鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 神経病学講座 脳神経外科

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脳腫瘍

脳腫瘍は、髄膜腫や聴神経腫瘍、下垂体腫瘍、頭蓋咽頭腫などのいわゆる良性腫瘍とグリオーマ(神経膠腫)や頭蓋内悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍、転移性脳腫瘍などの悪性腫瘍に分類することができます。良性脳腫瘍や悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍を除いた悪性脳腫瘍は、脳の機能障害を起こさない範囲でできるだけ摘出(脳の機能を温存しながら最大限の腫瘍摘出を)することが必要です。鹿児島大学では以下のようなさまざまな手術支援装置を駆使した最新の脳腫瘍治療を行っています。

1. 最新の手術支援装置を駆使した脳腫瘍手術

ニューロナビゲーションシステムによる手術支援

ニューロナビゲーションは,術前に撮影されたMRIやCT画像から3次元画像をコンピュータ上に再現し,実際の手術時の頭蓋や脳の位置と画像情報を一致させることにより,手術操作を行っている部分をコンピュータ上で特定するシステムです。またこのシステムでは基本画像に様々な情報を融合させる事ができます。代謝情報を元に腫瘍の悪性度や広がりを示すPET検査の結果や,脳内の神経線維の走行を示すトラクトグラフィの情報を融合させ,3次元的に確認しながら腫瘍摘出を行う事で,悪性度の高いところを取り残したり,重要な神経線維を傷つけたりすることを防ぐことができます。

図:ニューロナビゲーション機器
電気生理学的検査システムを用いた脳機能温存

手術中に脳を電気刺激することにより,重要な運動機能の在りかを確認することができます.この電気生理学的支援では,従来の大脳皮質刺激に加えて大脳白質線維刺激による検査も可能になっています.この手技をとり入れることで、術後の麻痺を回避でき,脳外科手術の安全性向上は大きく進歩しています.このような電気生理学的な手術支援は,聴神経腫瘍や脳幹部の手術では顔面神経の機能をモニターすることができます。

図:電気生理学的モニタリングの波形
蛍光観察を行いながらの手術

悪性度の高い脳腫瘍(悪性グリオーマ)の場合は、手術中に腫瘍細胞を光らせて確認する蛍光観察下手術も手術支援として利用しています。これは5-アミノレブリン酸(5-ALA)という薬を術前に内服すると体内でプロトポルフィリンに変化し、これが悪性腫瘍に集積することを利用しています。手術中に特殊な光を照射すると腫瘍に含まれるプロトポルフィリンがピンクの蛍光を発するため、境界の分かりにくい悪性腫瘍でもその存在が明らかになり、取り残しを防ぐことができます。

図:蛍光観察を行っている術中画像
術中MRIを利用した摘出度評価

脳は軟かい組織で、脳脊髄液の中に浮いています。手術中に脳脊髄液が吸引排出されると徐々に脳は変形していきます。よって術前に撮影した画像を利用したニューロナビゲーションの情報は手術の進行とともに実際とはずれてしまうことが問題になります。そこで手術中にMRIを撮影して、新しい画像情報を得るようにするのが術中MRIです。鹿児島大学病院には九州で唯一手術室の中にMRI装置を備えています。手術途中でMRIを撮影することで残存腫瘍の確認が可能になり、摘出率の向上に大きく寄与するとともに、摘出しすぎによる術後の機能障害を防ぐことにも役立っています。

図:術中MRIの撮影
図:摘出前のナビゲーション画像
図:摘出後にMRIを撮影した後のナビゲーション画像

2. 悪性脳腫瘍の遺伝子診断

2016年に脳腫瘍の診断基準が改定され、これまで病理所見に基づいてのみ診断されていた脳腫瘍の診断に遺伝子解析が必要となりました。この結果、病理所見と遺伝子診断の両方の所見に基づいた統合診断を下す必要がでてきました。その理由は病理所見だけよりも遺伝子解析の結果も取り入れた診断の方が、腫瘍の悪性度を正確に反映するからです。悪性脳腫瘍、特にグリオーマではIDH遺伝子やヒストン遺伝子(H3F3A)の遺伝子解析が必須となりますが、鹿児島大学では迅速にこのような遺伝子診断を行うことが可能です。また、現在当大学の形態病理学教室等の協力により、次世代シークエンサー技術を用いた遺伝子パネルを用いた「脳腫瘍の統合的病理・遺伝子診断システム」を構築し、臨床応用する予定で準備を進めています。

3. 悪性脳腫瘍に対する補助療法

悪性脳腫瘍は手術でほとんどの腫瘍が摘出できても、手術後に化学療法や放射線線治療が必要になります。悪性脳腫瘍の中で最も頻度が高い悪性グリオーマ(膠芽腫)の場合は、手術後に抗がん剤であるテモゾロミドの内服と放射線治療を組み合わせて行うのが標準治療になります。それ以外にも最近では血管新生を阻害する抗がん剤であるベバシズマブ(アバスチン)も保険適応がありますので、状態に応じてベバシズマブ治療も行います。また全く新しい治療法としてオプチューン(Novo-TTF)という脳電場治療が2017年12月から初発の膠芽腫に対して保険適応となり、膠芽腫に対する治療選択肢が増えました。この治療を行うためには講習を受けた専門医が必要ですが、当院では複数の医師がこの治療を行う資格を有しています。

4. 悪性脳腫瘍に対する臨床試験

現在鹿児島大学脳神経外科では、全国規模で行われている以下の臨床試験に参加しています。

  1. 初発中枢神経系原発悪性リンパ腫に対する照射前大量メトトレキサート療法+放射線治療と、照射前大量メトトレキサート療法+テモゾロミド併用放射線療法+テモゾロミド維持療法とのランダム化比較試験(多施設共同研究):JCOG1114
  2. 初発の頭蓋内原発胚細胞腫に対する放射線・化学療法第Ⅱ相臨床試験初発退形成性神経膠腫に対する術後塩酸ニムスチン(ACNU)化学放射線療法先行再発時テモゾロミド化学療法をテモゾロミド化学放射線療法と比較するランダム化第Ⅲ相試験(多施設共同前向き研究):JCOG1016
  3. 手術後残存腫瘍のあるWHO Grade II星細胞腫に対する放射線単独治療と テモゾロミド併用放射線療法を比較するランダム化第III相試験(多施設共同研究) :JCOG1303
  4. 再発膠芽腫に対する用量強化テモゾロミド+ベバシズマブ逐次併用療法をベバシズマブ療法と比較する多施設共同ランダム化第Ⅲ相試験:JCOG1308C

