鹿児島大学 医歯学教育開発センター

教員日誌医歯学だより

No.13 医学教育を学ぶ (4) 修士課程

既に医療者として診療にあたり教育に携わっている人が本格的に教育を学ぶ大学院教育として、医学教育、医療者教育の修士課程が国際的に知られています。研究者養成の博士課程PhDプログラムとは異なり、実際の教育を推進する立場の人が、スカラーとして適切な教育を実施して評価し、教育改善を図るための能力コンピテンシーを修得するものです。この修士課程の社会的評価が非常に高いことは私自身が実感しておりますが、それは、学習の基本、教授方法、評価方法、カリキュラム開発、カリキュラム評価、管理・運営、教育研究など広範な内容を学び、「卒業論文」の作成でさらに実力をつけると考えられているからです。FDやフェローシップの更に上のレベルの医学教育者を養成すると位置づけられています。私が学んだイリノイ大学シカゴ校には教授や臨床実習責任者といった地位で活躍している人を含め、世界中から学生が集まっておりました。イギリスのダンディ大学、オランダのマーストリヒト大学なども有名で、これらで学んだ人が母国に戻り、新しい修士課程を立ち上げることにより世界中に医学教育を学ぶ機会が広がっています。

日本では医学教育を学ぶ修士課程はありません。この背景にはこのような修士課程に対する認知が低いことに加え、日本特有の事情があるからと考えています。ひとつには医療者の専門資格のうち、6年を就学年限としている医学、歯学、薬学などは修士課程相当と見なされ、これらを卒業した人がめざすのは博士であり、博士を有していなければ大学教員として活躍することが制限されます。大学院は研究を行うところであり、コースワークで学ぶことが軽視される傾向もいまだに強く残っています。日本の医学における大学院教育の質は国際的にも問われており、医療者が日本の修士を卒業することによって得られる社会的ステータスが確立しているとは言い難い点もあります。さらに、日本で国際的医学教育修士課程に匹敵するプログラムを運営するための教員(医学教育に特化した領域で活躍する教育学者(PhD, EdD)と医学教育の修士を有する指導者)を確保することが非常に困難な状況があります。

学会もありFD活動も根付いているはずの日本の医学教育が海外から「ガラパゴス」と評価されていることは良く知られた事実ですが、グローバルな医学教育が必要となった現在、「ガラパゴスではない医学教育」を普及するためには、医学教育の本質を実践できる人材が求められています。日本医学教育学会でも医学教育専門家養成、修士課程を議論する機会ができましたので、新たな取組に期待したいと思います。

 

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