虚血性心疾患

冠動脈バイパス術

冠動脈の狭窄、閉塞により心筋梗塞を起こしてしまいますと、梗塞部位が生き返ることはなく、生命予後に直結します。心筋梗塞に陥る前、すなわち心筋のダメージはなくとも酸素不足を起こしている状態のうちに、血液を再潅流してやると心臓イベント(梗塞、心臓死)の発生リスクを減らすことが可能です。この治療手段が内科的療法ではカテーテルインターベンションですし、外科的治療では冠動脈バイパス術です。お互いの長期成績や病変の形態などで日本循環器学会等のガイドラインに基づき、いずれかの治療法が決定されます。冠動脈に対するバイパス手術のみであれば必ずしも心臓を停止させる必要はないため、人工心肺を使用せずに行う「心拍動下冠動脈バイパス手術」が、特に日本ではこの20年弱で急速に広まりました。 この背景には人工心肺使用(心停止下)による手術後は心拍動下手術に比べて回復に時間がかかること、動脈硬化の強い患者での術中脳梗塞(送血、大動脈遮断によるアテローム飛散)の発生の問題などがあります。心拍動下バイパス手術は人工心肺関連合併症が無くなるため、日本全体では心拍動下手術が人工心肺下手術より多いという現状ですが、心停止下、心拍動下手術のどちらの方法も精緻に行われるため得られる結果に大きな差はなく、人工心肺関連合併症も工夫により低く抑えられますので、いずれの方法も比較的安全な治療になっています。当院でも心拍動下バイパス手術を相当行っていますが、従来の人工心肺下での成績も良好でしたので、あまり無理をせず、患者さんの状況、冠動脈の性状を最重視して手術法を決定しています。すなわち、せっかく胸を開けるのですから完全血行再建を目指すのは勿論のことで、「吻合の質を絶対に落としてはならないこと」を第一に考えています。バイパスは流れなければ意味がなくなります。上行大動脈の動脈硬化、腎機能障害がなく多枝(4〜7箇所)の完全血行再建をめざす例、冠動脈内膜摘除やon lay吻合なども行う場合(冠動脈性状が悪すぎる例)、心拍動下では展開困難な箇所をしっかり検索、吻合したい場合などでは人工心肺下手術を選択することが多く、腎機能障害、上行大動脈硬化例(人工心肺合併症につながりやすい例)、頸動脈狭窄が高度で脳血流に問題のある例、がん患者、1〜3箇所程度のバイパスでは心拍動下バイパスを選択することが多いです。基本的には静脈グラフトよりは動脈グラフトの使用を優先しております。また、以前冠動脈バイパスを受けたことのある方の弁膜症手術、再冠動脈バイパス手術なども行なっております。

虚血性心筋症及び虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する手術

1.はじめに

冠動脈が急に詰まってしまうと急性心筋梗塞になり、血流が無くなった心臓の筋肉は壊死に陥り、最悪の場合破裂し死に至る場合もあります。運よくこのような危機を乗り切れても、梗塞(壊死)の部分は収縮出来なくなり、時間が経つと共に薄く硬い組織に置き換わり、心臓のポンプとしての機能は大幅に低下します。また収縮しない部分が増えた分、より健常な部分への負担が持続的に増大し、心臓全体が次第に拡張し、さらに収縮する力が低下していきます。この経過は心筋梗塞後のリモデリングと呼ばれる変化で、心臓の全体的な収縮能低下から内科的治療に抵抗する重症心不全を繰り返すようになります。この病態を虚血性心筋症と言います(図1 )。

一方、このような経過で心臓が拡大すると、次のような変化が起こります。心臓の中の左上の部屋(左房)と左下の部屋(左室)を境する僧帽弁と呼ばれる弁がありますが、梗塞後左室拡大で心臓が大きくなると、その弁を引っ張るパラシュートのヒモ(腱索と言います)のような組織もその根っこ(乳頭筋と言います)ごと外の方向に移動します。その結果、僧帽弁まで引っ張られて、弁の先が合わなくなり(閉鎖不全と言います)、逆流を起こします。このようにして引き起こされる弁の逆流を虚血性僧帽弁閉鎖不全症と言います(図2 )。

2.虚血性心筋症に対する手術

心筋梗塞後のリモデリングの結果、1)高度の心不全 2)心臓の高度の拡大 3)心臓の収縮する力の高度の低下の条件を満たし、心臓の超音波検査や心臓カテーテル検査の結果、拡大した左室を縫い縮めることが出来る場合には、 図3  で示しますような手術(左室形成術)を行います。上から順に須磨先生、松居先生、Batista先生が考案された手術法で、梗塞部位や範囲によって使い分けています。

3.虚血性僧帽弁閉鎖不全に対する手術

虚血性僧帽弁閉鎖不全に対する手術として、CABGに加えて 図4  のような僧帽弁の周囲にリングを縫い付け周囲を縮める方法が一般的ですが、これに加えて 図5  のように離れてしまったその付け根の部分(乳頭筋と言います)を吊り上げたり、寄せたりして、僧帽弁を引っ張る力を減らすことで逆流をなくす手術もしています。

当科では、適応があれば左室形成・左室縮小手術と、僧帽弁とその弁下組織に対する手術(僧帽弁形成術)を組み合わせる手術を施行し、概ね良好な結果を得ております。