5. 下垂体腫瘍・頭蓋咽頭腫に対する経鼻内視鏡手術

(1)下垂体腫瘍

頭蓋骨の中にはトルコ鞍と呼ばれる“くぼみ”があり、ここにはたくさんのホルモンを分泌する「下垂体」という内分泌器官があります。この下垂体に下垂体腺腫が発生します。下垂体腺腫には、腫瘍細胞がホルモン分泌能を持たない非機能性下垂体腺腫とホルモン分泌能を有する機能性下垂体腺腫に分類することができます。機能性下垂体腺腫は分泌する下垂体ホルモンの種類により、さらに成長ホルモン産生腫瘍(先端巨大症)、副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍(クッシング病)、プロラクチン産生腫瘍、甲状腺刺激ホルモン産生腫瘍に分けられます。いずれの腫瘍に対しても、解剖学的な局在から、ほとんどの場合開頭手術ではなく、経蝶形骨洞手術が選択されます。この手術法は以前は顕微鏡を使って上唇の裏の粘膜を切開して手術を行っていましたが、近年は内視鏡手術を応用することで鼻孔から手術を行うことが可能になってきました。当院でも現在はこの経鼻内視鏡手術を多数例行っています。内視鏡は顕微鏡とくらべて広い範囲を観察できるので観察性に優れています。

顕微鏡画像
内視鏡画像
経鼻内視鏡手術で摘出した症例
手術前
手術後
実際の内視鏡による手術画像
1
2
3
4
(2)頭蓋咽頭腫

下垂体の上にある下垂体茎から発生する腫瘍で、小児から成人までどの年齢でも出来ます。良性腫瘍に位置付けられていますがしっかりと摘出しないと再発が多く難治性です。この腫瘍は下垂体近傍に発生しますが、頭蓋内に進展するために従来は開頭手術で摘出術を行うことが多い疾患でした。最近は経鼻内視鏡手術を応用することで、従来は開頭術でしか摘出術ができなかった腫瘍に対しても経鼻内視鏡手術で頭を開ける必要なく摘出できる症例が増えてきました。しかし腫瘍の広がりによっては開頭術が必要な場合もあり、個別に判断する必要があります。視神経や視床下部などの重要な脳組織に癒着して摘出できない場合などは放射線治療を組み合わせて治療を行います。

経鼻内視鏡手術で摘出した頭蓋咽頭腫症例
手術前
手術後
内分泌専門医とのチーム医療

下垂体からは人間が健康に生活するために欠かせない大切なホルモンが多数分泌されていますが、下垂体線腫や頭蓋咽頭腫によりこのホルモンの分泌が障害されることがあります。ホルモンバランスが崩れると、成長障害、肥満、生活習慣病、不妊などを引き起こすことから、分泌障害が明らかであれば、適切なホルモンをきちんと補充する必要があります。そのため、下垂体腫瘍や頭蓋咽頭腫の治療には診療科間の連携が欠かせません。鹿児島大学病院は2017年に下垂体疾患センターを設置し、我々脳神経外科もその一員です。センターでは下垂体疾患に対する各種負荷試験、手術療法、薬物療法、ホルモン補充療法を各診療科の垣根を超えて統括し、患者さんの治療に当たっています。下垂体疾患センターの詳細は下記ホームページをご覧下さい。

> https://com4.kufm.kagoshima-u.ac.jp/information/department/37.html

脳血管障害

1. 脳梗塞

脳梗塞とはさまざまな原因で脳を栄養する動脈が閉塞・狭窄することで、脳に酸素や栄養が行き渡らなくなり、脳神経細胞に機能障害を起こす病気です。大きく①心原性脳塞栓症②アテローム血栓性脳梗塞③ラクナ梗塞④その他の脳梗塞に分類されます。急に体のどちらかの半身の手足が動かなくなったり、言葉の障害(呂律が回らない、言葉がでないなど)がでたり、体のバランスがとりづらくなったり、視野がかけたりします。突然症状が出現することが特徴です。
これまでの脳梗塞の治療は再発の予防という観点の治療が中心でしたが、近年、超急性期治療が登場し、重篤な症状であっても劇的に改善する例もみられるようになってきました。点滴にてtPA(アルテプラーゼ)と呼ばれる薬剤を投与する方法とカテーテル治療で血栓を取り除く治療(経皮的血栓回収療法)です。いずれの治療も発症後数時間以内での治療が必要であり、上にあるような症状が出現した際にはすぐに医療機関を受診することが必要となります。
また、上記のような症状が一時的に出現し、24時間以内(多くは数分から1時間程度)に改善することがあります。一過性脳虚血発作と呼ばれる病気であり、脳梗塞の前触れと考えられています。その後、完全な脳梗塞に移行する可能性も高く、適切な治療を行うことでその危険性を減らすことができると言われています。『症状がなくなってよかった』ではなく脳梗塞になる前に適切な診療を受けることが大切です。

(経皮的血栓回収療法の実際)
写真:詰まった血管
図1.詰まった血管
図2.回収された血栓
写真:再開通した血管
図3.再開通した血管

2. 脳出血

脳出血は高血圧や糖尿病、高脂血症により動脈硬化が進んだ脳を栄養する血管が破綻して、脳内に出血する病気です。動脈硬化以外にも原因がある場合もありますが、血液をさらさらにする薬を飲んでいる方はより注意が必要です。出血が起こった部位により急に体のどちらかの半身の手足が動かなくなったり、言葉の障害(呂律が回らない、言葉がでないなど)がでたり、体のバランスがとりづらくなったり、視野がかけたりします。出血の量が多い場合には脳が血腫に圧迫されることによって命に関わることもあります。
脳出血の治療は出血量が少ない場合には保存的治療(点滴での血圧管理など)が中心となります。出血量が多く、脳の圧排が強い場合は救命目的の手術が必要となります。手術は頭蓋骨を外して顕微鏡で出血を除去する方法をとりますが、頭蓋骨に小さな穴をあけて内視鏡で血腫を除去する方法もあります。当院では可能な範囲でより侵襲の少ない内視鏡での手術を行なっています。

