研究内容

1.臨床研究

■ 心臓血管外科

虚血性心疾患

a) 腎機能障害患者に対するCABG:当科では以前は敬遠されがちだった透析を含む腎機能障害の患者さんに対するCABGも積極的に行い、従来の人工心肺装置使用の心停止下CABGと心拍動下CABG(OPCAB)の術前・術後腎機能を比較・検討することで、EvidenceとしてOPCABの優位性を明らかにしました。

b) 虚血性僧帽弁閉鎖不全症の外科治療:虚血性僧帽弁閉鎖不全症は、その発生機序が複雑なため未だその治療体系が整っていない循環器内科・心臓外科共通のLast frontierと呼ばれる疾患です。当科では、根本的な病因が僧帽弁でなく左心室及び腱索や乳頭筋などの弁下組織である点にいち早く注目し、従来の僧帽弁輪にリングを縫着するだけでなく、これら弁下組織に対して外科的手技を加える治療戦略で臨んできました。その臨床成果は、数多くの国内外の学会にて発表し、論文にも掲載されました。

 

c) 虚血性心筋症の外科治療:虚血性心筋症は、心筋梗塞後に左心機能の低下と共に左室が次第に拡大していくため心不全を繰り返し、内科的治療が困難となる疾患です。この疾患に対し左室の梗塞部位を切除し、球状に拡大した左室を基の紡錘形に可及的に戻す左室形成術を積極的に行ってきました。特に、梗塞部位及び範囲によって術式を選択するなど、他に殆ど例を見ないような治療戦略を選択し、その臨床成果は海外でも注目されてます。

 

弁膜症

a) 変性性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術:当科では約300例の手術症例があり、術後中間期成績は勿論、術中残存逆流に対して再度心停止下形成を要した症例、術中・術後にSAM (systolic anterior motion)を発症する症例、三角切除vs四角切除の検討を行いました。

 
 

b) 僧帽弁形成術術後の三尖弁閉鎖不全症の経過:三尖弁はValve of Cinderellaと言われ、大動脈弁、僧帽弁と比べ殆ど外科的注目を浴びて来ませんでしたが、現在、国内外でホットな話題に成りつつあります。三尖弁閉鎖不全症は僧帽弁疾患の2次性変化と考えられ、僧帽弁手術にて自然に改善すると想定されてきましたが、術後の詳細な追跡調査の結果、術後も継続・増悪する症例も多いことが判明しました。

 

c) 大動脈弁狭窄症への弁置換手術時の大きな問題として、元々狭い大動脈弁の周囲(弁輪)に、その患者の体格に適した人工弁が入るかどうかで、一定基準より小さい弁しか逢着できない場合は、手術前ほどはないにしても大動脈弁狭窄の状態が残存することになり、日常生活上大きな問題になると言われてきました。しかし、当科での詳細な検討より、一定基準を下回る場合でも必ずしも心エコー上のパラメーターや活動能力が、基準を満たす場合と比べ有意に低下する訳ではなく、患者さんの年齢や活動能力に応じた弁の選択が重要であることが判明しました。

 

大動脈疾患

過去十年間の最も大きな進歩の一つは、開胸して人工心肺装置を用いた大掛かりの手術に代わり、患者さんにとって遥かに低侵襲な手術として、血管内治療であるステントグラフト治療が臨床に導入されたことです。当科では、早い時期より取り組み、特に胸部下行大動脈瘤の切迫破裂や破裂時の肺への穿通による大量喀血患者に有効であることが判明し、その成績の発表は学会の最優秀賞を受賞しました。 (優秀演題)

<感染性大動脈瘤と臓器穿破・損傷を伴う大動脈疾患に対する治療戦略>

感染性大動脈瘤ならびに臓器穿破や臓器損傷を伴う大動脈疾患は、人工血管感染を防ぐために感染巣の完全郭清や術後の強力かつ慎重な抗生剤投与が必要で治療困難な疾患です。治療法にはextra-anatomical bypass、大網充填、ホモグラフトや抗生剤浸漬人工血管など様々な手段が用いられていますが、その治療成績は未だ不良です。感染が危惧される症例に対する当科の治療方針は,術前感染をコントロールした上でhomograftによる置換術を基本としていますが、手術の緊急性と感染の重症度を考慮して、抗生剤浸漬人工血管置換術、bridging therapyを含むステントグラフト内挿術、通常の人工血管置換術を選択しています。感染性動脈瘤,臓器穿破や臓器損傷を伴う27例の検討を行い、緊急性が高い臓器穿破や臓器損傷を伴う大動脈疾患で,低侵襲なステントグラフト治療は有用であるがSG特有の合併症に注意が必要であること、Homograftはその抗感染性から最も有力なmaterialであるため、homograft置換までのbridging therapyは有益な治療戦略であった事が結論として導かれました。

2.実験研究

■ 心臓血管外科

胸部下行大動脈瘤または胸腹部大動脈瘤手術時の最大の問題は、大動脈遮断に伴う脊髄虚血の結果生じる下肢麻痺及び膀胱直腸障害を如何に予防するかです。一旦下肢麻痺となった場合、その患者は2度と立つことが出来ず、身体的にも精神的にもその後の人生に大きな影を落とします。また患者のみならず介護する家族の負担も大です。この問題解決に向けて過去20年に様々な外科的手法が試みられて来ましたが、未だに発生率が10~30%に及ぶ重大な合併症です。当科では5年前より脊髄虚血予防の実験を開始しました。内容ですが、血流低下及び血流再開時の細胞障害(虚血・再潅流障害)を軽減する効果を有する薬物を使用し、またその投与方法も全身投与でなく障害を起こす脊髄に直接注入する方法を取り入れた独自のウサギの実験系を用いました。ウサギの脊髄に一定の虚血障害を作成し、それら薬物の効果を判定してきました。既に2人が実験を終了し、あと1人は終了間際です。

また、当院の臨床研究部門の全面的協力を得て、神経細胞を使用したinvitroの実験を行っています。方法として神経細胞を一定時間虚血として、様々な薬物を前投与した群としなかった群で生存率を比較しています。このようにinvivoとinvitroの両面より、この重篤な合併症撲滅に向かった研究を日夜行っています。

■ 消化器外科

人体がん病理学講座に大学院生として在籍して、膵胆管系腫瘍においてのムチン性糖蛋白、なかでもMUC4(気道型膜結合ムチン)の発現を主に組織学的に検討して、膵胆管系腫瘍における新たな予後因子としての可能性を追求する研究を行っています。長期的な展望としては、早期発見や予後予測、治療に役立ちうる新しい知見が明らかになるのではと期待してます。