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3.L型Caチャネル (Cav1.2) の活性調節機構

Caチャネルは、細胞内へのCa2+の流入量を調節し、細胞の興奮性に寄与しています。Caチャネル自体も細胞内Ca2+濃度の増減により活性が変動します。私たちは、パッチクランプ法を用いてCav1.2チャネルの調節に関わる細胞内因子の
探索とその制御機構の解明を進めています。

【inside-out patch記録法について】
Inside-out patch記録法とは、細胞に密着させた(Cell-attached)電極を引き離し、電極先端にシールされた細胞膜にあるチャネルの活性を電流を測定することにより解析する方法です。Caチャネルの調節機構は複雑です。Inside-out patch記録法は付加する溶液を任意にコントロールできるため、複雑な細胞内環境から切り離した状態で、チャネルの活性を解析できる利点があります。
inside-out patch記録法イメージ図
@ カルモジュリン(CaM)とATPがチャネルの活性維持に必須である。
Cell-attachedからinside-out patchに移行すると、数分の内にチャネルの活性は消失します(run-down現象)。私たちは、CaMとATPを付加することにより、チャネルの活性がinside-out modeでも維持されることを見出しました(Xu et al., 2004)。つまり、inside-out modeではチャネルからCaMが解離するために活性が失われることから、CaMはチャネルの活性維持に必須の因子であることが示唆されたのです。CaMは、細胞内に恒常的に存在するCa2+結合蛋白で、Caチャネルの他にも様々な蛋白質の活性調節に関わることで知られています。しかし、CaチャネルのCaMによる制御機構については未解明です。
A カルモジュリン(CaM)濃度依存性のチャネル調節機序がある。
CaチャネルにはCa2+濃度依存性の活性化(CDF)と不活性化(CDI)がありますが、私たちはinside-out modeにおいて、Ca2+濃度を一定の条件にしても、CaMの濃度を変えることにより、チャネル活性が変化することを報告しました(Han et al., 2010)。このCa2+濃度非依存性の活性変化はCaM濃度に依存した調節機構があることを示唆しています。Pull down実験の結果から、チャネル1分子に2分子のカルモジュリンが結合することが示唆されました(Minobe et al., 2011)。そこで従来の1分子のCaMによるチャネルの制御モデルに対して、新たに2CaM結合モデルを提唱しました (Han et al., 2010)。低濃度Ca2+で1つのCaMがチャネルの活性化部位に作用し、高濃度Ca2+ではさらに別のCaMがチャネルの不活性化部位に作用するという仮説です。
B カルモジュリン(CaM)によるチャネル活性化の結合部位はIQドメインである。
CaMのほかに、カルパスタチンのLドメイン(CSL)がチャネルを活性化する作用を持つことを報告しました(Minobe et al. 2006)。CaMとCSLをチャネルに同時に付加すると、CSLはCaMのpartial agonistとして作用することが明らかになりました(Minobe et al. 2011)。Pull down実験の結果から、CaMとCSLは競合的にチャネルのC末端部にあるIQドメインに結合するため、IQドメインがチャネル活性化の責任部位であることが示唆されました。
C Aキナーゼ(PKA)によるチャネル活性化のリン酸化部位は1574セリンである。
PKAは、チャネルをリン酸化し促通作用を示しますが、その責任部位は同定されていません。チャネルのPKAリン酸化配列に変異を導入し、cell-attached modeでForskolin(アデニル酸シクラーゼを活性化しcAMP濃度を上げる。)の効果を調べました。その結果、1574セリンと1626セリンがチャネルの促通に重要であることが明らかになりました(Minobe et al., 2014)。
D チャネルのC末端配列の自己抑制機序の解明
チャネルのC末端配列は自己抑制作用があることが報告されています。C末端配列を欠損させた変異体(Minobe et al., 2017)やC末端配列ペプチドを用いた実験によりその分子機構を明らかにします。
このようにチャネルの活性制御には様々な因子が関与するため、
私たちはCaMを主因子として、ATPやキナーゼの作用に加え、
Ca2+濃度やpH変化の作用など細胞内の環境を考慮し、
複合的にチャネルの活性調節機構をとらえることを目指して
います。
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