図1.内視鏡
図2.内視鏡での血腫除去
図3.手術前の頭部CT
図4.血腫除去後の頭部CT
写真:小さな開頭(矢印)
図5.小さな開頭(矢印)

3. くも膜下出血

くも膜下出血は脳の表面を走行している動脈にできた瘤(脳動脈瘤といいます)が破裂することによって起こります。脳動脈瘤以外にも原因があることがありますが、その多くは脳動脈瘤であり、以下は脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血についてお話しします。
くも膜下出血は突然の頭痛、嘔吐、意識障害にて発症します。初回の出血で、頭痛のみを呈する方から心肺停止に至る方までさまざまで、命を落とされる方も少なくなく、後遺症無く社会復帰できる方は3割にもみたないと言われるほど非常に重篤な疾患です。どれくらいの予後が見込めるかは来院時の重症度が大きく関わってくるとのデータもあります。まずしなければならないのは再出血予防のための手術です。
手術に関しては開頭手術と血管内治療に分けられます。開頭して動脈瘤の頚部をクリップすることで再出血を予防する『開頭脳動脈瘤頚部クリッピング術』と血管の中からプラチナ製のコイルで詰めものをする『脳動脈瘤コイル塞栓術』です。いずれの治療も長所・短所があり、動脈瘤の形状や全身状態などを踏まえどちらの治療が適しているかを検討しますが、近年、血管内治療が増えてきつつあります。
さらに、くも膜下出血は最初の手術が終わったら安心というわけではありません。頭蓋内に広がった血液が影響し、脳血管が収縮してしまい、脳梗塞を発症する時期があります。脳血管攣縮期と言われ、出血後4日から14日が多いと言われており、厳重な全身管理を続ける必要があります。重篤な脳血管攣縮が起きた場合、血管内治療で血管拡張薬を注入したりバルーンで拡張したりすることがあります。この14日間が過ぎるとひとまずは命に関わる状況を脱するといえますが、人によっては水頭症を起こし、さらにシャント手術を必要とすることがあります。

(開頭脳動脈瘤頚部クリッピング術の実際)
写真:クリッピング術での脳動脈瘤
図1.クリッピング術での脳動脈瘤(矢印)
写真:クリッピング後
図2.クリッピング後
(黄矢印:クリップ、青矢印:血流消失した動脈瘤)
(脳動脈瘤コイル塞栓術の実際)
写真:コイル塞栓術前動脈瘤
図3.コイル塞栓術前動脈瘤(矢印)
写真:コイル塞栓術後画像
図4.コイル塞栓術後画像(矢印:動脈瘤内の血流消失)

4. 未破裂脳動脈瘤

近年、MRIの普及により脳ドックや頭部外傷後、めまいなどの精査にて上記のくも膜下出血の原因となる脳動脈瘤が破裂する前(『未破裂脳動脈瘤』といいます)に見つかることがあります。未破裂脳動脈瘤の多くは症状を呈しません。問題はどれくらいの確率で命に関わるくも膜下出血になるか?、といったことになりますが、日本人での最新のデータ(UCAS JAPAN)では年間0。95%といわれています。この破裂率は全体の破裂率であり、動脈瘤の大きさや局在、形態などでそれぞれの動脈瘤での破裂率が変わってきます。これ以外にもこれまでの研究で、多発性、くも膜下出血に合併した未破裂脳動脈瘤、家族歴、高血圧や喫煙なども破裂の危険性とも言われます。
破裂率を下げるためには手術を行うより他にありません。くも膜下出血と同様に『開頭脳動脈瘤頚部クリッピング術』と『脳動脈瘤コイル塞栓術』があります。それぞれ動脈瘤の形態や局在、全身状態などで治療適応を決定します。もちろん手術には危険性がつきものですので、手術の危険性も含めご本人とよく相談し手術の適応を決定します。当院ではいずれの治療にも対応できる体制を整えており、しっかりとした検討を重ね手術方法の提示を行なっています。

5. 内頚動脈狭窄症

動脈硬化が原因で心臓から脳に至る頚部の血管にプラークが形成され狭くなることをいいます。狭窄率が高くなると、脳へ行く血流が低下したり、プラークそのものが破綻したものや表面にできた血栓が飛んだりして脳梗塞の原因となることがあります。まずは内科的治療(降圧薬、高脂血症薬、糖尿病薬などの動脈硬化危険因子の治療や抗血小板薬などの血液をサラサラにする薬など)を行います。それでも狭窄が進行したり、症状が出現したり(脳梗塞を発症するなど)した場合は手術を検討します。具体的には全身麻酔で頚部を切開し、プラークを取り除く『頚動脈内膜剥離術』と血管の中からステントを広げる『頚動脈ステント留置術』の2種類です。それぞれ長所・短所があり、おのおのの患者の状態に応じて決定します。

(頚動脈内膜剥離術の実際)
図1.全身麻酔で頚部血管を露出
図2.内膜剥離
(頚動脈ステント留置術の実際)
写真:頚動脈ステント留置前
図3.頚動脈ステント留置前(矢印:狭窄部分)
図4.頚動脈ステント留置後

6. もやもや病

もやもや病とは脳を栄養する内頚動脈の先端部分が狭窄ないし閉塞してくる病気で、その代償として本来細いはずの血管が側副血行路として発達し、脳血管撮影で“モヤモヤ”とみえることから名づけられました。この病気は東アジア人に多いと言われており、約10%程度に家族歴を認めます。小児発症と30-40歳台くらいの成人発症の二峰性の好発年齢と言われます。症状としては脳虚血型(脳の血流不足)や脳出血型、頭痛型、けいれん型などがあります。
治療としては症状に応じた内科的治療(血液をサラサラにする薬や抗てんかん薬など)の他に外科的な治療を行います。手術の方法としては大きく直接バイパス術(頭皮を栄養する血管と脳の表面の血管を吻合する方法)と間接バイパス術(脳の表面に筋肉や、硬膜(脳を包む膜)などの組織を敷き込み、新生血管の発達を促す方法)とに分けられます。脳虚血型には有効性が確立されている治療ですが、近年、脳出血型の再出血の予防に直接バイパスが有効であるとの結果も出ています。

(バイパス術の実際)
図1.脳表
図2.血管吻合
図3.吻合した血管(矢印)
写真:手術前の画像
図4.手術前の画像
写真:手術後の画像
図5.手術後の画像(矢印:吻合した血管)

