色盲
色はどのようにして見分けることができるのですか?

私たちが色を見分けるからくりを説明しましょう。

眼底に投影された光は網膜にある視細胞に吸収されます。視細胞は青、緑、赤の光をよく吸収する3種類の色素をもっています。テレビのスクリーンを近くから覗くと、青、緑、赤の粒がモザイクのように並んでいますが、眼の網膜でも同じように3種類の色素が密集しているのです。
このような色素によって吸収される光の割合が物によって変わるので、さまざまな色を見ることができるのです。

網膜の色素は蛋白質でできており、それぞれが別々の遺伝子のはたらきで作られています。最近の研究によって、このような色素を作る遺伝子のことがよくわかってきました。


色盲・色弱はどうして起こるのですか?

3種類の色素のどれかが欠けていたり、十分に働かない眼が色盲・色弱と呼ばれるのです。 赤または緑の色素に問題のある場合を、まとめて赤緑異常といいます。 青の色素に問題のあるのは世界中でも数人くらいときわめて稀なのです。

赤緑異常をもつ人に協力していただいて遺伝子を研究すると、赤か緑かどちらかの色素ができなかったり変形していたりするのがわかります。

このような色素を作る遺伝子は性染色体の中にあります。遠い先祖で遺伝子が変化し、それが受け継がれながら赤緑異常が起こりますが、赤緑異常は性染色体を1本だけもつ男子にもっぱ らみられます。女子には滅多に起こらないのです。


色盲や色弱のちがいはどうですか?症状はどうですか?

赤緑異常をもつ人を調べてみると、普通の人にかなり近い色弱と診断される場合から、 はっきりと違っていて色盲と診断される場合までまちまちです。

詳しい検査によって程度を評価することができますが、医学的にはともかくとして、まあ同 じようなものと考えて差し支えありません。

ところで、赤緑異常の人は色の区別ができないとか、日常生活に困難を感じるとか、そのように思い込むのはまったくの偏見です。

視力はもちろんですが、色の区別もかなりの程度までできるのです。従って、「色盲」という言葉はもともと誤りなのです。
学校などで正常の子供は区別ができ、赤緑異常の子供は区別しにくい検査表を使った検査が行われます。これを色覚検査表と呼びますが、日常的な色の世界からへだたった色を使って詳しい評価をしようとして考えだされたものなのです。
確かに色覚検査表は読めないのですが、日常の世界ではあのような色の配列を区別する機会は滅多にありません。その子供がもっている能力によって、ほとんどのものは区別できているのです。

たとえば、街の広告にしても交通信号にしても読み取ることができます。
職業の選択も特別な場合を除けば問題がなくなりました。たとえば、人命を預かる医師の場合もまったく問題のないことがはっきりしています。私の周囲にも、眼の病気に対する細かな手術を適切に行っている医師がおります。


色弱から色盲に進むことはありますか?

生まれつきのもので進むようなことはありません。
網膜の色素を作る遺伝子が変化しているためですから、生涯変わりようがないのです。


色盲・色弱の方にアドバイスを。

色盲であれ色弱であれ、日常生活はもとよりのこと、就職に際しても心配されることはないと思います。社会の理解もおいおい進んでいくことと思います。

色盲といい色弱といい赤緑異常は、遺伝子のちょっとした変化が原因であることがはっきりしています。繰り返しますが、色盲や色弱は健全な生活を送るのに支障となるものではありません。人類の進化の長い歴史の中で、網膜の色素を作る遺伝子に起こった変化をたまたま受け継いできたのです。世界の5%ほどのきわだって多数の男性が色盲や色弱を生む遺伝子をもっているのです。このような遺伝子が健康な生活に支障を来すとすれば、これほどありふれて存在するはずはないのです。

色盲や色弱という眼は太古の昔からあったのですが、そのことを人類が知ったのはせいぜい200年前のことです。
我が国で色盲・色弱のことに関心がことのほか高いその理由にはふれませんが、特有な社会現象といわれています。
色盲、色弱という言葉が死語になることが期待されますし、学校での色覚検査は廃止しようとする考え方もあります。

世の中には健康を大きく損ない、予防や治療に関心を払うべき本当の意味での遺伝病が少なくないことを忘れてはいけません。


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