発センター

教員日誌医歯学だより

No.9 教育のパラダイム・シフト

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

かつて医学教育は教師が教育内容を決定し、講義をし、試験をして合否判定をすることが当たり前でした。専門性の高い厳選された内容を学生に伝えることが優れた教育とされていた時代がありました。20年程前から、解決しなければいけない「問題」に直面した学生が、その問題が起こる状況の中で学生個人個人が学びとることが学習であり、それまでの自分の知識を基に、社会との関係の中から必要なものを理解し、新たな知識を生み出すことと考えられるようになりました。社会から切り離された「教室」という場で一律の教育をすれば一定の成果が上がるとしていた考え方から、大きなパラダイムの変化が起こってきたのです。学生の学習に注目し、フレキシブルな教育環境を整えて個人の学習を支援し、求められるレベルに到達するためのフィードバックをすることが教師の使命となっています。これはOutcome-based education、competency-based educationの基本的考えです。

このようなパラダイム・シフトにより、医学部教育も変化しつつあります。学生に求められるのは自律性であり、知識を得ることだけではなく、知識、能力を得るための能力の習得も協調されるようになりました。大学教員は学生の自律性を養うことも役割のひとつとなっています。合否判定をする総括的評価よりも、学生個人の学習成果を上げるためのフィードバック、形成的評価が重要になりました。一定の授業時間後に試験をして合否判定することではもはや教員の役割は果たせず、学生が習得できるまで十分な支援をすることが求められるようになりました。セメスター性、単位性という構造では学習を計画することも難しくなってきています。新しいパラダイムに基づいて、一貫性がありかつ多様性のある教育プログラムを提供するために、多くの教育者、教育機関、その他医学教育の関係者が工夫をし、教育機関としての役割を果たし、更に競争力を高めるためにしのぎを削る時代と言ってよいでしょう。

日本は方法論の導入が先行してその理論的基盤、考え方が伴わない状況が多々見られます。教育の大きな流れを理解することは、今私達に求められている教育を実践することに必要だといえるでしょう。

 

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