脊椎脊髄疾患

脳神経外科の病気「脊椎脊髄疾患」

中枢神経系は「脳」と「脊髄」に分けられます。脳神経外科は主に「脳」を取り扱う診療科と思われがちですが、本来「脳」から始まって「脊髄」、「末梢神経」まで取り扱うのが脳神経外科の仕事です。
脳と脊髄は一続きの組織ですが、幾つかの異なる点があります。脳は1200-1500gという大きな組織ですが、脊髄は25g程度しかありません。しかし、脳からの情報、手足などの末梢神経からの情報が運ばれ、制御される大変重要な働きをしています。頭は硬い頭蓋骨に囲まれていますが、脊髄は椎体が節状に連なって囲んでおり、常に動く中に存在する点も異なります。また骨だけでなく靭帯や筋肉も関係しています。脳疾患のほとんどは硬膜内疾患ですが、脊椎脊髄疾患の多くは硬膜外疾患です。
このように、脳と脊髄疾患には異なる点がありますので、同じ病名でもそれぞれの環境に合わせて注意深く診療を行っています。

当科で扱う主な脊椎脊髄疾患

  1. 脊椎変性疾患
  2. 脊髄腫瘍
  3. 脊髄動静脈奇形
  4. 頭蓋頚椎移行部疾患

1. 脊椎変性疾患

椎間板の変性、脊椎の骨や関節の変形、靭帯の肥厚などが生じ、その内側にある脊髄や、脊髄から出る神経根を圧迫し、症状が出現する疾患群を変性疾患と言います。椎間板ヘルニアは若年者でも起こりますが、ヘルニア以外の多くは加齢に伴って起こる病気になります。

(1)頚椎椎間板ヘルニア

頚椎の椎間板において、破綻した線維輪から内部の髄核が脱出した状態を椎間板ヘルニアといいます。脱出する方向が椎間孔の場合と、脊柱管に向かう場合があります。椎間孔の場合、多くは先行する肩・肩甲骨部の痛みがあり、その後神経根の支配領域部位に痛みやしびれを起こします。脊柱管の場合、運動障害が主になることや、下肢にも症状を起こす場合があります。治療は安静、保存的治療で開始しますが、症状が長引く場合や生活の影響度に合わせて手術も検討します。

頸椎椎間板ヘルニアのMRI
(2)頚椎症

頚椎の椎間板だけでなく、鈎関節、椎間関節などの変性が起こり、脊柱管・椎間孔の狭窄をきたして脊髄や神経根の症状を起こす疾患です。加齢に伴って起こる変化ですので、40歳から60歳代に多く、男性に多く見られます。神経根が主に障害された場合頚椎症性神経根症、脊髄が障害されると頚椎症性脊髄症と呼ばれます。神経根症の場合椎間板ヘルニアに似た症状を起こしますが、より慢性的な経過をたどります。脊髄症の場合、脊髄の高さに一致する症状(髄節症状)として上肢の運動・感覚障害以外に、脊髄レベルの下の症状(索路症状)として腱反射亢進、歩行障害、温痛覚障害、深部感覚障害、膀胱直腸障害などが発生します。治療は保存的治療で開始して、症状が進行する場合手術を行います。

頸椎症性神経根症のCT
頸椎症性脊髄症のMRI
(3)頚椎変性疾患の治療

主な治療は、前方から行う「頚椎前方除圧固定術」と、後方から行う「椎弓形成術」です。前方は圧迫因子を直接除くことができるメリットがあり、後方はよりたくさんの病変に対応できることが利点です。
一般に1つか2つまでの椎間の場合は前方からの治療を、脊柱管の狭窄が高度で、3つ以上の椎間の場合は後方からの治療を検討しますが、個々の疾患に合わせて決める必要があります。どちらの治療も我々は顕微鏡を用いてより安全な治療を心がけています。

(前方除圧固定術の例)
(椎弓形成術の例)
(4)腰椎椎間板ヘルニア

頚椎同様椎間板の中央にある髄核が破綻した線維輪から外部に突出・脱出し、馬尾や神経根を圧迫して腰痛や下肢痛を引き起こす病気です。椎間板の変性は頚椎よりも腰の方が早いとされ、好発年齢は20~40歳代です。多くの場合腰痛が出現し、その後片側の足にしびれや疼痛が起こります。
治療は保存的治療で開始しますが、筋力低下が強い場合や、膀胱直腸障害を伴う場合は緊急手術の適応です。

腰椎椎間板ヘルニアのMRI
(5)腰部脊柱管狭窄症

脊柱管を構成する黄色靭帯の肥厚、膨隆した椎間板、変性により肥厚変形した椎間関節により脊柱管が狭窄し、馬尾神経の血液循環障害が起こる、あるいは神経根を圧迫する結果、様々な症状を起こす病気です。典型的な症状は、腰痛や坐骨神経痛、歩行により出現・悪化する下肢のしびれや痛みです。特に歩行で誘発される下肢のしびれは間欠性跛行と呼ばれます。座っていると症状がないこと、また前屈すると症状が軽減することも特徴の一つです。
保存的治療に抵抗性の場合、手術で脊柱管の拡大を図ります。手術では後方から脊椎の一部を削り黄色靭帯を切除する方法が中心ですが、変性が強く側弯を伴うもの、腰椎のぐらつき(不安定性)を認める場合、インスツゥルメントを使用した固定術も必要になります。当科では、まず除圧術を試み、症状の程度、経時的変化で固定術を追加する方法を第一としています。

(腰部脊柱管狭窄症の治療)

2. 脊髄腫瘍

脊髄、神経根、髄膜(硬膜やくも膜)より発生した腫瘍性病変のことで、脊椎に発生して脊髄や神経根・髄膜に浸潤したり圧迫したりする脊椎腫瘍も含める場合があります。頻度は大変少なく、人口10万人当たり1-2人/年とされ、脳腫瘍の1/5 – 1/10程度です。
腫瘍の発生した場所によって、1) 硬膜外腫瘍、2) 硬膜内髄外腫瘍、3) 髄内腫瘍、に分類されます(脊髄腫瘍の図)。いずれの腫瘍も、脊髄や神経根の圧迫によって手足の運動麻痺、排尿・排便障害、手足の痛み、などを引き起こすことがあります。

(1)硬膜外腫瘍

硬膜外腫瘍のほとんどは、体の他の臓器にできた癌の転移による転移性脊椎腫瘍です。腫瘍は脊椎の骨を破壊して発生するため、脊椎がもろく、不安定になることで痛みを引き起こす場合や、腫瘍によって脊髄・神経根を圧迫して運動・感覚障害を引き起こす場合があります。
治療の方法、とくに手術治療可能であるかは、患者様の全身状態などによって慎重に検討する必要があります。

(硬膜外腫瘍の1例として、乳がんの頚椎転移例のMRI)
(2)硬膜内髄外腫瘍

脊髄をつつんでいる膜(硬膜・くも膜)や、脊髄に出入りする神経に発生する腫瘍が多く、その代表的なものに髄膜腫や神経鞘腫があります。この2種類の腫瘍が硬膜内髄外腫瘍の80-90%を占め、いずいれも良性腫瘍であることが多いのが特徴です。ただし、良性腫瘍とは言え、あまりに大きくなって高度の脊髄・神経障害が起きてから手術治療を行っても、症状の改善が乏しい、手術による合併症の可能性が高くなる、などの問題が有り注意が必要です。腫瘍による神経障害の症状がある場合には、腫瘍が大きくなる前に手術を行った方がよいでしょう。

(硬膜内髄外腫瘍の1例として、神経鞘腫)
(3)髄内腫瘍

脳・脳幹部の続きである脊髄の内部に発生した腫瘍です。脊髄には脳・脳幹部に出入りする重要な神経連絡路がぎっしりと通っています。一方で脊髄内部に出来た腫瘍を摘出するには、脊髄のどこか一部に石灰を入れる必要が生じます。なるべく脊髄障害を起こさずに内部の腫瘍を摘出するには、繊細な顕微鏡下手術の技術が必要と考えられます。また、脊髄障害の発生を早期に察知するための脊髄機能モニタリングも手術の時は行っています。私たちの施設では、脳病変の手術で培った顕微鏡手術の技術を駆使し、様々なモニタリングを行い、治療困難な髄内腫瘍の手術を安全に行えるように努力しています。

(髄内腫瘍の1例として、上衣腫)

3. 脊髄動静脈奇形

脊髄動静脈奇形は稀な疾患で、脊髄腫瘍よりも頻度が低いと言われています。実用的な分類として、動静脈シャントの場所、ナイダス(異常な血管塊)の有無で大きく脊髄髄内動静脈奇形、脊髄辺縁部動静脈瘻、硬膜動静脈瘻の3つに分けられます。

(1)脊髄髄内動静脈奇形

脳動静脈奇形と同様に、先天的な異常血管に由来するもので、脊髄内にナイダスが形成されます。若年に多く、髄内出血やくも膜下出血で発症します。
治療は根治術が難しく、血管内治療や放射線治療を組み合わせて行われます。

(2)脊髄辺縁部動静脈瘻

脊髄の表面で動静脈シャントが形成されるもので、前脊髄動脈や後脊髄動脈が直接脊髄静脈に流入し、導出静脈はしばしば大きな静脈瘤を形成します。くも膜下出血、静脈瘤による脊髄圧迫、静脈還流障害などで発症します。
治療は直達手術でのシャント部位の遮断、血管内治療などを組み併せて行います。

(3)脊髄硬膜動静脈瘻

椎間孔近傍の硬膜内に動静脈シャントが形成され、脊髄静脈や硬膜外静脈に動脈血が流れ込みます。後天的な要素が強いと考えられており、中年男性に多く、大多数は胸腰椎部の静脈還流障害に伴う脊髄症で発症されます。
治療はシャント部位から硬膜内に流入した異常な脊髄静脈の直接遮断術が行われます。

(代表例1例)

4. 頭蓋頚椎移行部

頭蓋頚椎移行部は、脳と脊髄を頭蓋骨、頚椎、椎骨動脈、靭帯、関節が取り囲む複雑な構造をしています。頭頸部の可動に関わる働きをしていますので、疾患の治療を考える場合、病変の摘出や圧迫を解除する(除圧)、可動性の維持、動きを制御すること(固定)、将来的な骨や関節のずれ(不安定性)、などを十分に検討して治療に当たる必要があります。
脳脊髄移行部は脳幹から上位頸髄にあたり、知覚運動の大事な線維に加え、脳神経、呼吸機能、などに影響を与え、症状が多彩で複雑なことから診断が難しい場所にあたります。この場所には先天性疾患、腫瘍性病変、変性疾患、など様々な病態が関わります。

(1)大孔部髄膜腫

髄膜腫は硬膜内に存在するくも膜細胞に由来する良性腫瘍で、脳脊髄のあらゆる部位に発生しうる病気ですが、大孔部に発生する頻度は約4%と稀です。腫瘍は緩徐に大きくなり、症状を起こして発見された際には大きいことがほとんどです。脳幹脊髄の前方に発生する場合もありますから、顕微鏡を使った繊細な手技が要求されます。

大孔部髄膜腫
(2)キアリ奇形

小脳・脳幹の一部が大孔を超えて脊柱管内に陥入する形態を呈する疾患です。4つに分類されますが、成人での発症もある1型(小脳の一部が脊柱管内に陥入)が主な対象疾患です。この病気には、脊髄の中に空洞を認める病態(脊髄空洞症)や、脊椎の彎曲(側弯症)の合併を認める場合があります。症状は小脳や脳幹の圧迫症状(失調、無呼吸、嚥下障害、吃逆、めまいなど)、脊髄空洞症による症状(知覚障害、運動障害など)が認められます。吃逆に伴う頭痛を自覚される場合、キアリ奇形を伴うことが多いとされます。
たまたま発見され、無症候性や症状が軽度の場合、まず画像での経過観察を行います。脊髄空洞症に伴う症状を認めた場合、症状の改善が得られにくいので、早期の手術が勧められます。手術は狭窄部位である大孔部減圧術が主体です。

キアリ奇形
(3)変性疾患

頸部脊柱管の狭窄症が主に上位頚椎で発生した場合や、歯突起後方の偽腫瘍などが含まれます。通常の変性疾患に比べ、両方の手足に症状が起こりやすいことが特徴的です。関節や骨のずれ(不安定性)が関わっている場合があり、その場合は頭蓋骨から頚椎まで固定(後頭頚椎固定術)、頚椎の固定(環軸椎固定)を検討します。固定術の際には、より安全にスクリューの挿入が行えるようナビゲーションシステムを併用しています。

環軸椎亜脱臼

てんかん

てんかんについては以下の当病院のてんかんセンターのサイトをご参照ください。
> www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~ns/epilepsy/

三叉神経痛・片側顔面けいれん

1. 三叉神経痛

(1)三叉神経痛とは

三叉神経痛は、「電撃痛」と呼ばれるように、顔面に「突き刺すような」あるいは「電気が走るような」激痛が特徴です。痛みが強すぎる余り、それが原因でうつ状態になることもあります。血管などが三叉神経を圧迫することで起こるとされており、歯磨きや洗顔、ひげそり、食事、化粧などの動作が引き金になって痛みが生じることが多く見られます。一瞬の走るような痛みで、数秒のものがほとんどで、長く続いてもせいぜい数十秒です。触ると痛みが誘発されるポイントがあり、鼻の横などを触ると、顔面にビッと痛みが走る、という場合は三叉神経痛の可能性が高いです。歯痛で始まる事もあり、何本も抜歯治療した後に三叉神経痛と診断される事も少なくありません。

(2)三叉神経痛の原因

三叉神経は顔の感覚を支配している神経です。典型的な原因は三叉神経の付け根(脳幹に入る部位)が血管によって圧迫されることによって起こるといわれています。血管の圧迫により三叉神経に異常な神経回路ができ、疼痛の原因になると考えられています。脳腫瘍による圧迫や感染、多発性硬化症などの疾患が原因となることもあります。

(3)三叉神経痛の診断

診断のためには、問診が最も重要です。痛みの強さや場所、持続時間など、痛みに関する情報を詳細に聞き取ることが大切です。さらに、MRI検査で、三叉神経に対する血管圧迫所見が認められれば、さらに診断に近づきます。

(4)三叉神経痛の治療方法

治療は通常薬物療法が選択されます。カルバマゼピンという内服薬は抗てんかん薬としても使用されますが、三叉神経痛の痛みを緩和させることができます。しかし、痛みを完全にコントロールできない場合や、副作用が生じる場合などは、加療継続が難しいことがあります。原因の多くが血管の物理的な圧迫なので、最も効果的でかつ根治的な治療は外科的手術、微小血管神経減圧術(Microvascular decompression: MVD)です。手術により神経を圧迫している血管を神経から離し、場所を移動して固定することで、神経の圧迫を解除して痛みの原因を取ることができます。また、高齢の方や合併症により全身麻酔のリスクが高く手術の出来ない方の選択肢として定位放射線治療があります。これは三叉神経に直接放射線を当てて痛みをコントロールする方法です。手術による根治療法に比べると治療成績が劣りますが、手術の出来ない方にとっては良い選択肢となります。

(5)三叉神経痛の手術と手術成績

耳介の後方に約5cmの皮膚切開を置き、頭蓋骨に約3cm程の穴を空けます。後頭蓋窩というスペースに入り、小脳を傷つけないように避けて脳槽に入り、そこを走る脳神経を確認します。三叉神経と周囲の血管を観察し、圧迫している血管を丁寧に離し、場所を移動させ、固定します。固定にはテフロンと呼ばれる線維とフィブリン糊を用いて行います。一旦固定させることができれば、血管は元の位置に戻ることなく、神経に対する圧迫は解除されます。神経に対する圧迫が解除できれば、痛みは消失します。痛みの消失率は約90%で、多くは手術直後から消失します。中には数週間から数ヶ月かけて消失することもあります。

2. 顔面けいれん

(1)顔面けいれんとは

顔面けいれんは、文字通り顔面のけいれんであり、目の周りがぴくぴくする症状で始まることが多く、口周りや頬、額などへと症状が拡がります。短時間かつ間欠的に症状が出現することが多いですが、長時間持続したり、複数個所が同時にけいれんすることもあります。長期間けいれんが続くことにより、けいれんがない時に顔面神経麻痺が見られることがあります。

(2)顔面けいれんの原因

顔面神経は顔の運動を支配している神経です。典型的な原因は顔面神経の付け根(脳幹に入る部位)が血管によって圧迫されることによって起こるといわれています。血管の圧迫により顔面神経に異常な神経回路ができ、疼痛の原因になると考えられています。脳腫瘍による圧迫や感染、多発性硬化症などの疾患が原因となることもあります。

(3)顔面けいれんの診断

顔面のけいれんは目に見えてわかるため、診断は容易です。さらに、MRI検査で、顔面神経に対する血管圧迫所見が認められれば、さらに診断に近づきます。

(4)顔面けいれんの治療方法

薬物療法として、クロナゼパムやカルバマゼピンという抗てんかん薬が使用されることがあります。また、ボツリヌス毒素の注射も効果的な治療法です。しかし、いずれの方法もけいれんを完全にコントロールできない場合や、副作用が生じる場合、効果が薄れてきた場合などは、加療継続が難しいことがあります。原因の多くが血管の物理的な圧迫なので、最も効果的でかつ根治的な治療は外科的手術、微小血管神経減圧術(Microvascular decompression: MVD)です。手術により神経を圧迫している血管を神経から離し、場所を移動して固定することで、神経の圧迫を解除して痛みの原因を取ることができます。

(5)顔面けいれんの手術と手術成績

耳介の後方に約5cmの皮膚切開を置き、頭蓋骨に約3cm程の穴を空けます。後頭蓋窩というスペースに入り、小脳を傷つけないように避けて脳槽に入り、そこを走る脳神経を確認します。三叉神経と周囲の血管を観察し、圧迫している血管を丁寧に離し、場所を移動させ、固定します。固定にはテフロンと呼ばれる線維とフィブリン糊を用いて行います。一旦固定させることができれば、血管は元の位置に戻ることなく、神経に対する圧迫は解除されます。神経に対する圧迫が解除できれば、けいれんは消失します。けいれんの消失率は約90%で、多くは手術直後から消失します。中には数週間から数ヶ月かけて消失することもあります。

機能的脳神経外科

ふるえ、こわばり、痛み、けいれんなど、脳や神経の機能的な問題を手術で改善するのが機能的脳神経外科です。ふるえやこわばりなどの不随意運動(自分の意識とは異なる勝手な動き)をきたす病気は様々ですが、その一部に手術が有効な疾患があります。内科的治療が困難な場合、標的となる神経核に定位的手術(正確にターゲットを「定める」手術)を行うことがあります。定位手術には大きく分けて持続的に電気刺激を行う脳深部刺激術と、電極を挿入し、熱凝固する凝固術があります。病態により、適切な治療を選択することが必要です。

パーキンソン病は、運動神経などに作用する神経伝達物質、「ドーパミン」の分泌をつかさどる黒質細胞の変性、脱落により発症します。体のこわばりやふるえなどがおこり、治療の柱は内服などの内科的治療です。病状の進行に伴い、薬の効きが悪くなったり、薬を増やすことで薬の副作用に困ったりすることがあります。そのような際、外科手術を検討します。一般的には脳深部刺激療法(DBS)を行い、電気刺激で神経核の活動に働きかけ、症状の改善を目指します。病気そのものを治したり、進行を抑えたりする効果はありませんが、適切なタイミングで手術を行うことで、内科的治療の幅が再度広がり、脳神経内科と連携することで、患者さんの生活の質をさらに向上させることが期待できます。

ジストニアは、無意識に勝手に体が動いてしまう症候群です。ねじれの要素を伴うことが多く、震えやぴくつきがみられることもあります。症状も、体の一部であったり、全身にあったり様々です。ある日突然に発症することもありますし、徐々に広がることもあります。認知機能への影響はありません。特定の場面、動作で悪化したり(動作特異性)、情動の影響を受けたりすることが多いため、患者さんのつらさが理解されにくく、また、一般に認知度が低い疾患のため、診断までに時間がかかることもあります。ジストニアは症候群であり、その原因は様々ですが、(脳の形態学的、器質的異常のない)一次性ジストニアなど、病気の型によっては、定位手術の有効性が知られています。正確な診断を行い、病態によっては、適切な外科治療の導入を行うことが必要です。

本態性振戦 ふるえをきたす疾患は様々ですが、本態性振戦は日常生活で出会うことの多い不随意運動です。「本態性」とは、振戦(ふるえ)以外に異常がなく、明らかな原因がないという意味であり、パーキンソン病や甲状腺機能亢進症など、ほかの神経疾患や代謝性疾患などとの鑑別が重要です。一般に高齢者で多いと思われていますが、20歳代と60歳代の二峰性の発症があると言われています。ふるえのみで、ほかの症状は伴わないものの、羞恥心や抑うつ傾向を合併し、ほかの人にはわかりにくいつらさを伴うことがあります。内服の効果があることもありますが、効果が少なかったり、効果はあるが、眠気やふらつきなど薬の副作用で内服できなかったりして、日常生活の障害度が大きいときには手術を考えても良いタイミングです。
そのほか、脊髄損傷、脳性麻痺などの後の痙縮(筋肉が緊張しすぎてつっぱったり、こわばったりする状態)にバクロフェン髄注療法(ITB)を試みることもあります。

定位手術では、正確に治療ターゲットを決め、症状を確認しながら手術を進めていく必要があるため、多くの手術においては覚醒下に、患者さん参加型の手術を行います。機能的疾患は、放っておいたからといって命が危なくなるような疾患ではありません。外科治療を考慮する際は、症状が強いかどうかだけでなく、患者さんがどのくらい困っているかも判断の根拠にします。そのうえで、手術が本当に必要か、適しているか、また手術を行うならば、どのような手術が患者さんにとって必要か考えます。必要に応じて、他施設に相談、紹介することもあります。

図1.定位手術前ターゲット設定
(パーキンソン病 視床下核)
図2.脳深部刺激術シェーマ
(藤元総合病院脳神経外科 馬見塚勝郎先生提供)

小児神経外科

小児神経外科で扱う疾患は先天性疾患(水頭症、二分脊椎、くも膜嚢胞、頭蓋骨縫合早期癒合症など)、小児脳腫瘍、小児頭部外傷、小児てんかんなどです。先天性疾患の中にはお母さんのお腹にいる胎児のときから、当院で診断し、引き続き当科で検査や治療を行っていくことになります。特に水頭症をもったお子様は継続的な管理(定期画像診断や手術後のメンテナンス)がお子様の知能発達などの機能的予後に重要です。また二分脊椎は最近では胎児MRIで見つかることが多くなり、出産前から出産後の治療方針をスタッフで検討し、チームで治療できるようになりました。二分脊椎に伴う様々な症状は複数の診療科の医師、看護師、その他パラメディカルスタッフがチームを組んで治療することが重要です。この疾患では産科、小児外科、小児科、泌尿器科、整形外科、形成外科などのスタッフの関与が必要で、当院においてもこれらの診療科の先生と連携したチーム医療体制がとられています。各疾患については以下の項目で説明します。

1. 水頭症

治療は以前からすると様々な方法が増えました。乳児水頭症は放置すると頭囲が風船のように拡大し、頭の変形が著しくなります。児の年齢や水頭症の原因などにより、症例に見合った手術方法を選択することが大切です。これまで行われてきた脳室腹腔短絡術(VP shunt術)は非常に効果的な手術法で今もなお小児から成人まで幅広く使用されています。脳室からカテーテルで皮下を通して、腹腔内に挿入し、髄液を流す治療法です(図1)。

図:乳児の体内にカテーテルを入れた場合、写真:カテーテル
図1. 脳室から腹腔内を皮下を通したカテーテルで連絡し、髄液を腹腔内に流します。
カテーテルの途中には流す髄液の量をコントロールできるバルブが付いています。

髄膜炎後の水頭症に対してはVP shunt術を行い、水頭症の改善が得られます(図2a、b)。

写真:4ヶ月の乳児の頭部CT
図2. 髄膜炎後水頭症となった4ヶ月の乳児の頭部CT(a)。
写真:2歳時の頭部CT
著明な脳室拡大を認めVP shunt術を行い、2歳時の頭部CT(b)では脳室拡大および水頭症の改善を認めた。

また神経内視鏡による水頭症の治療も最近では多くの症例で可能となってきました。生後6ケ月以降の乳児で閉塞性水頭症と診断される水頭症は内視鏡を用いた第3脳室底開窓術が有効な場合があることがわかり、当院でも行っています(図3a、b、c)。

写真:脳室の一部
図3. 脳室の一部に内視鏡で見ながらバルーンで孔を開けて(a、b)、髄液の循環路を変更します。
広げた孔から髄液が十分に流れるか内視鏡で確認します(c)。

異物が体に入らないことや感染、管の閉塞などのトラブルから回避できます。
一方で閉塞性水頭症に分類されないタイプの水頭症や生後6ヶ月未満の乳児、急速に頭囲が増大する患児にはVP shunt術が有効です。VP shunt術は長い治療経験の裏打ちされた治療法で安全確実な手術と言えます。シャントチューブは体が大きくなると延長する手術が必要になる場合もあります。

2. 二分脊椎

脊髄髄膜瘤や脊髄披裂(図4a、b)と呼ばれる開放性二分脊椎と脊髄脂肪腫や先天性皮膚洞などの閉鎖性二分脊椎に大別されます。

図:正常の胎児 図:脊髄髄膜瘤をもった胎児
図4. 正常の胎児(a)と脊髄髄膜瘤をもった胎児(b)

脊髄に皮膚が覆われていない場合には生後24〜48時間以内に皮膚を覆う修復術が必要になります(図5a、b)。

写真:出生直後の脊髄髄膜瘤 写真:修復術を行なった後
図5. 出生直後の脊髄髄膜瘤(a)を同日に修復術(b)を行った。

最近では当院も胎児診断が多くなり、8割以上の赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる時に診断されます。当院では37週前後で予定帝王切開で児を娩出させ、同日に修復術を行うようにしています。水頭症を合併している場合には同日もしくは後日にVP shunt術を行います。

閉鎖性二分脊椎である脊髄脂肪腫や先天性皮膚洞などは乳児期に腰背部や臀裂部の皮膚陥凹や臀裂のゆがみなどで発見されることが多いです。当院では脊髄MR画像で、脊髄脂肪腫や肥厚性終糸などを認めた場合で、かつ膀胱直腸障害や腰痛、下肢痛、下肢の脱力などがある場合には脊髄係留解除術という手術を行います。肛門括約筋や下肢の筋電図を術中にモニタリングしながら、安全な手術を行っています。二分脊椎症は成人してからも悪化したり、再燃したりする病気です。当院では成人した患者さんも検査を行って治療可能な状態であれば手術を勧めています。

3. 頭部外傷

小児の頭部外傷は24時間体制で受け入れており、緊急手術にも対応しています。新生児、乳児の集中治療室で乳児期の頭部外傷も専属の新生児内科や小児科医やスタッフと連携して治療にあたっています。特に児童虐待による頭部外傷などで硬膜下血腫を起こした場合には死亡したり、重度の後遺症を残すことが知られており、児童相談所とも連携して治療にあたることもあります。

4. 頭蓋骨縫合早期癒合症

頭蓋骨には赤ちゃんの頃から成人になるまで骨縫合と言われる骨の継ぎ目があります(図6a、b)。

写真:赤ちゃんのころの頭蓋骨の縫合線 写真:成人になった時の縫合線
図6. 赤ちゃんのころの頭蓋骨の縫合線(a)と成人になった時の縫合線(b)

この部位から新しい骨ができていくことで、頭蓋骨が大きくなります。この疾患は骨癒合が早期(乳児期から小児期)に閉鎖(癒合)し、頭蓋骨が大きくなれず、さらに変形して行く病気です(図7a、b)。治療法には以下の方法があります。

写真:正常乳児の頭蓋骨の縫合線
図7. 正常乳児の頭蓋骨の縫合線(a)と一部の縫合線が早期癒合し(b)、舟状変形した乳児の頭蓋骨(c)
拡大頭蓋形成術

変形した頭蓋骨を一度、頭蓋骨から外して、形を整えてから、吸収プレートで固定し、頭蓋の形状を整える手術です。一期的に頭蓋骨のプロポーションを整えるので、1回の手術で終了しますが、やや出血量が多くなり、輸血の問題が生じます。生後3ヶ月から行うことができます。斜頭蓋で前頭骨や眼窩の変型が著しい症例(図8a、b)は頭蓋形成術で一期的に修復し、美容的に問題なく改善します(図8c)。

写真:眼窩変形を伴う斜頭蓋の乳児、乳児の頭部3DCT、6歳になった時
図8. 眼窩変形を伴う斜頭蓋の乳児(a)の頭部3DCTでは右の縫合線が早期癒合し消失(b)。
拡大頭蓋形成術を施行し、6歳の学童期になっても新たな変形は生じない(c)。
骨延長法

骨は基本的に骨癒合した病変部を切除し、骨延長器(図9a)を取り付けて、1日0.5〜1.0mmずつ骨延長を行い、3〜4週間かけて計20〜30mmほど骨を拡大します(図9b)。

写真:骨延長器 写真:頭蓋骨に骨延長器をつけた状態
図9. 矢状縫合に沿って骨延長器(a)を頭蓋骨につけて、3〜4週間かけて20〜30mm骨延長します(b)。

この後、一度退院し、2〜3ケ月後に骨延長器を外す手術のために再入院します。2回の手術が必要になりますが、A)の治療法に比べ、頭蓋骨を大きく拡大できるばかりでなく、輸血を行うリスクが軽減できます(図9c)。生後6ヶ月ぐらいから2歳ぐらいまでに行うことが効果的です。

写真:延長した部位に新しい骨ができた状態
図9. 2〜3ケ月後に骨延長器を外す手術を行う頃には延長した部位に新しい骨ができます(c)。
内視鏡支援下頭蓋開溝術および術後ヘルメット療法(図10)

最近、注目されている低侵襲な治療法ですが、生後3ヶ月までが治療のリミットです。これを超えると治療効果が得られないので、早期に診断された場合に治療選択の一つとなります。

写真:ヘルメットをつけた乳児
図10. 生後1ヶ月で頭蓋骨縫合早期癒合症と診断された赤ちゃんに対する内視鏡支援下頭蓋開溝術およびヘルメット療法

5. くも膜嚢胞

生まれつき、くも膜の形成過程で異常が生じて、くも膜による嚢胞が頭蓋内にできたものです。小児に多く認められ、嚢胞が脳実質を圧迫したり、髄液循環を悪化することで症状(頭痛、嘔吐、発達障害、痙攣、頭囲拡大など)が出現します。局所神経症状や頭蓋内圧亢進症状を呈しているものが手術適応となります。外科的には嚢胞腹腔短絡術や小開頭嚢胞壁切除術、あるいは神経内視鏡下の嚢胞壁穿孔術が行われ、当院でも症例に応じて治療法を選択して治療を行っています。

その他の疾患についての検査、診断および治療に関しては当院の小児神経外科 外来にお問い合わせください。